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隠し扉の真実  作者: 北島 将


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第二章「ロマンス詐欺殺人事件」第二話・自首して黙秘はないやろ(九)

(九)


 合田が黙秘を続けて、勾留期間の二十日が近くなった。


 警察は、被害者の体内から検出された体液と、あかりに騙されて不満を募らせていたという事情から、容疑を殺人に切り替えた。


 そして自首をしてきた翌日の五月三日の逮捕から数えて最長二十三日目の五月二十五日に起訴された。同時に、室田康太刺殺事件も、川上優子を被疑者死亡で送致した。


「背割堤女性絞殺事件特別捜査本部」

「背割堤男性刺殺事件特別捜査本部」

 

 この日、二つの戒名が外された。


 ただ、柴田ゆかりの事件の本部は、引き続き八幡署にある。今後は詐欺事件も含まれる可能性も視野に入れて、捜査二課とも緻密な連携を取るようにと、山際のおっさんから指示を受けた。


 この時の、山際のおっさんは、戒名が外されると、「一件落着ぅ」と言っていたので、わかりやすかった。


 多分、「桜吹雪」の入れ墨をみせて、悪党を捕まえる、時代劇のお奉行様の再放送でも見て、感化されたんやろうなと、捜査本部の連中はみな思った。


 それから、俺と神楽は、署に泊まり込みで事務処理をしたが、相変わらず神楽任せで、俺は、話相手役に徹した。


 日が昇り始めた頃、八幡警察署の屋上にある喫煙所でたばこをふかしながら、俺は街の景色を眺めていた。


 三階建ての庁舎なのでそんなに高い訳ではないが、それでも十分過ぎるくらいの景色を見ることができる。奥にそびえる男山は、空気まで澄んどる気がした。

 

《ほんまええ景色や。……横にこいつらさえおらんかったら……やけど》


「お前ら、仕事いきや」


 と、俺は人間として、まともなことを言うたつもりやった。確か五月一日にも同じ事を言うたはずや。


 たばこも吸わず、ただ金魚の糞みたいに俺の後をついてきて、景色を見ながら会話をするでもない。ただ黙ってスマホをポチポチやっている。


「いやです」


 神楽はスマホから目を離さずに言った。


「被害者の裏の顔が見えてぇ、印象が変わりましたね」


 未央も同じくやった。


《何回も言うけどな、人と話しをするときは、相手の目をちゃんと見て話しやって、教わらへんかったんか。こいつらは》


 俺は、非情に居づらい状態になり、思いっきり苦い顔をした。


 山根あかりは合田に、いろいろな理由をつけては、金を振り込ませていた。結婚をちらつかせながら、総額で一千万以上もむしり取っていた。


 いわゆる結婚詐欺やな。


 たぶん調べれば、他にも騙された奴が捲れていくやろ。


 あの高そうなマンションは、そうやって騙し取った金も紛れとるんやろな。


 二人が出会ったきっかけは、ネットのアプリやと合田は言うとった。昔は出会い系サイト、今は婚活アプリやら何やら、名前だけ小綺麗になった。便利なんは確かやけど、その分、人を騙す方も手口を覚える。


「まだ終わってへん気がすんねん」


「手。ですか」

 神楽がやっとスマホから目を離して聞いてきた。


「そうや。俺が、あかりの部屋で見た映像や」


 あかりは最後にあの手を見た。薄く開いた眼に、安堵したような色が浮かんだ


 それがほんまやったら、「実際に手を下した奴」が、おることになる。


「しかし立証出来ません」


 神楽が確信をつく。


 その通りや。いくらそれが事実やったとしても、実際の証拠がなければ何の意味もない、ほんま迷惑な力や。


《しかし、何であんなもんが見えるんや?》


 俺は、煙草をくゆらせながら、あれこれ想いを巡らせた。誰が好き好んであんなもん見んねん。


 ――はっ。


 そうか、そういうことかと、俺はあることに気づいた。


《うちの女共どもの呪いや》


 そやからうちの家の男達は、早死にしてるんやないか。そう考えると、納得できる事が沢山ある。


《幽霊嫌いの俺に対する、嫌がらせや》


 俺は、今も宇賀田神社に生息する、魑魅魍魎たちの顔を思い出して、思いっきり苦い顔になった。


「でも確実に犯人に辿り着けています。後はどうやって立証していくのかだと思いますが」


 いつの間にか、神楽が横に来て俺を慰めてくれていた。その言葉に、俺に対する強い「愛」を感じた。


「阿呆も使いよう、と言いますから」


《……アホってなんやねん》


 俺が推理小説の作家やったら、お前を三十回ぐらい崖から突き落としとるぞ。


「プッ、めっちゃ受けるぅ」


 未央が大笑いした。


《こいつらは、俺の大事な朝の空気を、完全に潰しにきとるな》


 小説家になって、ムカつく奴等を片っ端から――ムフフフフッと、俺は真剣に考えた。 


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