第四章『開かれた扉』第二話 煙草ぐらい自分で買おな (七)
(七)
大迫百合との会話を捜査一課長・山際のおっさんに報告し、俺と神楽は探偵事務所への聞き取りに向かうことを了承してもらい、車で向かう事にした。途中、未央から連絡が入って、ことの詳細を伝えると「私も話を聞きたいですぅ」と、せがんできたので、神楽に了承を貰い同伴することになった。
そこまでは、まぁええとしよう。俺も大人や。少々のことで怒ってたら切りがあらへん。
未央は、あろうことか二条駅まで迎えに来いと言いよった。
駅から修一の事務所までは、五分もかからんとこにある。それを、警察車両で迎えに来させようという魂胆に、俺はムカついた。可愛い顔をして、ずけずけと人の懐に入ってくる。マジで怖いやっちゃ。
《図々しいにも程があんねん。警察をなんや思てんねん!》
「何を考えているんですか」
神楽が、ブツブツ言うてる俺の顔を覗き込むようにして、話しかけてきた。
「多分やけど、枕もあったと思うで」
迎えに行きたくないと思われたら、後で何をチクられるかわからんので、咄嗟にさっき会っていた百合の話を持ち出した。
「そうですね。私もそう思います。あくまでも推測に過ぎませんが、その枕の中に何かが隠されていた……いえ、大迫真司が隠したとみて、考えてみるのがいいかと思います」
神楽が、窓の外を眺めながら話した。
「でも、桔平ちゃんは身体を休ませた方がいいとも思っています」
「そうやな……」
実際、退院してからは、署に泊まり込み状態やった。まさしく警察官の鏡見たいな男や俺は……。
山際のおっさんも「しばらく、ゆっくりしいや」と、気遣ってくれた舌の根も乾かぬうちに、「ビックマック買うてきてや」と、仕事を押しつけてきよった。
神楽は引っ越しの準備とやらで、家に帰ってる日もあったが、八幡におるときは、ほぼ「ビジネスホテル」に泊まっていた。さすが警察庁の幹部候補や。
《偉そうに》
そやけど俺も大人や。そう思ぅても口にはせん。男っちゅうもんは、背中で語る生き物や。
なので《毎日ホテルって贅沢やねん》と、全身で文句を言うたけど、神楽に届くことはなかった。
二条駅で、嫌々未央を拾い、修一の探偵事務所へ向かう。
「すぐそこやんけ。歩いて行け」
俺は、本心を言った。
「いやぁ、汗はかきたくないのでぇ」
《警察車両を足代わりにしとる方が問題やろ》
とは思ったが「まあ、いいじゃありませんか」と神楽が言うので、「お前、今日は特別やぞ」と未央に言って、渋々一緒に行くことになった。
探偵事務所に到着して、挨拶もそこそこに奥の部屋に通された俺達は、柴田修一の不在をまりかから聞いた。
「どちらに行っておられるのですか?」
と、神楽がまりかに聞いた。
「福井県です」
「何をしに行かれたのですか」
「釣りです。毎年この時期には福井の小浜に行かれます」
《そういえば、このまえ、修一はそのようなことを言うとったな》と俺は、今更ながら思い出した。
「あの」
まりかが改まって、俺らに訊いてきた。
「もしかして所長を疑っていらっしゃいますか?」
おお、ド直球な質問や。
普通は捜査情報としては「え、何のことですかぁ」とか言うて、話をはぐらかすのが定石なんやけどや――神楽はちゃうでぇ。
「はい。疑っています」
きたーっ。
俺の予想通りや。
やはりこいつは人の斜め上を、平気で唾を吐きながら歩きよる。
「それと、あなたも。織田まりかさん」
……いや、そこは言うたらあかんやろ。
フッと、まりかが笑うたのが意外やった。
「どうして私が疑われるのですか」
言葉は冷静や。けど若干、声のトーンに変化がある。
「織田祐輔さんはあなたの弟さんですよね」
「はい。祐輔は私の弟ですが、五年前に……」
まりかは祐輔のことを思い出したのか、声を詰まらせた。遺族にとっては、五年経ってるやなくて、まだ五年しか経ってないんやな。
「知っています。弟さんの話を聞かせてもらえますか」
神楽が優しい声で訊いた。長い付き合いやから知ってるけど、こいつのこの口調で話をするときの目ぇは、強いて言うなら周囲に擬態して獲物を狙う蛇の目や。
俺も、小さいときからその目に騙されて、何度も痛い目に遭わせられている。




