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隠し扉の真実  作者: 北島 将


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第一章「子供ができたの殺人事件」第三話「そんな、迷惑な能力なんていらんねん」(五)

(五)


「桔平、悪いなぁ」

「何いうてんねん。気にするな」

 

 道中、近くのスーパーで、食材を買いに行くことになった。出産祝いも兼ねてということで、支払いは俺がした。


 そういう細かな気遣いが出来るのも、脳筋達とは違う。


 奥さん(旧姓、川尻朋子)は、安田とは警察学校時代からの付き合いで、安田が何かと自慢していた女や。


 そのたびに俺は、聞いてもおらん惚気を聞かされていた。


 つまり、朋子も俺たちの同期ということになる。


 神楽はと言えば、上の階で、玩具やら子供服などを買い込んでいた。


「こういうことって、あまり経験してないですから、何を買っていいのか悩んでしまいました」


 そう言って、神楽は小さく笑った。


 玩具と子供服を抱えたその顔は、いつもの警部の顔ではなかった。


《……あかん》


 今のは、ちょっと可愛いと思ってしもた。


「お前、今日は呑むなよ」


 俺は、照れ隠しのように神楽に釘を刺した。


 背割堤から御幸橋を少し北へ行くと、高速道路と立体交差する。そこを左に曲がりまっすぐ行くと、「大山崎ジャンクション」が見えてくる。


 桂川を超えて、名神高速の高架をくぐって、国道一七一号線の交差点を超えた先にある住宅街の一角に安田の家があった。


 若いのに家持ちって、《ローンが大変やろうな》と、宇賀田神社という家賃やローンの心配のない場所に住んでいる俺は、まずそんなことを思った。



「それにしても久しぶりやな、神楽ちゃん」

 ぐつぐつと煮える鍋を囲んで、安田の奥さん嬉しそうにが話し出した。


 神楽と朋子が、いつ、どのように繋がったかは知らんけど、見てる感じとしては、相当に仲が良さそうやった


「本当に、おめでとう」


 スーパーで買い込んだ、祝いのプレゼントを渡した。


「ありがとう。で、そっちはどうなん」


「えーっ」


 そう言って、神楽がわざとらしくお腹に手を当てた。


《こら、いらん動作をやめんかい。誤解を招くやないけ》


 と視線を送ったが、あっさり無視された。


「え、そうなんや。ほんならそっちもおめでとうやんか」


《ほら、見てみ。しっかりと、誤解しとるやんけ》


「うん。ありがとう」


《何がおめでたいんじゃ》


 ――しかもや。


 俺は家へ入る前に、何度も神楽に念を押していた。


「お前が運転して帰らなあかんのやから、絶対に呑むなよ」と。


 それなのに、家へ上がって数分もしないうちに、神楽は缶を傾け、ぐびぐびと喉を鳴らし始めた。


《何しとんねん》


 俺が歯噛みしている間に、神楽は勢いよく缶を空にした。


 そこで俺は、あることに気づく。


《そうか。そういうことやな》


 妊婦が酒を呑んだらあかんことくらい、当然知っている。


 それでも呑んだということは――来たんや。


 待ち望んでいた、生理が。


 俺の心は、一気に天まで舞い上がった。


「これ。ノンアルです」


 神楽が、空になった缶を俺へ向ける。


「車の運転以外の理由でも、お酒は駄目なので」


 そう言って頬を赤らめる神楽を見て、俺の心は、天上から地面へ、ズドーンと叩き落とされた。


「ん? 朋子、どないしたんや」


 朋子が俺の顔をじぃーっと見つめている。


 それに気づいたのか、すでにできあがっている安田が訊いた。


「あんね……」


 朋子は安田の耳元へ顔を寄せ、何やら囁いた。


《こら。やめろ。やめてくれ》


 安田みたいな脳筋は、得てして口が軽い。


 明日から捜査本部で、変な目ぇで見られるやんけ。


「えっ、マジか!」


 安田が鍋の向こうで目を剥き、俺を見た。


《ほれ見ろ》


「ちゃうねん。誤解やって」


 慌てて否定すると、朋子が俺を睨んだ。


「ちょっと、宇賀田君。聞いてるよ」


「何をや」


「知らないの?」


「せやから、何をやって訊いとるんや」


「あんね……」


 朋子は再び安田へ顔を寄せ、夫婦でひそひそと話し始めた。


《それをやめい。俺は客やぞ。しかも祝いの品や食材に、たんまり金を落とした太客やぞぉ》


 当然、俺の心の叫びが、この脳筋夫婦に届くはずもない。


 安田が、ぷっと吹き出した。


「マジか」


《同じことを繰り返すな》


「お前、本部の女連中から、女たらしのクズ扱いされとるんやって?」


「はあ? 誰がクズやねん」


「そういう噂があることは知っていますが、クズではありません」


 すかさず神楽が否定してくれた。


《さすが神楽や。ほれ、もっと言うたれ。この脳筋夫婦に、真の俺を教えてやってくれ》


「正確には、『女にだらしない、歩く少子化対策』と認識されています」


 はぁ?


 ……俺は種馬か。


「あと、『一メートル以内に近づくと、話すだけで妊娠させられる』とも噂されています」


 それを聞いた瞬間、俺は遠い目になった。


 確かに、思い当たることがある。


 以前から気になっていた謎が、一つ解けた。


《ほんで、おばちゃんと子供以外の女どもは、いつも俺から一定の距離を保って話しとったんか》



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