第三章「不倫凸撃殺人事件」第一話・嘘つきは泥棒の始まりやで(十一)
(十一)
『いま、どの辺りですか?』
と、午後十時丁度に修一が訊いている。
いくら伏見から来たとしても、四十分くらいで到着出来てる時間帯や。
既読はついていた。
『至急ご連絡ください』
十分後、再度修一から、督促のメッセージを入れている。
『奥さんと男が出てきました』
午後十時二十分。
どうやら合流していないようや。
既読はついていない。
『証拠の映像を収めたので後日、ご連絡をお待ちしております』
これが午後十時三十分。既読なし。
このメールが最後やった。
「ありがとうございました」
と、神楽がお礼を言った。
「いえ、いつでも協力させていただきますので、何かあれば連絡ください」
「そうですか、助かります。ところで、病院へは行かれましたか?」
突然、話が変わったので、修一は驚いた表情になるが、気を落ち着かせて、「いえ、行っていませんが、何故そのようなことを訊かれたのでしょうか」と、神楽に聞き返した。
「お顔に黄疸らしきものを感じましたので」
柴田は顔を撫でて、「そうなんですね。最近、鏡など見なくなりましてね」
と、引きつった笑い方をした。
「奥さんや娘さんのためにも、早めに病院で診てもらうことをお勧めします」
亡くなった家族の為と言われて、修一は少し黙り込んだ。
「婚活サイト・ライフをご存知ですか」
「はい。ですが細かい所までは掴めていません」
神楽は正直に言った。
「そうですか。少々お待ちください」
そう言うと、修一が部屋を出て、まりかに何かを言っていた。
「お待たせしました」
修一がSDカードを俺達の前に置いた。
「これは何でしょうか」
立ち上がり駆けた神楽が、訊いた。
「ライフについて、我々が調べた資料です」
「どうしてこれを私達に?」
神楽がSDカードを手に取りながら、修一に事情を聞く声は静かやった。修一は、少しだけ目を伏せた
「妻と、娘を思ってくれたから……とでもしておいてください」
修一が、悲しそうな目で笑った。その目は、俺が四年前、修一が娘さんのご遺体を引き取りに来たときの目やった。
結局、この日は一時間程度で、探偵事務所を後にした。
*
「彼は嘘をついています」
本部へ向かう車の中で、神楽が話し出した。
「高井正弘のことやろ」
「桔平ちゃんも、そう思いましたか。珍しいこともあるもんです」
「珍しくはないやろ。いつものことや」
俺は、神楽の言いようにピキったが、ここは大人や。すこし余裕のあるとこも見せとかなあかんやろ。
来るで……神楽の嫌みが……。
《ほれ神楽、言うてみ。いつでも受け身の態勢はとれとんねん》
「そうでしたね」
何でやねん! ちゃうやろ。そこはいつもみたいに嫌み言うてくれな、俺の立つ瀬がないやないけ。
「このSDカードの中身が何かはわかりませんが、ライフを知っていたのであれば、高井正弘の名前ぐらいは知っている可能性が高いんです」
……そや。
『高井正弘を追っていたということはありますか』
と神楽が、修一に聞いたとき、『高井?誰ですか』と、逆に質問をしていた。
そやけど、このSDカードを修一が神楽に渡したとき、聞き返したこと自体が「嘘です」と言うとる事になる。
「ミスリードの可能性も考えなくてはなりません」
「いや、それはないと思う」
「何故でしょうか」
「もしかしたら、やけど、お前が最後に、亡くなった娘さんや奥さんの事を言い出したことで、柴田修一の心に……何ちゅうんか……ああっ、ええ言葉が浮かばん!」
喉元まで出かかっている言葉が出ず、いらついてきたとき、神楽が、俺の太ももに手を添えた。
「神楽」
俺を慰めてくれるんやなぁ。ええやっちゃと真剣に思った。
「大丈夫です。誰も桔平ちゃんのいいところを見たいとは思っていません」
「……」
……それやで。それを待っていたんや。……さっきはやけど。
俺は、受け身の態勢がとれていなかったので、返す言葉がなかった。
「もし、私の言葉が彼の心に刺さったんだとしたら……。彼が二件の犯罪に加担していたとしたら、娘さんと奥さんに対して、良心が痛んだ、ということですか?」
そう……やったかな。俺はお前の嫌みが効き過ぎて、忘れてしもたわ。




