第三章「不倫凸撃殺人事件」第一話・嘘つきは泥棒の始まりやで(五)
(五)
未央と別れた後、俺と神楽は、この話を、八幡署の本部に持ち帰り、この問題を話し合った。
「あの未央ちゃんがなぁ……」
神楽の報告を受けて、山際のおっさんも難しい顔をした。ま、捜査一課長としては当然のことや。
会議に集まっている脳筋連中も概ね「慎重論」やった。
万一、民間人である未央に何かあれば、単に責任問題では済まされへん。ましてや、高井正弘の線は、今のところ帳場の本筋として浮かんではいない。
仮に浮かんだとしても、濃いのは詐欺や。詐欺案件は、本来なら「捜査二課」の縄張りや。
一課の脳筋どもが、勢いだけで踏み込んでええ領域ではない。
まあ、普段のこいつらなら、暑苦しい正義感とその場の勢いだけで、踏み込みかねんのやけど、今回は未央という民間人が絡んでいるから尚更や。
そして、警察担当記者という立場やから、佐藤や岩田など本部で顔見知りも多い。
「あのお、その記者さん、可愛いですか」
と、未央を知らない所轄の若い刑事が、佐藤に訊いてきた。
「それはもう。めっちゃ可愛いで」
静寂の中で、声の大きい佐藤のセクハラ発言に、帳場は騒めきだした。
《お前、今のご時世にそれ大声で言うんか》
俺は、顔をしかめた。
「ですよね、先輩」
と、いきなり俺に振ってきたので、周りの視線が集中した。
「佐藤」
「はい、何すか先輩」
「お前が言い出した可愛い発言の尻拭きを、何で、俺に振ってくるんや」
「いえ、先輩の方がいろいろ詳しいかと思いまして」
この佐藤の「いろいろ詳しい」発言を誤解したんか女性陣の目は、それはそれは冷たいものやった。
「こら、待たんかい!」
乱れた場を沈めようと、国松のおっさんが、場の雰囲気を読んで声をだした。
「……確かに可愛い顔しとったな」
――そっちかい!
と、帳場の雰囲気に火を付けて、一層、帳場を修羅場に変えた。
しかし、所在を掴めない高井正弘の居場所を突き止める絶好の機会であることには間違いはなかった。
なんやかや議論を詰めて、今回は未央の提案に乗ることになった。
そしてなんと、高井正弘と会う予定のカフェに就く護衛に、三十人ほどの男達が名乗りをあげた。
《みんな、お疲れ……未央は彼氏おるらしいで》
先日、未央がおばちゃんの取材で「彼氏いるんで……」と言っていたのを思い出して、こいつらが絶望する姿を想像して、俺は、ほくそ笑んだ。
「よっしゃ! 気張らなあかんな」
と、スキンヘッド安田までも息巻いていた。こいつは向日町署の専従捜査官やけど、四年前の事件と、今回の室田康太刺殺事件が繋がったことで、捜査会議に出席していた。
《……こらお前、既婚者やろうが。しかも隠密行動が基本の捜査で、その頭はないやろ》
俺は、奴に冷たい視線を送りながら思った。
みんな、正義感は強いと思う。やけど今回は未央の顔を見たいという好奇心で、目ぇが血走っていた。
「ええか、第一の目的は、民間人の保護や。ほんで、高井正弘の所在確認を第二の目的とする」
捜査一課長、山際のおっさんが言った。
「分かっとるな。絶対に、記者さんを危険な目に遭わせるな」
「はい!」
いつものことやけど、声だけは、やたら頼もしい。そのうちの何人かは、たぶん未央にええところを見せたいだけや。
特に佐藤……お前な。
「あの二課には、どのように説明されますか」と、所轄の若い刑事が質問をした。
「二課の大場とは同期や。なんか甘いもんでも贈っとくさかい、心配はいらん」と言う、国松のおっさんの話に、《同期っちゅうのは都合のええもんやな》と、俺は思った。




