第二章「ロマンス詐欺殺人事件」第二話・自首して黙秘はないやろ(一)
(一)
「ほれ、ブラックコーヒー。ありがたく飲みや」
一息つこうと俺は、神楽と未央にコーヒーを差し出してやった。
《こういう細かな気遣いが、刑事として大事やねん》
俺は、自慢気に席に戻ると、未央がじっと俺を見てきた。
《俺の気遣いに感動しとんのやろ》
と俺は、気軽に考えていた。
「あのぉ、これで誤魔化そうとしていませんかぁ?」
「何がや」
「コーヒーはありがたいですが、私ぃ、ミルクと砂糖派なんですよ。前に何回も言ってませんでしたか」
「はい。確かに言ってました」
神楽も、敵側に付いてしまった。俺には未央が、昔の時代劇に出てくる悪代官に見えてきた。
「わたしぃ、焼肉が食べたいですぅ」
……いや。悪魔やった。
「では、事件が落ち着いたら、三人で行きましょう」
そう言って神楽は、下腹にそっと手を添えた。
《フッ。なるほどな。お前は『お腹の子供に栄養とらせなあかん』とかなんとか言うとんのやろ》
代わりに俺の下腹が、キュルルルーっと、尊厳注意報の音を鳴らしてきた。
「では、未央さん、話を続けてください」
散々、俺を無言の圧力で脅しておきながら、神楽はしれっと話を戻した。
「はい。いいですかぁウガンダさん。大野晴子は同じ中学だったようです」
未央は、入院中の大野晴子について話を続けた。
「中学の頃はぁ、あまり目立たない子だったと聞いています。でも、高校中退まではわかってはいますがぁ、学校を辞めた理由とかも今はわかりません。それとぉ……」
未央が少しだけ声を落とした。
「古いネットの痕跡で、あかりさんの昔のアカウントっぽいの見つけました。もう消えてますけどぉ、スクショに収めています」
「何が写ってたんですか」
「今の写真と同じ顔ぶれです。「#一生もん」とか「#親友」というハッシュタグが単純で、逆に助かりましたぁ」
「一生もん、ねえ」
俺は、小学校の時、近所の公園で野球をしていた、米田萬藏たちの事を思い出していた。
「桔平、俺とお前は一生の友達や」とかいつも言うとったな。
《ふっ。あいつらとはいつもつるんでたな》
そんな温かい記憶に浸っていた、その時や。
《そう言えば……》
何故か神楽も、あの男どもの中にいつも混じっていた。
俺は背筋が冷えていくのを感じた。
《そや、口にする奴より、金魚の糞みたいに黙って横におる奴の方が、一番怖いねん》
未央は、冷や汗をかいている俺の顔を見て、小さく肩をすくめた。
「あとぉ、これ。コメントで“晴子んとこまた修羅場”“康太ほんま懲りひんな”って書かれてたのが一件ずつ見つかっています」
「いつの投稿や」
「四年近く前ですぅ」
ちょうど被害者がマンションを買った頃やな。
「山根あかりの家族とか、実家はどないなってる?」
「それが、お父さんは早くに他界していて、六年前にお母さんも亡くなっています。あかりさんは、それからも実家で暮らしていたみたいですが、四年前に急に家が売りに出されて引っ越しをしたと、聞きました」
「いくらで売れたんや?」
「そこまでは、まだ調べてませんよぉ」
《家を売った資金でマンションを買ったとなれば辻褄は合う……か》
売却価格と購入価格の問題もあったが、ひとまず、その可能性も頭に入れとくしかないな。
「神楽」
「はい」
「明日の捜査の予定、変えた方がええかもな」
「ええ」
「父親候補だけやない。山根あかりの交友関係、昔の繋がりごと洗い直しや。晴子、康太、正弘。それに大迫真司」
「そうしましょう」
神楽は資料を整えると、すぐに支度をした。
俺は立ち上がって、白板に書かれたばかりの三つの名前を見た。
大野晴子・入院中(意識不明。
室田康太・死亡。
高井正弘。
この三人は、被害者と昔からの付き合いやった。そこまでは判った。何も見えへん事件は、一個ずつ疑惑を消していくしかないんや。




