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隠し扉の真実  作者: 北島 将


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第一章「子供ができたの殺人事件」第三話「そんな、迷惑な能力なんていらんねん」(一)

(一)

 

 現場の天ヶ瀬ダムに着いたのは午後二時五分。神楽はすぐに車を降りて、規制線をくぐる。そしていち早く到着していた機捜の刑事に話を聞いた。


 その話によると、飛び込んだ現場と思われるダムの中央部分に、当人の物と思われるバッグが置いてあったらしい。所轄の刑事がそのバックの中身を確認すると、遺書などはなかったが、代わりに血の着いたナイフが見つかったと言う。


 それで、現場の判断だけでは済まないと見て、本部に連絡を入れたらしい。


――おっさん。


《鼻が臭うとか言う前に、はなからそれを言えや》


 同時に、財布の中にあった免許証で、遺体の身元が分かった。


――川上優子。平成二年五月三十日生まれの三十五歳。


 現住所は京都市中京区三条猪熊通南とあった。


《三条会商店街の近くか》


 あの辺は宇賀田神社の氏子さんの家があった場所なので良く知っていた。


「バッグとナイフは証拠保全してください。指紋、血液反応、DNA鑑定を急ぎでお願いします」


 神楽が所轄の警官に声をかけた。


「それと、免許証だけで身元確定とはしないでください。家族照会と指紋照合も並行で」


 神楽が、所轄の警官に静かに付け加えた。


《相変わらず的確な指示やな》


 何故か俺は、フッっと笑い、上から目線で思った。

 実際の階級は、向こうが上やけど……。


「これがバッグの中に入っていたナイフです」と、所轄の警官が俺に見せてきた。


 袋に入っていたナイフには、確かに血が付着していた。


 何気なくナイフの入った袋に触れたその瞬間、アレがやってきた。


 ズンという今までにない衝撃が頭の中を走った。


「……つっ」


 あまりの衝撃に、膝をついた。


 神楽が何か言っている。


 けれど、よく聞きとれない。


――


 悲しい?


 胸を内側から握り潰されるような、どうしようもない悲しみが流れ込んでくる。

 誰かの肩を掴む手が見えてきた。

 振り払われて突き飛ばされる。

 膝が、硬い地面にぶつかった。俺の手と膝に痛みが走る。

 その痛みと同時に、憎しみが湧いてきた。


『許さない』

 女の声が聞こえた。


 ナイフを見ている。

 刺したのか。

 刺した?

 いや、刺そうとしただけか。


 ――分からない。


 男の後ろに、誰かがいた。

 もう一人。

 男を羽交い締め? 影のように立っている。


 そいつが、悲しい目をして見ていた気がした。


――


 そうして周りが暗くなった……。





 気がつくと、病院のベッドの上にいた。


「……桔平ちゃん」


 何故か神楽が崩れるように膝をついた。痛みを感じたので、俺の手を見ると、指先の色が変わるぐらいぎゅっと握っていた。


「何しとんねん」

 俺は、そう言ったつもりやった。


 多分、握られた手の痛みで目ぇが覚めたんやと思ってムカついた。


 けど、声がちゃんと出たのかは分からない。


「桔平!」


 咄嗟に響いた声に、俺の身体が拒絶反応を示した。


 この静かな病室の空気を一瞬で切り裂き、強烈な圧を放てる人間は、俺の知る限り奴しかおらへん。


 姉の明菜や……。


 その瞬間、俺の身体が硬直し始めた。


 動かへん身体で必死に目だけを動かすと、姉ちゃんが両腕を広げ、俺に抱きつこうとしている。


 子供の頃、「桔平、おいで」と、優しい言葉で姉ちゃんが抱きついてくるときは、絞め技を食らわされる。


 やばいと思ったが、蛇に睨まれた蛙のように身体が動かへん。


 案の定、姉ちゃんの腕が俺の首へ回り、見事なスリーパーホールドが決まった。


「あんた。三日も目ぇ覚まさんかってんで」


 耳元で聞こえた姉ちゃんの声が、わずかに震えていた。


『明菜さんは、いつも優しい目で桔平ちゃんを見ていますよ』


 たしか、神楽がそんな感じのことを言うとったのを思い出した。


《フッ、なるほどな……これが姉貴なりの愛情表現っちゅうやつか》


 俺は、首を絞めている姉ちゃんの腕に手を置いて微笑んだ。


《そんな暴力的な愛情表現なんていらんねん》


俺は納得すると同時に、小さい頃から積もりに積もった怒りが沸々と湧き出てきた。


 そのとき、病室の扉が勢いよく開いた。


 バタンッ――という音に、姉ちゃんがようやく技を解く。


 解放された俺の前へ、未央がずかずかとやって来た。


「生きてるんですねぇ」


《はぁ? 生きてたら、あかんのけ?》


 こいつの語尾を訊いてると、生きてるんが不思議な気がする。


 そしていきなり抱きついて大きい声で泣き出した。


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