第二章「ロマンス詐欺殺人事件」第二話・自首して黙秘はないやろ(四)
(四)
「課長、これを見てください。ここにあったはずのものがなくなっています」
神楽がベッドを指さした。
「枕か」
さすが鑑識課長や。
神楽が言いたいことを、一発で当てよった。
「うちの娘も枕にはうるそうてな。マイ枕やなんや言うとるわ」
《おっさんの家庭の事情はええねん》
「あと、こちらです」
神楽が、問題の場所へ案内した。
「ほう。確かにコードを這わせてた跡が残っとるな」
リビングの床に残る擦れ跡の前へしゃがみ込みながら、おっさんが言う。
「おい、ここ丹念に調べてや」
そばにいた若い鑑識員へ声をかけたあと、おっさんは俺を見上げた。
「それで、どやねん」
「何がですか」
「お前の意見を言うたらんかい」
「わかりません」
意見と言われてもや。
頭の中へ突然飛び込んできた感覚を説明せえと言われる方が無理がある。
せやから俺は、素直にそう答えた。
「そやない。この前、飲みに行こう思て、お前に店の情報を聞きに行ったんやが、山際や記者さんがおったから聞けんかったんや」
「それ、今聞きます?」
「お前の顔見たら思い出したんや。ええ店見つけたら、お互い情報を共有しようて言うとったやろが」
《はぁ? おっさん、今その話せんでもええやろ》
しかも神楽の前でや。
俺はおっさんへ冷たい視線を送りながら、心の中で叫んだ。
「課長。その話、一度詳しく聞かせていただけますか」
案の定、神楽の目が光った。
「おお、いつでもええで」
国松のおっさんが親指を立て、神楽へ合図する。
《何、意気投合しとんねん》
そのとき、おっさんの携帯に着信が入った。
「国松や。……あぁ……そうか……何やて。……わかったで。そやけど、せっかく来たんやし、土産だけは拾うて帰るわ」
通話の最中、おっさんはなぜか俺を睨み続けていた。
「課長、どんな内容ですか」
神楽が尋ねる。
「山際からや。そやけど神楽ちゃんが心配することやあらへん」
おっさんは、にこぉと笑った。
「犯人が自首してきたそうや」
その言葉に、その場にいた全員が固まった。
「課長、ど……どういうことですか」
俺は震える声で聞く。
「知らんがな」
あっさり返された。
「そやけどや」
国松のおっさんが、急に真面目な顔になった。
「別の何かがある可能性は、否定できんな」
それから鑑識員たちを見回す。
「ええか。細かいもんでも、きちっと拾って帰るんやで」
「はい!」
号令ひとつで、鑑識員たちが再び動き出した。
「警部補。犯人が自首してきたって、どういうことですか」
新人刑事の山田君が、不安そうな顔で聞いてきた。
「君が心配することはあらへん」
「そうです。犯人が自首したからといって、捜査はこれからです。今、我々ができる最善を考えて行動してください」
俺が言おうとしていたことを、神楽が先回りして言いよった。
「……そういうことや」
俺は本部の警部補として、山田君の肩をぽんと優しく叩き、満面の笑みを浮かべた。
「はぁ? 何や、その気色悪い顔は」
横から国松のおっさんが茶々を入れてきた。
「それより、さっきの話の続きや。ほれ、こっち来んかい」
《その話は後でええやんけ》
俺の願いも虚しく、おっさんに服の袖を掴まれ、そのまま表まで連れ出されてしまった。
しかも、人の往来がある中、店の情報を洗いざらい吐かされるという、何の罰かわからんオチまで付いた。
――そして神楽。
この女もきっちり横で俺の話を聞いていた……。




