第二章「ロマンス詐欺殺人事件」第二話・自首して黙秘はないやろ(八)
(八)
「はい。その通りです」
合田が初めて口を開いた。
「話していただけませんか」
神楽の声は変わらん。静かなままや。
「ただ、話したとしても、あなたがやったことの罪が消えるわけではありません」
ここで話を切って、
「でも、話すことで、少しは楽になることもあります」
ここまできても合田は肝心なことを話さなかった。
「あなたの銀行口座からお金の流れを調べさせてもらいました」
「そうですか。さすが警察ですね」
その返事に皮肉はなかった。
ただ、諦めたみたいな響きだけがあった
「四年前から、大きなお金が何度も動いていました。振込先は山根あかりさん名義の口座です」
「……はい、あかりに振り込みました」
合田は、素直に認めた。
「理由は何ですか」
「父親の手術代が足りひんとか……結婚するなら、今のうちから金を貯めときたいとか……そんな話でした」
「山根あかりさんのご両親とは会われましたか」
「いいえ。会っていません」
「そうですか。ご両親に会っていないのに、振り込んでいたんですね」
神楽はそこで深追いせんかった。
書類を一枚めくってから、何でもない声で言う。
「最近あかりさんのマンションに行きましたよね」
合田は、「いいえ」 と、返事をした。
「山根あかりさんは妊娠していたのを知っていますか」
神楽が話を変えた。
「え、妊娠?」
「そうです。なのであなたは、その子供の命も奪ったことになります」
神楽の言葉に、合田は俯いた。何かを考えるように、しばらく黙る。
「フッ。」
と、突然笑い出した。
「何か、おかしい事でも」
「……人から騙し取った金で、幸せになろうなんて、虫が良すぎる話や」
合田は神楽をじっと見て言った。
「三年前の今頃、親父が亡くなりましてね」
「はい」
「四年前、仕事場で倒れて。手術代も必要になって、あかりにお金を返して欲しいと連絡を入れました」
「それであかりさんは何と答えたんですか」
「貰ったんだから、返す必要はないと言われました」
「それで」
「何度も連絡をしたんですが、しまいに連絡が取れなくなって」
合田の顔に色がついてきた。
「もう一台、スマホを契約して、違う番号で掛けたんですが」
「はい」
「知らない、会ったこともない、その繰り返しで」
《ひどい話やで、ほんまに》
大体、この手の連中は、金を借りるためには、どんな演技でもしよる。金を貸す方にも問題がある戸いう話もあるけど、それは違うんやないかなと俺は思っている。
「しばらくして、金を返すからと電話が来て、指定された河川敷に行きました」
「何処の河川敷か覚えてますか」
と、神楽が優しく訊く。
「石清水八幡宮駅近くの背割堤です」
《背割堤。確か山根あかりも室田康太も、そんときはすでに八幡市に住所移しとったんやなかったか》
合田にしたら、えらい遠い場所に呼び出されたんやな。
「いつ頃か覚えていますか?」
「いいえ。二年から三年前くらいです。そこで三人組の男たちに暴行されて……気を失いました」
「ひどい話ですね」
「気を失う直前に、あかりの声が聞こえて……」
「何を言ってたか分かりますか」
「大きい声で笑ってました」
俺は合田の顔を改めて見た。
被疑者の顔は嫌というほど見てきたが、まれに被害者の方に落ち度がある時がある。
そういう事件の時、被疑者はほんまに悲しい顔をする。
《警察官いうても人間や》
そやけど、どれだけ事情があっても、やったことまで無かったことにはできひん。
そして、合田のそれは、何か大事な物を失った、人間の顔やった。
その顔を見た瞬間、山根あかりという女の見え方が、少しだけ変わった。
結局合田は、マル害に自分がされたこと以外は、話さへんかった。




