↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隠し扉の真実  作者: 北島 将


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/37

第二章「ロマンス詐欺殺人事件」第二話・自首して黙秘はないやろ(二)

(二)


 五月二日、朝早く。


 俺と神楽、それに所轄の刑事三人。合わせて五人で、あかりが住んでいたマンションに令状を持って来ていた。


 いわゆるガサや。


 赤レンガ風のタイルを全体に施した建物で、朝の光を浴びた壁面は深い赤色を帯びている。事件現場の堤防から見ても目立って見えた。


 実は八幡市にも高さ制限はあるらしい。


 京都市内みたいに、どこを見ても景観景観とうるさいわけやないけど、高度地区いうやつで、十メートルや十五メートル、二十メートルといった上限がかかる場所がある。


 そやから背割堤の周辺は、空が妙に広く見えた。


 マンションは、横にゆったり取った造りで、エントランスや周りの植え込みなど、全てに管理が行き届いていた。一階部分の商業スペースには、歯医者と新聞屋が入っていた。


 見える範囲では、各階八部屋ほど。廊下にも余裕があって、窮屈な感じはしない。防犯カメラは、入り口に二台。エントランスにも広角カメラが設置されている。防犯対策も出来ているように感じた。


「確かに、ええマンションやな」


 俺は、ため息をつきながら神楽に言った。俺と似たような年齢で、京都の郊外とはいえ、何を食ったらこんなマンションに住めんねん。


 これは――俺の正直な気持ちや


「ええ。確かに」


 神楽は腹の辺りをそっと押さえて、


「一度ぐらい、こんな家に住んでみたいですね」


 と、夢見る乙女のような顔をした。


「フッ、そやな。一度は家族で……アホか! こんなん高いもん公務員やってて買えるわけないやろ」


「いやいや、いつもお二人は仲がよくてええですね。俺、憧れちゃいますよ」


 所轄の若い刑事が、俺に話しかけて来た。


「君、名前は?」

「はい!山田金蔵です。巡査部長です!」


 彼、山田君は胸を張って挨拶をしてきた。最近、刑事になってまだ日の浅い彼の目は、純粋さを失っていない。


 まあ、それも一ヶ月もすれば……。その先は、言いたくないな。


「あんな、若い君にも俺の気持ちがわかる日がくるで」


 と、彼の肩に腕を回しながら、マンションを見上げて、うっとりと何やら想像している神楽に、聞かれないように小声で囁いた。


「え? それはどういう意味……」

「しっ。声が大きいねん。あれやで、そういう声が大きいと、脳筋に染まってまうで」

「は……はあ」


 俺は、すでに母親モードに入っている神楽を横目に、目の前にそびえる男山を見上げた。


《神様。どうか神楽の生理が来ますように》


 石清水八幡宮の神様に、人生でいちばん切実なお願いをした。

 

「いやいや、すんまへんなぁ。遅ぅなってしもてぇ」


《ほんまやで。約束した時間くらい守れや。警察を何や思とんねん》


 というような内心を見せずに、遅れてマンションへ到着した管理会社の男に「捜索差押許可状」を見せて確認させた後、鍵を受け取り部屋に入った。


 最初の印象は「何もない」やった。


 しかし、あまりにも生活するには少なすぎるように感じた。


 十畳以上あるリビングも、こたつが一つあるだけで、テレビも置いてなかった。寝室には、セミダブルのベッドがあって備え付けのクローゼットには一応女性らしく服が何着か吊るしてあるが、ブランドものではない既製品だけやった。


「まるで誰かが来るのを待っていた感じがします」


 神楽が、俺が思ったのと同じ感想を口にした。


 そうや。神楽の言う通りや。


 所轄の刑事が無言のまま散らばって調べていた。俺は、寝室の入り口でもう一度、あたりを見回した。


 山根あかりは妊娠していた。


 その相手の男と暮らすために、スペースを空けていたのかも知れない。


 大迫真司と高井正弘。


 二人ともあかりとの繋がりが深い。


 そのどちらかと、ここで暮らす事を夢見てたんかもしれんな。


 どっちの子供やったかは、今の時点では分からん。もし妊娠を喜んどったんなら、ここで男と暮らす未来を思い描いてたんかもしれんな。


「宇賀田警部補、ちょっといいですか」


 と、先程、刑事としてどうあるべきかという薫陶をした所轄の山田刑事が声をかけてきた。


「これを見てください」と、山田君が床を指した。フローリングに少しだけ擦れた傷があった。周りの埃の感じから、何かがずっと置いてあったんや。


 壁際のコンセント付近に、四角く埃の薄い部分がある。さらに、その横にも細長く埃の少ない跡が残っていた。


「……何か置いてあった跡ですね」


「この大きさ……パソコンデスクか、何か機器を置いていた跡かもしれませんね」


 神楽がきれいな部分と埃が溜まってるところを指さして言った。


《おいおい、勘弁してくれやぁ。ここにもパソコンがないやなんて、陳腐な推理ドラマかぁ、これ》


「誰か、ここにおったんかもな」


「もしくは合鍵で入ってパソコンだけ持って帰ったかですね」


「事件が起きてから、まだ一日しかたってへん。おかしくないか」


「だからこそ、です。鑑識の応援を頼んでみます」


 スマホを取り出して、神楽は課長に連絡を入れた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。