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隠し扉の真実  作者: 北島 将


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第二章「ロマンス詐欺殺人事件」第二話・自首して黙秘はないやろ(五)

(五)


 被疑者が自首をしてから三日が過ぎた、五月五日。俺と神楽は、ひとまず合田が住んでいる、山科区のアパートを調べに向かった。


 五月五日という、世間では「こどもの日」という祝日も、警察には関係ない。


 被疑者の名前は、合田雄二・四十歳。


 三年前までは市内にある運送屋で働いていたが、今は山科のアパートで生活保護受けながら暮らしていた。


 被害者の体内から採取されたDNAは、合田のものと一致した。


 警察はその結果を受け、不同意性交等の疑いで逮捕。合田は現在、勾留されている。


 ただ、自首してきたにも拘わらず、合田は黙り込んでいる。時折、世間話には応じるが、事件の核心の話しになると、「黙秘します」 の一点張りで、話が進まなかった。


「久世さんをもってしても落とせへんみたいやな」

 

「何故なんでしょうね。よくわかりません」

 スマホを見ながら、神楽は気のない返事をした。


 京都府警本部捜査一課・久世信二。


 定年間近の警部補で、相手の癖や言葉のアヤから綻びを見抜くのがうまい。通称「落としの久世」と噂されている人間をもってしても、合田の口は割れへんという。


 再度付近の防犯カメラを徹底的に調べたが、合田らしき人物は写っていなかった。


《そう言えば、室田康太刺殺事件のときもめぼしい人物は写ってなかったな》


 俺は、車を運転しながら、何気なく考えていた。


 合田のアパートに到着した俺たちは、大家さんに挨拶をして、鍵を受け取った。


 扉を開けると、目に映ったのは――「ゴミ」の山だった。


 ありとあらゆる所にコンビニか何かの袋やカップ麺の食べ残しが散乱して、足の踏み場を見つけるのに苦労した。


「あらまあ、こんなに酷いとは思ってませんでしたわ」


 大家のおばちゃんが、呆れたように言った。


「最近、彼の様子など、変わった事とかありますか」


 神楽が大家の横で話を訊いた。


「さあ、最初に会うた時から無愛想でしたしねえ。特に変わった所は……」


 大家が何か言おうとしたのを、神楽は見逃さなかった。


「何かありましたね」


「ここ数か月は、独り言が増えたいうんですかね。よう何か呟いてるのが聞こえてましたわ」

「どんなことを言ってましたか」

「さあ、そこまでわかりませんわ」

「そうですか」


 神楽は残念そうに言った。


 しかし、俺ひとりで部屋のゴミをよけてるのに、あいつは一向に玄関から部屋の中へ入ろうとしない。


「何しとんねん。お前も手伝えや」

「お任せします」

「何がや」


 俺は、ブツブツ言いながら、あたりのゴミの山を見て、俺は諦めた。


 そして、いいことを思いついた。


「そや。鑑識を呼んで片付けさすか。神楽、はよ本部へ電話しいや」

「ゴミ掃除をさせられたら国松課長、激怒しますよ」


《あのおっさんやったら、さもありなんやな》


 国松のおっさんの顔を思い出して、全身身震いした。


「え、部屋を掃除してくれはるんですか。そら、助かりますわ」

 

 神楽との会話を聞いていた大家が、喜びだした。


《京女の時期を過ぎて京おばちゃんに進化すると、自分に都合がええ事しか耳に入らんのやな》 


 俺は苦い顔で、比較的新しそうな袋をひとつ脇へどけた。


 その下から、一枚のチラシが出てくる。


 まだ新しい。


 けど、カップ麺の汁でもこぼしたんか、端に茶色い染みがついていた。


「ほれ」と、チラシを神楽に見せると、紙に突いた汚れに神楽は、明らかに拒絶反応を示した。


「探偵事務所の広告ですね」


『人捜し専門・エム・ピー・エス探偵事務所』


 そう書かれたチラシは、新聞の折り込み広告ではなさそうや。駅かどこかで見つけて、そのまま持って帰ってきたように見える。


「……これ、川上優子が相談してた柴田修一の探偵事務所ちゃうか」


「確かに」

 神楽が急いでスマホを操作し、確認する。


「誰かを探していたのでしょうか」


 そのチラシを指先で摘まむように証拠袋に収めて、俺に訊いてきた。


「まあ、誰にでも訪ね人くらいおるやろ」


 そのとき、未央から電話が入った。


「何や」


 俺は、無愛想な声で電話に出た。


「何やって、ひどくないですかぁ」


 これはもう定番のやりとりになってしまっている感がある。



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