第二章「ロマンス詐欺殺人事件」第二話・自首して黙秘はないやろ(六)
(六)
「はよ、話せや」
「もう、いいです。折角頼まれていた運送屋さんから、情報を聞いてきたのに残念ですぅ」
「嘘です。お願いしますよ、未央様」
「わかりました。このお礼は高いですよ」
《お前、いつも焼肉やら抹茶パフェやら、俺から搾り取っとるやんけ》とは言わず、「おお、いつでもええで」と、大人の対応を見せてやった。
「まず、合田はやめた三年前の時点で、勤続年数は十年を超えていたそうですぅ」
「十年て長いな」
人の入れ替わりが激しい運送業で、十年以上勤めていた。それだけでも、合田がそれなりに真面目に働いていた人間やったことはわかる。
「勤務態度も真面目で、社長の話では主に長距離を走っていたようで、車庫に帰ってくると必ず洗車を欠かすことがなく、トラックをいつも綺麗に磨いていたそうですぅ」
『いつも綺麗に磨いていたそうですぅ』
という、未央の言葉……。
いま、俺の目の前にあるゴミ部屋――。
どうしても結びつかへん。
《足の踏み場もないごみ屋敷部屋に住んでる男が、仕事終わりに毎回きっちりトラックを磨いていたやて?》
その落差が、妙に気持ち悪かった。
「ただ、人付き合いはあまり無かったと会社の社長は話してました」
長距離やと、一回の運行で三日。下手したら一週間、家に帰ってこない事もあると、聞いたことがある。そんな状態やと、誰かと遊びに行く気には中々ならんのやろ。ほんま大変な仕事やな。
未央もこのあと、こっちへ取材に来ると言うていた。
ちょうど神楽も「もう少し詳しく訊きたい」と言うので、未央にメールで位置情報を送り、ここで落ち合うことにした。
未央を待ってる間、大量のゴミをかき分けながら、部屋を調べた。
こまめに洗車できていた男やったんなら、少なくとも昔から何でも放ったらかしにする性格やったとは考えにくい。
《一体、合田の身ぃに何があったんや》
そんなことを考えながらゴミ袋を分けていると、使われていないスマホが二台出てきた。
一台は画面が割れている。もう一台も、当然のように電池は切れていた。
どちらも何年か前の型や。俺は辺りを探して、ようやく合いそうな充電器を見つけ、コンセントへ差し込んだ。
しばらくすると、黒い画面に赤い電池マークが浮かび上がった。
「生きとるな」
「壊れていないのであれば、中を確認できるかもしれません」
神楽が玄関からやってきて、俺の横から覗き込む。
先に反応したのは、画面が割れてへん方やった。薄汚れた部屋の中に、妙に場違いな光が灯る。
ロック画面には、いくつか通知が残っていた。指で通知を遡っていくとその中に、見覚えのある名前があった。
「……山根あかり?」
被害者の名前に、思わず俺の声が漏れた。さらに、その下には短いメッセージが一件だけ表示されている。日付を見ると、約三年前の十二月十日やった。
『誰ですか。やめてください。怖いので警察に通報しますよ』
「ストーカー?」
「わかりませんが、応援をお願いします」
神楽が本部へ応援を要請した。
電話を切ると、そのまま何食わぬ顔で玄関の方へ下がっていく。
「お前も手伝えや」
俺は、また玄関まで逃げていった神楽に言った。
「いやです。パワハラで訴えますよ」
《上司が部下にパワハラされるって、おかしいやろ》
「うわ、何この臭い! ちょっとウガンダさん、これ人の住む部屋ですかぁ!」
俺はスマホを持ったまま、玄関の方へ振り向いた。
「ちょうどええとこ来た。話、ややこしなってきたで」
「どういう意味ですかぁ」
「合田の携帯から、山根あかりの名前が出てきた」
未央が目を見開いて、俺と神楽を見た。
しばらくして捜査員と鑑識班が到着した。探偵事務所のチラシと、二台の携帯電話を、鑑識員に渡して状況を説明した。
ところが、部屋へ入ってきた刑事たちは、誰もが一様に足を止めた。
視線の先にあるのは――床を埋め尽くすゴミの山。
「……」
「……」
誰も何も言わへん。
《わかる。わかるで、君たち》
俺は彼らの気持ちを、痛いほど慮った。




