第三章「不倫凸撃殺人事件」第一話・嘘つきは泥棒の始まりやで(二)
(二)
「ありがとうございます。この動画は、うちの副収入源として頑張ってくれてます」
副収入か――。
警察官の副業は原則として認められてへん。
一本で三十万再生やから、結構な収入なんやろな。なんぼ稼ぐんか気になるけど、俺自身、金に執着はないので、羨ましくはない。
「元々私は、ああいったパソコンなどは苦手でしてね、企画から編集まで、あの子が全てやってくれています」
「そうなんですね」
確か、あのおっさんらもそうやったなと俺は、山際課長と国松課長の暑苦しい顔を、思い浮かべた。
「なので私は、彼女に言われるがまま、カメラマンをやっています」
修一は、手振りで撮影している格好をした。
「しかし、内容は結構エグいっすね。似たようなチャンネルも含めたら、不倫をするんやったら、男にしろ女にしろ結婚せんかったら、ええのにって思いながら見てます」
視聴者として俺は、感想を述べた。
「ああゆうのを見てると、結婚するのが怖くなります」
それは本音や。
ただ俺の場合は、その前から結婚には否定的やねんけどな。
「それはよく、分かります」
柴田が目を細めた。
「いまはこうやって、動画などで晒す……とでも言うのでしょうが、昔も同じだったと思いますよ」
「はい」
と神楽は、手帳に記しながら短く答えた。
「ただ、不倫やDVなどが動画で流れることによって、引っ込みが付かなくなって、離婚する夫婦も、増えたような気がしています」
と、修一はしかめっ面をして話した。
俺は確かにな、と思った。
「人は、知らなければ我慢できることがあります。けれど、実際に不貞の現場を見せられると、お互い戻れないんでしょうね」
柴田は、湯飲みに目を落とした。
「証拠というものは、便利です。人を救うこともありますが、人を終わらせることもある」
俺は何気なく室内へ目をやり、この部屋へ案内されたときに気になっていたものを思い出した。
修一の机の上に置かれていた、熊をかたどったピンク色のぬいぐるみや。
「机に置いてある、そのぬいぐるみ……ゆかりさんのものですか」
このことは、修一の傷をえぐることになるかもしれへん。
それでも俺は、意を決して訊いた。
「ええ。あの子が小学生の頃に遊園地で買ってあげたものです」
その声は、さっきまでより少しだけ柔らかかった。
「ゆかりを殺した犯人が、分かったそうですね」
「いえ」
神楽が、すぐに否定した。
「現時点では、そう断定できません」
「そうなんですか」
修一は、苦い顔をした。
「この前、うちに来られた刑事さんが、そのように言っておられたので。急いで、嫁と娘の墓前に報告に行ったんですが……」
柴田は、少しだけ笑った。
「これは、娘に叱られそうだな」
修一は、一瞬遠くを見て話を変える。
「今日は、どのようなご用件でしょうか」
「まず、四月一日の夜の事ですが、何をされてましたか」
神楽が静かに訊いた。
「この上の住居にいましたので、アリバイはありません」
確かに、証明の使用があらへんわな。
ここへ来る前に、修一が使用している車両について照会をかけ、国道一号線など周辺のNシステムの通過記録も調べたが、該当する記録はなかった。
「なるほど、五月一日の夜はどうですか」
「その日も同様です」
肝が据わってるというか、聴取慣れしとるというか。どんな質問をぶつけても表情一つ変えへん。そこは、さすが敏腕弁護士やった。
神楽は、深掘りを諦めたのか、無理に押さずに質問を変えた。
「次に合田雄二と川上優子についてお聞きします」
「二人とも、うちに相談に来ていました」
「どういった相談でしたか」
「それは」
修一が、わざと一呼吸おいたように見えた。
「ご存じのように私たちにも守秘義務があります」
「はい、知っています」
神楽は、スマホを開いて修一に見せた。
「これは、川上優子のスマホの画面を写したものです」
修一は画面を一瞥すると、事務員の女性、まりかを呼んだ。
「悪いけど、私のスマホを持ってきてくれるかな」
と言った。
「これが川上さんとの履歴です」
まりかからスマホを受け取ると、自ら開いて俺達に見せた。
「なるほど、ありがとうございます。では、この事件の三日前と二日前に通話で話されてますが、そのときの内容を教えてください」
神楽が、画面を確認しながら訊いた。
「彼女を落ち着かせるためでした」
「どのように」
「とにかく私たちが集めた証拠をもって警察にいきなさい、と」
「そのときの彼女はどのような感じでしたか」
「甘い言葉で五百万もの大金を、室田に奪われて、精神的に追い詰められていたようです」
その気持ちは、俺にも理解出来る。
コツコツ貯めたお金を、色恋で釣って、心を弄ばれた悔しさは、測り知れんやろ。多少、法律を厳しくしたところで、この手の輩は、ゴキブリのように湧いてきよる。




