season1 第18話 「午後になると」
これは実際に経験した中学の頃の経験をもとに書いた小説です。「全20話」
*"朝は大丈夫だった。だからこそ、午後になるたびに崩れていく自分が怖かった。"
中学三年生になって、しばらく経った。
私は相変わらず、毎朝学校へ行っていた。
教室に入り、授業を受ける。
去年の自分からは、想像もできなかった毎日だった。
でも、少しずつ変化が出てきた。
午前中は、まだ大丈夫。
先生の話を聞いて、ノートを書いて、友達の声を聞く。
「今日も来れたね。」
担任の先生が、廊下ですれ違ったときに声をかけてくれる。
「はい。」
私は笑って答える。
その頃は、本当に大丈夫だと思っていた。
けれど――
お昼が近づくにつれて、頭が重くなる日が増えていった。
最初は、少し痛いだけだった。
「まあ、これくらいなら大丈夫。」
そう思っていた。
でも、日によっては授業に集中できないくらいになる。
黒板を見ていても、先生の声を聞いていても、頭の中にうまく入ってこない。
午後の授業が始まる頃には、さらに辛くなることもあった。
「Ami、大丈夫?」
担任の先生が気づいてくれる。
「……ちょっと頭が痛いです。」
「保健室行く?」
私は少し迷ってから、うなずいた。
「……はい。」
先生は何も言わず、一緒に保健室まで来てくれた。
「また来たね。」
養護の先生が私を見る。
「頭痛?」
「はい……。」
「じゃあ、少し休もうか。」
ベッドに横になる。
保健室は静かだった。
教室とは違う。
先生の声も、廊下の音も、少し遠くに聞こえる。
私は目を閉じた。
「最近、午後になると増えたね。」
養護の先生が静かに言った。
「……そうなんですよ。」
担任の先生が言う。
「朝は大丈夫?」
「はい。」
「そっか。」
先生はそれ以上、無理に聞かなかった。
少しすると、担任の先生も様子を見に来てくれた。
「Ami、どう?」
「まだちょっと痛いです。」
「そっか。」
先生はベッドの横で少しだけ立ち止まった。
「無理しなくていいからね。」
その言葉を聞くと、少しだけ安心した。
以前なら、保健室に行くことさえ怖かった。
「また学校に行けなくなるんじゃないか」
そんな不安があったから。
でも今は違う。
保健室で休んでも、先生は責めない。
「頑張って教室に戻ろう」と無理に言うこともない。
ただ、
「休んでいいよ。」
そう言ってくれる。
それが嬉しかった。
けれど、保健室で休む日が少しずつ増えていった。
一日だけじゃない。
何日も続くことがあった。
朝は普通に学校へ来ているのに、午後になると保健室へ行く。
そんな日が当たり前になり始めていた。
ある日の帰り、担任の先生が言った。
「最近、午後になると辛そうだね。」
「……はい。」
「ちゃんと先生たちに言ってね。」
「でも、学校には来れてるので……。」
先生は少し考えてから言った。
「来れてることはすごいよ。」
私は顔を上げた。
「でも、辛いことを我慢する必要はないからね。」
その言葉に、私は小さくうなずいた。
「……分かりました。」
帰り道。
私は朝の自分を思い出していた。
朝はちゃんと学校に来られた。
教室にも入れた。
授業も受けた。
それなのに、午後になると身体がついてこない。
どうしてだろう。
私は少し不安になった。
でも、まだ大丈夫だと思いたかった。
だって私は、やっと毎日学校に来られるようになったのだから。
その場所を、また失いたくなかった。
私は知らなかった。
これから、保健室で過ごす時間がもっと増えていくことを。
そして先生たちが、私の小さな変化に気づきながら、そばにいてくれるようになることを。
あの日の私はまだ、
「大丈夫」
という言葉を、自分に言い聞かせていた。




