season1 第17話 「走り出した春」
これは実際に経験した中学の頃の経験をもとに書いた小説です。「全20話」
*"変わりたいと思ったわけじゃない。ただ、気づいたら私は、昨日までとは違う場所に立っていた。"
中学三年生になった。
去年と同じ担任の先生。
そして、ずっと話を聞いてくれていた養護の先生。
それだけで、少し安心できた。
でも、三年生になってからの私は、今までとは少し違っていた。
朝、学校へ行く。
教室へ入る。
席に座る。
そして、授業を受ける。
それが毎日続いた。
自分でも不思議だった。
中学二年生の頃は、教室に入ることさえできなかった。
授業を受けることもなかった。
それなのに今は、朝から教室にいる。
先生に「おはようございます」と言って、クラスメイトの声を聞きながら一日を過ごしている。
「Ami、最近頑張ってるね。」
担任の先生がそう言ってくれた。
「……そうですか?」
「うん。毎日朝から来てるじゃん。」
私は少し照れくさくなって、笑った。
「……頑張ってます。」
「うん。ちゃんと知ってるよ。」
その言葉が嬉しかった。
三年生になって、二週間ほどが過ぎた頃。
少しずつ、体に変化が出始めた。
朝から学校へ行くことはできている。
授業も受けている。
ーーでも、以前より疲れやすい。
頭が痛くなることもあった。
それでも私は、
「大丈夫。」
そう思っていた。
せっかく毎日学校へ行けるようになったんだから。
ここで休んだら、また戻れなくなる気がした。
だから、先生たちにもあまり言わなかった。
それでも、担任の先生は少しずつ変化に気づいていた。
「Ami、今日大丈夫?」
「はい。大丈夫です。」
「本当に?」
「……大丈夫です。」
先生はそれ以上聞かなかった。
でも、少し心配そうな顔をしていた。
そんな日々が続いた。
そして、スポーツテストの日。
いつもとは違う場所。
たくさんの人の声。
身体を動かす種目。
私は一つ一つをこなしていった。
けれど、終わった頃には、かなり体調が悪くなっていた。
「……先生。」
担任の先生がすぐにこちらを向いた。
「Ami、大丈夫?」
「ちょっと……しんどいです。」
先生は私の様子を確認しながら、脈を測ってくれた。
そのときだった。
先生の視線が、私の腕に止まった。
私は一瞬、固まった。
――見られた。
今まで、担任の先生には話していなかった。
キズのことを知っているのは、養護の先生だけだった。
どうしよう。
そう思った。
腕を隠したくなった。
でも、先生は怒らなかった。
何かを問い詰めることもしなかった。
ただ、静かに私を見て、
「……大丈夫。苦しいとかある?」
そう言った。
私は顔を上げた。
「今は体調のほうを優先しよう。」
その声は、いつもと同じだった。
優しかった。
「……すみません。」
やっと出てきた言葉は、それだけだった。
先生は首を横に振った。
「謝らなくていいよ。」
その瞬間、胸の奥がいっぱいになった。
ずっと隠していたものを見られた。
それなのに、先生は離れていかなかった。
その日は先生と一緒に保健室へ向かった。
養護の先生も私を見ると、すぐに声をかけてくれた。
私は椅子に座りながら、二人の先生を見た。
今までキズのことを知っていたのは、一人だった。
でも、この日からもう一人、知っている先生が増えた。
怖かった。
でも、不思議と少しだけ安心もしていた。
帰る頃、担任の先生が言った。
「今日はゆっくり休んでね。」
「……はい。」
そして、
「また明日。」
私は少し迷ってから答えた。
「……また明日。」
三年生になったばかりの頃。
私は「毎日学校へ行けるようになった」と思っていた。
でも、その二週間後から、少しずつ体調が変わっていった。
それでも私は、まだ学校へ行こうとしていた。
これから少しずつ変わっていく日々を、このときの私はまだ知らなかった。




