第四章「開かれた扉」 第一話 騙す方が悪いに決まってんねん!(一)
(一)
柴田修一が渡してくれたデータを、科捜研に回して解析を依頼した。
その後、二時間にもわたる有意義な捜査会議が終わり、俺は八幡署の屋上にある、オアシス(喫煙所)に来て、疲れた心を癒やすように一服していた。
煙を深く吸い込んで、一呼吸おいてゆっくりと吐き出す。
これぞ至福の一時や。
《マジでこいつらと、一緒やなかったら……やけどな》
相変わらず神楽と未央は、何も喋らず、ただ黙々とスマホをポチポチやっている。
……毎回やな、こいつら。
「お前ら、暇なんやったら、仕事せいや」
と、俺は改めて二人に言った。
「嫌です」
神楽が顔を上げずに答えた。
「公務執行妨害で逮捕しますよ」
「何でやねん」
こいつはほんまに、一言多いねん。
そして俺は最近、予知能力という技が身についた。
次に未央がプッと笑う……と、俺は予想した。
「プッ。めっちゃ受けるぅ」
と、未央が大笑いした。
《ほれ見てみ。当たりや!》
俺は心の中で一人喜んだ……はぁ。虚しいな。
「ところでお前、何でここにおんねん」
「え? ひどっ」
まあ、ここまではお決まりの会話やな。
「で、何か掴めたか?」
俺が話を戻すと、未央は、「はい。まず『ライフ詐欺』で検索してみましたぁ」と、何か自慢してるようにスマホを見せてきた。
「どうでしたか?」
神楽がスマホから顔を上げ訊いた。
「たくさん出てきました。あれで炎上しないのが不思議なくらいですぅ」
俺は、未央のスクショを見た。
「男性が三人で女性が八人です」
「何がや」
「騙されたぁっと言ってSNSでライフを晒した人数です。えーっと、これ見てください」
未央がスマホを指で操作して俺の顔に突きつけてきた。
『山野亜里砂に八百万円騙し取られた』
と書いてある、四年前のページだった。投稿者は三十一歳の男で職業はフリーターと書いてあった。
『俺が、ライフというアプリに登録して、しばらくすると、山野亜里砂とマッチングした。俺は、出会いなんて求めていない。ただ、出会う事で、お互い楽しい人生を歩めたらいいなと言うのが登録したきっかけで、好みの女性と出会って、ムフフなどという卑猥な考えはなかった』
《なるほど。そういう出会いを求めてたんやな?》
批判やないでぇと、一応言うとく。
『彼女とは、すぐに意気投合して直接会うようになった。二回目に会った時、俺たちはそういう関係になった。二人の身体の相性はバッチリだなと俺は思った』
《はぁ》
この時すでに、俺は読むことに疲れていた。
『一ヶ月ぐらいして、俺は彼女に結婚を申し込んだ。しかし、亜里砂は泣いて、いい返事をしなかった』
《ほぉ、それで》と、虚しい相づちをうった。
『理由を訊くと、親の借金があって、それを返済しなければいけないからと言った。そして、明日までに、十万円を払えなければ風俗へ売られてしまうと。大好きな女性に風俗なんてやらせるわけにはいかない。そのときの十万円は俺が立て替えた。「ありがとう」そう言って亜里砂は俺に抱きついてキスを迫った。その日、二人は激しくお互いを求め合った……』
《……そこ、必要か?》
と俺は、素直に思った。
『立て替えた金額も百万を超えた。お父さんが怪我をしたから三十万円必要だ、などと理由をつけては、俺に頼ってきた。しかし俺は疑うことはしなかった。何故なら、親父の遺産があった。そして俺たちには「愛」があったからだ。亜里砂は、いつも傍にいてくれたからだ。俺たちは、毎日ベッドの上で、お互いを求め合っていた。もちろん結婚の約束もした』
《こいつ、最後には下ネタに走りよるな》
俺は頭痛と吐き気に襲われた。
そんな俺を見て、未央は「この投稿者は猿ですねぇ」と慰めてくれた。
《ほな、見せてくんなや》
俺は、苦笑いを浮かべた。




