第四章『開かれた扉』第二話 煙草ぐらい自分で買おな (六)
(六)
「奥様の心中お察しします」
と、神楽が百合へ気遣うように言った。
「このやりとりを見ていると、ご主人が山根あかりにとって、本命のように見えたのですが」
「そうです。私もこのメールを見て、初めて理解できました」
「それはなぜですか?」
「調査であの女が住んでいるマンション自体は直ぐに見つけることが出来ました。でも、男の出入りが激しすぎたこともあって、旦那があのマンションへ入る決定的なところまでは押さえられなかったんです」
百合が唇を噛んで、悔しそうな表情をした。
「それまでろくに帰ってこなかった旦那が、四月頃から急に帰ってくるようになって、怪しいなとは思ってましたので、お風呂に入っている間にスマホを見ました」
「スマホのロックはかかっていなかったのですか?」
「彼はずる賢くても、単純な馬鹿です。暗証番号などは全て誕生日にしていたので、すぐに解除できました」
自分の旦那を、しかも死んだ人間を捕まえて「馬鹿」と、平気で口にできるんや。
浜田が、大迫と奥さんは、結婚して七年らしいと言うとった。人生のたった七年でこんなにも夫婦の気持ちが冷めてしまうんやろうか。
俺は改めて、百合を観察した。旦那が死んで、悲しむ素振りもあらへん。まあ、他人に本音は見せたくないだけかも知らんけど。
「ああ、そう言えばもう一つ確認しておきたいことがあります」
神楽が何かを思い出したかのように手帳を開いて百合に訊ねた。
「ご主人が駐車場に何か……パソコンや枕などをガレージに運び込んでいませんでしたか?」
室田康太や大野晴子、それに山根あかりの時もそうやったけど、部屋にパソコンがあったであろう痕跡はあった。
《そやけど、神楽。それは飛躍しすぎとちゃうか》
「枕は知りませんが、パソコンはありました」
やめとけ、と合図を送ろうとしたとき、百合はあっさりと認めた。その百合の言葉に神楽が身を乗り出した。
「それはいつ頃の話ですか?」
「五月一日の昼頃です」
その日付は山根あかりが絞殺体で見つかった日でもある。
「よく日付まで覚えておられたんですね」
と、俺は嫌味を交えて訊いてみた。
「はい。探偵さんに主人の行動を、細かく監視するように、言われてましたから」
なるほど……な。
《探偵事務所にそう言われてたんやったら、問題はあらへんな》
と、内心悔しがった。
「パソコンは三日前の事件の時にはありませんでした。そのことを奥様はご存知でしたか?」
神楽が手帳を見ながら、事件当時の話を持ち出した。
「いえ、旦那がどこで何を、どうしようと私は興味がないので、そこまではわかりません」
百合の答えは一見、理路整然としていて、まるで隙がないように思える。
が、そこがスキンヘッド安田やウルフカット浜田のような「脳筋」とは違う、俺の「論理派」として、鋭い勘が働いた。
《この女は協力しているように見せて、あえて大事なことを隠しとる!》
これや。
ただ、旦那が死んだというのに、涙一つ見せずにクズと平気で蔑む嫁。しかも、事が大きくなると理解して、俺達に情報を提示してきた。その行動の裏に、見えない悪意を感じた。
安田や浜田みたいな、脳筋夫婦のいちゃつきを見せられたらムカつくけど、こういう冷め切った夫婦関係は、一番見たくない光景やった。




