第三章「不倫凸撃殺人事件」第一話・嘘つきは泥棒の始まりやで(九)
(九)
「大迫……ああ、確かにご夫婦共々、うちを利用しておられます」
――えっ。
と、質問をしたこちらが驚いてしまった。
「差し支えなければ教えてください」
神楽が正直にお願いした。
「少々お待ちください」
といって、席を立つ。
数分後、分厚い資料を手にして、修一が戻ってきた。
「順を追って説明します」
と言って、資料を見せながら話す。
「まず、一年前の七月四日に、大迫真司の奥さん・大迫百合さんがこの探偵事務所を訪れてきました。相談内容は旦那の浮気です」
「はい」
「私はその依頼を請け、数名の同業に頼んで、大迫真司の身辺調査に入りましたが、目立った動きは見られなかったんです」
「調査を依頼した探偵さんはわかりますか?」
「はい、えーっと。ああ、これこれ」
修一は資料を俺たちの前に置いた。神楽は、それをメモに取って「ありがとうございます」と言ってお礼を言った。
修一曰く、背後を非常に警戒していたらしい。ただそうなると調査費用もかさむ。実際の浮気調査を題材にすることで料金負担を軽くするため、彼女に動画出演を打診して了承を得たそうや。
その調査は今も継続していて、二週間に一回は連絡を取っているとのことやった。
「三ヶ月前に百合さんの旦那の大迫真司も同じ理由で事務所にやってきました。正直、百合さんが浮気しているようには見えなかったが、こちらも「商売」なので請けました」
「そのとき、大迫さんはどんな様子でしたか?」
「んー、そうですね。酷く落ち込んだ表情でした。演技でしょうけど」
「何故、演技だと思われたんですか?」
神楽が静かに訊いた。当然の疑問やと思う。
ただ、俺は別の違和感を覚えていた。嫁さんには「百合さん」と言っているのに、大迫真司に対しては、最初から「呼び捨て」やからや。
そこには、何かしらの感情があるように思えた。
「いえ、別にたいした意味はありません。ですが、奥さんの話を先に聞いていたから、かもしれないですね」
まあ、可もなく不可もない返答やな。
「しかし、百合さんの浮気の方は、驚くほど簡単に証拠が揃って、困惑した事を覚えています」
「……」
俺も神楽も返答に困った。俺的には、代打逆転満塁ホームランを打たれた投手のような心境やった。
「お金を貰って調査していますので、証拠が揃った以上、報告しなければなりません。それで奥さんが男と会っている現場を動画に押さえましょうということになりました」
《YouTubeやな。あっちもこっちも金にしよるな》
その時、修一のスマホに着信が鳴った。
「失礼します」
そう言って修一は席を離れて通話に出た。
「もしもし私だ……うん……そうか、わかった。予定……」
「コーヒーのミルクはどうされますか?」
修一の話に必死に耳を立てていると、まりかが俺にコーヒーのミルクを入れるかどうかを聞いてきた。
「はい。たっぷりと」
いつもの癖で、つい言うてしもた。
「すみません。昔のツレでしてね。毎年この時期に、小浜へ釣りに出かけるんですよ」
「小浜……福井県のですか?」
わかっていることをあえて訊く……これが神楽のあれや……何言うてるかわからんな。
「そうです。真鯛を狙いに」
「へー。羨ましいですね」
「はい。海はいいです」
「もし良ければ、そのお連れさんのお名前などお聞きしてもいいですか?」
「内田権蔵……ヤクザです」
「え?」
いきなりのヤクザ発言に、俺も神楽も驚いた。しかも内田権蔵言うたら、一課の俺でも知っているくらい、かなりの大物や。
「でも、法律ができる前からの付き合いです。いや、それ以前に子供の頃からの兄弟同然に育ってきました。法律が出来たからと言って切り捨てられるもんではないんです」
確かにそうや。あくまで法は法でしかない。法律が出来たからと言って、兄弟同然の人間を切れる奴は最低な人間や。
「話を戻しましょう。大迫真司にはもちろん動画の出演依頼をして、了承を得ています」
と、修一は言った。
そして、男との浮気現場を写真で捉え、真司に連絡したそうや。




