第一章「子供ができたの殺人事件」第二話「第二話「会社名が『非道』て何やねん」(四)
(四)
DNA型の一致で、話は一気に大事になった。八幡署で起きた事件は、もう八幡署だけの事件やない。
四年前、柴田ゆかりの事件を扱っている向日町署も巻き込んで、捜査本部は合同捜査本部へと組み替えられた。
会議に先立ってもう一度、四年前の事件の詳細を、向日町署の「スキンヘッド安田」が大まかな事件内容を話した。
「当時、桂川を徹底して捜索しましたが、携帯電話は見つかりませんでした」
俺は、何故か宇治川で発見された八台目のスマホを思い出していた。
薄いピンク色のスマホケースに貼られていた熊のシール。
あれは女の子が、選びそうなやつやった。
同時に、氏名不詳の被害者に名前が付いた。
――室田康太、三十一歳。
四年前、柴田ゆかりの体内から検出されていた男性DNA型と、別班が押収した室田康太の歯ブラシからとったDNA型と一致した男。その名前が、ようやく帳場のホワイトボードに貼られた。
さらに、大野晴子のお腹の中にいた子供についても、鑑定結果が出た。
胎児は、室田康太の子である可能性が極めて高いとの報告があった。
それで、線がまた一本増えた。
「宇賀田。なんか意見あるか」
正面のテーブルの真ん中にいる、山際のおっさんが俺に話を振った。
「俺の私見でもええですか」
俺の中で、あくまで疑惑の域をでえへん話しなので確認した。
「かまへん。思ったこと、言うたらんかい」
任侠映画の誰をイメージしとるんか知らんけどおっさんは、目をぎょろつかせていた。
「まず俺が思う疑問点は、四年前の事件が一点。家宅捜索で大野晴子の部屋から消えたパソコンが一点……以上です」
腹ん中にくすぶっていた疑問を言い切って、俺は胸を張って座った。
《なかなか綺麗にまとまったで》
そう思ったのに、山際のおっさんが静かに言った。
「それで?」
「はい?」
「はい? やあらへんねん。その先を言わんかい」
そのとき横にいた神楽が手を上げた。
「課長、彼が言いたかったのは、別々に見える事件がもしかしたら見えない何かで繋がっている可能性がある――ではないでしょうか」
「ほんまか。ウガンダ」
山際のおっさんが、鋭い目で訊く。
俺は周囲の冷たい視線に耐えながら、遠い目をして考えた。
ここで「はい」と言えば、神楽の手柄になるやんけ。
――それは嫌やな。
かといって「違います」と言えば、俺が何も考えてへんことにならへんか?
――これは……確実に詰んだな。
「……以上です」
もう一度、言った。
「はあ?」
「そういうことですわ」
「つまりは考えがまとまってへん、言うことやな」
帳場のあちこちで、遠慮のない笑いが起きた。
《こらっ。お前ら……笑うな》
俺は、帳場で笑いを取りに来とるんやないでと、何度も目で訴えた。
「ですが、宇賀田君の違和感は重要です」
神楽が、静かに続けた。
「大野晴子さんの部屋から、パソコンが消えている。しかも携帯電話の行方も掴めていない。これは偶然では片づけにくいと考えるべきではないでしょうか」
《そうや、そこや。それを俺は言うとるんや》
俺は、さも自分がそう言いたかったように頷いた。
「中に後ろめたい何かがあった、いうことか」
山際のおっさんが訊いた。
「はい。四年前の柴田ゆかりさんの事件、そして今回の室田康太殺害につながる何かです」
次々、俺が言おうとしていたことを、得意気に話す神楽を見て、腹が立った。
「おそらく、誰かが証拠を回収しています。しかも、事件発生から家宅捜索までの短い時間で」
神楽はホワイトボードへ視線を向けた。
「調べたところ、室田は五年前に、八幡市に転入しています」
……それは知らんかった。
神楽の奴、いつの間に調べたんや?
「五年前……」
脳筋のスキンヘッド安田が口を挟んだ。
「どないした。言うたらんかい」
《そやからおっさん、テレビの見過ぎや言うとるやろ》
誰も言わないので、俺が心の中で突っ込んであげた。
「では。大阪府警の管轄ですが、五年前の六月にも似た事件がありました」
安田が当時の資料を捲りながら「淀川で、二十代の男性の水死体が上がっています」と言った。




