第三章「不倫凸撃殺人事件」第一話・嘘つきは泥棒の始まりやで(七)
(七)
「一体、何を揉めてるんですか」
「何がや?」
国松のおっさんが、何事もなかったように答えた。
「お二人のせいで、高井正弘に疑われてますよ」
俺はトイレ個室でひそひそ声で話した。
「何でや?」
山際のおっさんも、作戦は順調やみたいな感じで惚けよる。
「ちゃんと、まとめておいてくださいよ」
「いや。そもそも朝から雨降っとんのに、天気は間違わんやろ。まあ、それはええ。失敗は誰でもするもんやから、気にせんでええで」
「え?俺のせい……」
俺は一瞬、おっさん連中の言うてる意味が理解出来んかった。
「高井と話した感じはどうやった?」
国松のおっさんが話をすり替えて訊いてきた。
「見た目は普通ですが、目つきが悪いですね。笑っているのに目だけ笑っていない」
「髙井正弘が動き出しました」
神楽が緊急報告を入れた。
「そうか、予定通り頼むで」
山際のおっさんが指示を出す。
「あ、課長、それと……」
俺は、もう一つ、気になったことを山際のおっさんに話した。
*
案の定、髙井正弘を見失った。
山根あかりや室田が殺されたことで、相当気を張り詰めているのだろう。警戒心が尋常ではなかった。
しかし、現時点で緊急配備かけるだけの理由はない。
もう少し泳がせてもええやろうと、山際のおっさんが言った。
自ら招いた失敗を、言葉巧みに有耶無耶にする技術は、さすが熟練の技やなと、心から蔑んだ。
ただ、収穫がなかったわけではない。
あのとき、髙井との待ち合わせていたカフェに、どう見ても場違いな男がいた。客を装っているつもりなのだろうが、警察官の目は誤魔化せへん。
視線の置き方や席の選び方に隙があらへん。
スマホを見るふりをしながら、店内の動きを目で拾っているなど、あれは、ただの客やない。
そして、店の外に、三人ほど、刑事達を監視している目があった。そのことを山際のおっさんに知らせたら、約半数をそちらの尾行に切り替えたのだ。
その男達は、俺達を見ていた。
けれど、それ以上に髙井正弘を見ていた。
髙井が監視されていることに気づき、カフェを出たとき、その男たちも動き出した。
しかし、三人の男は別れて移動したので、京都駅の人混みの中で見失ってしまった。しかし、もう一人を尾行を続けていた捜査員から、しばらくして連絡が入る。
「男の一人がエムビーエス探偵事務所に入りました」
その知らせを受けて、俺と神楽は急ぎ柴田修一の事務所へ向かった。
「一体、誰なんでしょうか?」
車内の無線に次々と入ってくる情報に、神楽は疑問をぶつけてきた。
「わからん」と、運転をしながら俺は正直に言った。
「なぜ、柴田修一が高井正弘を尾行していたのかが、気になります」
「そうやな」
神楽の言葉を聞き流しながら、俺は遺留物に触れたときの事を思い出していた。
その時に出てきた男……。
あの狂気の中に悲しい目をしていたように感じた。




