第四章「開かれた扉」 第一話 騙す方が悪いに決まってんねん!(二)
(二)
『ある時、見知らぬ番号からメールが入った。映像も一緒に添付されていて、そいつは亜里砂を縛っている。この女を自由にしたかったら父親の借金七百万円を立て替えろと言う。覆面の男が映っている後方で亜里砂の悲鳴が上がっていた。俺は警察に届けようと思ったが、亜里砂を失いたくない気持ちが強かったので、「分かった」とメールを打ち、すぐに亜里砂の口座に七百万円を振り込んだんだ』
《恋は盲目ちゅう言葉があるけど、まさにそのまんまやな》
あと騙される方も悪いちゅう意見もあるけどな、やっぱり『騙す方が、絶対悪い」ねん。
『その後、亜里砂からの連絡は途絶えた。何度もメールしたし、何度も電話もした。しかし何の返事もこない。もしかして騙されたのか、気づいたのは一ヶ月後、ブロックされていることに気がついた時です』
《意外と気づかないもんなんやな》
『その後、警察へ何度も足を運びましたが、警察の対応は酷いものでした。特に最後に俺の事情を聞いた、府警本部の刑事「U」は、やる気のない顔で、「あんな、詐欺は二課や。なんで毎回捜査一課へ相談しにくんねん」と、傷付いた俺の心を踏みにじる事を言ってきました。亜里砂の写真を置いときますので、見つけたらご一報ください』
酷い刑事も居るもんや。もう少し言いようがあるやろと思いながら、俺は、貼り付けられた写真を見た。
――山根あかりだった。
「この本部のUって、桔平ちゃんですよね」
神楽が横から故知を挟んできた。
「なんで俺やねん」
「四年前、女に騙されたと言って、捜査一課に何度も相談に来ていた男を覚えています。あのとき、桔平ちゃんは宮津署の駐在所から配属された直後でした」
「ん? ああ、あのときか。山際のおっさんが俺の本部での初仕事やいうて、嫌々対応させられたあいつか」
あいつ、散々時間割いて話を聞いてやったのに、裏で俺の悪口を書いとったんかと思うと何かムカついてきた。
「ああっ。やっぱりウガンダさんだったんだぁ。やる気のないって書いてあったから、もしやと思ってましたぁ」
未央がふと、スマホをポチポチやり出した。
「何しとんねん」
「え? このこと記事にしようかと思って」
「は? 何でや」
「別に。面白いかなと思って」
「未央。○○の焼肉はどうや?」
「んー。食べ放題じゃない焼肉なら考えますぅ」
《フッ、チョロいで。これで『やる気のない刑事』っちゅう疑惑は闇に消えた》
薄ら笑いを浮かべた俺は、ふと、あることを思い出した。そのことを未央に訊いた。
「ライフって、本名必須やなかったか」
「はい。そうですよ。免許証など、確認されますぅ」
「ほな何で山根あかりは偽名が使えたんや」
「それは分かりませんが、この投稿を見て確認したいことが出来たので、友達に頼んで登録して貰いましたぁ」と言って、手を出してきた。
「何や、その手ぇは」
「このライフってアプリは、一人あたり、月四千三百円かかるんですぅ」
「……」
「で、十人で四万三千円ですぅ」
《何で俺が払わなあかんねん》
しかも、髙い金を払わされて、誰一人として出会えていない俺は、一体何やねん。
「まず、登録の時、各質問にあらかじめダグを押して決められるんですぅ」
「ダグ?」
「はい。例えば探している相手の質問では#資産家、#結婚前提とかですぅ」
「そういう感じでしたね」
神楽が急に入ってきた。
「なんでお前が知ってんねん」
「え、私も気になって登録してみました」
「……」
まじ、開いた口が塞がらんて、こういうことを言うんやな。こいつ、いつも俺の横におると思っとったら、やることはやっとんのやな。
「違いますよ。あくまで仕事の一環です」
「まま、それは置いといて。彼女達には、自由に書いて貰ったんです。ただ、自己紹介の欄に、#遊び相手に三人、#結婚前提に四人#資産ありに三人と振り分けて登録しましたぁ」
「それで結果はどないやってん」
「結婚前提の時は室田康太、資産ありは髙井正弘、遊び相手は大迫信司でした。全員偽名ではなく本名でした。プロフィール画面も全て同じです」
「つまり、AIが紹介しているのではなく、ダグによって詐欺に向いた相手を選別している可能性がある」
「そうですぅ」
「お前はどうやってん」
神楽はどうだったか訊いた。すると、神楽は遠い目をして、「全て、お断りしてきました」と言った。
「何でや」
「気持ち悪いからです。それに私はダグは使っていません」
「そう言えば、その他で自由に書けますもんねぇ」
「お前は何て書いてん」
「……」
何故か神楽は黙り込んだ。
「はよ言えや。仕事なんやろ」
「分かりました。言いますよ」
俺と未央が神楽に注目した。
「女と仕事にだらしなくて、いつも不誠実で、怖がりで口の悪い人と、書きました」
「それでどうなったんや」
「毎日三百人からメールが入ってきました」
「マジか。世の中、最低な奴ばっかりやな」
俺は、神楽の理想の男が、三百人もおることにビビってしもた。
「でも、女だけにだらしない奴とか、口が悪いだけの奴が自分自慢ばかりで……。ああ、思い出しただけでも寒気がします」
神楽は、本当に嫌そうに震えていた。
「まあ、お前が書いたような『女と仕事にだらしなくて、いつも不誠実で、怖がりで口の悪い人』みたいな奴、おるわけないやろ。ほんまにおったら是非、会うてみたいもんや」
俺は、思いっきり笑ってしまった。
「ウガンダさん。それ本気で言ってますかぁ」
「何がや」
何のことやと訊いた。
「もう会ってます」
神楽がスマホをしまいながら呟いた。
「え、マジっ」
「もう……会えています」
と、静かに言った。
未央が、口元を押さえて震えていた。
「何、笑てんねん」
「いえぇ。ウガンダさんって、ほんとすごいなぁって」
「何がや」
「その鈍さですぅ」
その後、神楽は、俺が話しかけても「ふん!」とするだけで、しばらく口をきいてくれなかった。




