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隠し扉の真実  作者: 北島 将


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第三章「不倫凸撃殺人事件」第一話・嘘つきは泥棒の始まりやで(四)

(四)


 そのあと、まりかからも話を聞くつもりやった。


 けど、神楽の話を聞いて当時のことを思い出したのか、まりかは泣きじゃくり、とても話せる状態やなかった。


「今日は、これくらいにしていただけませんか。まりか君からは、また日を改めて話をさせますので」


 修一にそう言われ、俺と神楽も無理に聞き出すことはせず、次の機会にすることにした。


 俺たちは修一に礼を言い、事務所を後にした。


 八幡の本部へ戻る道すがら、未央から連絡があった。


 丁度昼時ということもあり、「飯でも食いながら話そう。ファミレスで――」と俺が言うと、「散々、人をこき使っといてファミレスですかぁ」と文句を言ってきた。


 しかもや、「今、西大路円町なんですぅ」と、『迎えに来い』とは言わへんものの、あれはもうお願いやなく、ほとんど命令やった。


 俺は西大路五条から北向きに上がって行くと言うたはずやった。


 それやのに、何でか知らんけど、未央は反対側の南向きの歩道に立っとる。


《何で、そっちにおんねん》


 そのせいで、左に曲がって、右に曲がって、また右――という、京都ではありがちな、ややこしい回り方をせなあかん羽目になってしもた。


「すいません。何故か今日はフレンチの気分なんで」


 車に乗り込むと、未央は図々しく、飯をリクエストしてきた。


「そうか。フレンチドレッシングの旨い店でええんやな」

「ウガンダさん。明日の朝一のトップに載りたいんですかぁ」

「何がや」

「京都府警の警部補、記者の厚意に嫌みで対応! これうけますよぉ」

「……」


 神楽が、このやりとりを訊いていて、吹き出した。何が受けたんかは知らんけどな。


*


「ウガンダさん釣れましたよぉ」

 

 未央指定のフレンチレストランで、席につくやいなや、未央はいきなり、そう切り出してきた。


「何が釣れたんや」

「じゃん」


 未央は自慢気にスマホの画面を見せてきた。


「高井正弘をアプリで釣り上げましたぁ」


 俺は、画面と未央の顔を交互に見た。


 ――高井正弘。


 山根あかりの交友関係を洗っている中で浮かび上がってきた名前や。


 警察も一応、所在を確認しに行った。


 けれど、どうやら住まいを転々としているらしく、今のところ足取りを掴めていなかった。しかし、早い段階で川上優子と合田雄二という有力なマル被が浮かんでいたこともあり、高井正弘はそこまで捜査の優先順位は高くなかった。


《少なくとも、今の時点では……》


 やけどや。


「……お前、いま自分が何を言うたか分かっとるか」

「はい。婚活アプリに潜って、高井正弘本人と思われるアカウントと接触しましたぁ」

「あほか。そんなことさせられるわけないやろ」


「でも、釣れましたぁ」


 神楽が、静かに未央のスマホを覗き込んだ。


「未央さん。詳しく聞かせてください」


「はい、普通のサイトだと、登録した途端、山のようにメッセージが来るんですけどぉ。アプリの機能で、釣り合う相手をAIで紹介するシステムみたいですぅ」


「それで高井正弘を紹介された」


「はい。本名必須なので高井正弘とあって、年齢は三十一歳。写真は加工されていますけど、耳の形と首元のほくろが、居酒屋の写真と一致します」


「耳の形て何や?」


「けっこう出ますよぉ。写真加工しても、耳と手は油断する人が多いですぅ」


 こいつ、明るい顔して怖いこと言うな。


「それで、何を話したんや」


「最初は普通に。仕事の話、趣味の話、お金の話ですぅ」

「お金?」

「はい。親の遺産が入って、暇を持て余してる女の子の設定ですぅ」


 ……嘘言うたらあかんやろ。


《昔から、嘘は泥棒の始まりや、言われとること知らんのか》


「お前、何してんねん」

「そしたら、しつこく会おうとしてきましたぁ」


「あかん、あかん。それは取材やなくて囮捜査になる。認められる話やない」


 今回の事件で、少なくとも、居酒屋の写真に写っていた連中のうち、室田康太と山根あかりは殺されて、大野晴子は依然として、意識不明や。こんな人の命が絡む事件で、民間人を使う真似は絶対にあかん。


 危険が伴うからや。


「え? それって私に対する愛情表現ですかぁ」

「え? そうなんですか?」


 未央の意味ありげな質問に、神楽が即座に反応した。


「……」


 あんな。こういう、そうやとも違うとも言えん質問してくんなや。


 何でや――。


「やめとけ」

「えーっ、心配してくれてるんですかぁ」


 未央が俺の顔をのぞき込んだ。


「あ、当たり前やんけ」

「はーい。分かりました」


「そうか分かってくれたんやな」


 俺は、あまりに素直な未央も言葉に、胸をなで下ろした。


「その代わり、明日、昼に会う約束したのでぇ、一緒に来てくださいね」


「……え?」


 困惑している俺とは対照的に、ペロッと下を出した未央の顔は、とても嬉しそうだった。


「お前、何を分かってん」

「一人で行かない、ってことですぅ」


 と、未央が無邪気に笑う。


「未央さん。とりあえず、この話は本部に持ち帰って検討してからでいいですか?」


 さすがの神楽も、即答しかねたのやろう。本部で相談した後に連絡を入れるということで、未央は納得した。




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