第五章「隠し扉の真実」第一話 サスペンスと言えば崖や(三)
(三)
「おおっウガンダやないけぇ、久しぶりやのぉ」
と大きい声で、話す男。山本五十八巡査部長。
こいつも警察学校の同期で、巡査の時に結婚していて、すでに三歳と一歳の子を持つ親でもある。
身長は百八十七センチ、体重八十キロという大柄な体格で、映画監督のようなひげを蓄えている。現在は専従捜査官として舞鶴管内で起きた未解決の女性刺殺事件を追い続けている……らしい。
俺が宮津署で駐在所暮らしのときは、こいつとしょっちゅう飲み歩いた。
「君が神楽ちゃんか。噂はここまで聞こえとるで」
五十八が馴れ馴れしく握手をしようとしたので、耳元で「言うとくけど、こいつ警部やしな」と、教えてやった。
すると、五十八は目を見開いて、まるで大名行列を見送る町民みたいにひれ伏した。
「大月警部殿、お初にお目にかかりまする」
《一体こいつは、何と勝負しとんねん》
俺は、ひれ伏してる五十八に、冷たい視線を送っていた。
「普通にしてください」
神楽が、少し困った顔で俺を見て言った。
ちなみに名前は五十八と書いて、いそはちと読む。
同じ山本姓で、祖父が山本五十六連合艦隊司令長官を尊敬していたらしい。
「五十六は恐れ多い」
ということで二つ足して、縁起のいい「八」とし、五十八と命名したという話や。まあそんとき、司令長官を超える人間になってほしいと願いを込めたかどうかまでは、俺は知らん。
「ほな、ええ刺身食わしてくれる店あるし、案内したるわ」
五十八はそう言うと、俺たちを舞鶴署の外へ連れ出そうとした。
「おい、ちょっと待て」
「ん? 何や。観光の方がええか?」
「仕事や」
と、五十八の腕を掴んで俺は言った。キリッとした目の裏には、豪勢な料理と温泉がちらついていた。
その料理たちと、脳筋の暑苦しい顔……勝負は、闘う前から決まっていた。
「ああ、そうやったな。こっちや」
と言って五十八は会議室へ案内してくれた。
会議室で神楽は一連の事件の詳細を話していた。そこで問題は、髙井正弘の命が危ないという話へと移った。
柴田修一が、現在釣りのために小浜にいる。しかし、娘の復讐のために、四年前の事件に関わった人間を順番に追っているとしたら、次に狙われるのは髙井正弘である可能性が高い。逮捕状云々の前に、生きて見つけなければならない。そのため、舞鶴署には京都府側の北部ルート全域に緊急配備を敷いてもらうことになった。
「おお、丁度ええ時間に電車あったわ」
会議も終了し、俺と神楽が車に乗り込もうとしたとき、五十八が、電車の時刻表を見て話し出した。
「何がや」
「何がやって。そんなん決まっとるやろ。小浜まで電車でいくねん」
「何しに……」
「何しにって、呑みに行くに決まっとるやろ。相変わらずおもろいやっちゃな」
いや。おもんない、おもんない。お前のことはツレや思っとるけどや。山海の珍味や温泉と比べたら、富士山と蟻くらい差があるで。
「五十八」
俺は、親指で神楽を指さして、五十八に「気づきや」と促した。
「おお、そうか。そうやったの」
「五十八、わかってくれたか」
「それはすまなんだ。わしもいま気付いたで」
「ありがとうな」
「気にすんな。こう見えてもわしは気が利く方やからな」
男のツレってええもんやなと思った。細かい言葉なんて必要ないねん。




