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10年の眠りから覚めたら、助けた少年が執着侯爵になって激重な愛を注いできますっ!  作者: 越智屋ノマ@10/8書籍発売『兄王陛下』/コミカライズ進行中


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第36話:本当のこと、全部

――今は、帰路。

王都に向かう寝台列車の一等客室で、エルダとラファエルは向き合って椅子に座っていた。個室の外には護衛の騎士が控えている。


「もう一度確認よ? レイが呪いで眠ったり、命を落としたりすることはない……本当に信じていいのね?」

怖いくらい真剣なまなざしで、エルダはラファエルに問いかけていた。

「本当です」

「……そんなにたくさん痣があるのに」

少し頬を熱くしながら、エルダがラファエルの二の腕や胸を凝視していた。痣の状態を把握するためにシャツを脱がせている――露わになった彼の上半身には、痛々しいほどに痣が広がっていた。


「これも少しずつ消えると、ドクター・ピーナに言われています」

「……そう」

二度、三度とくり返しその話を聞いて、エルダはようやく安心してきた。……彼が死なず済むのなら、ひとまずは、それでいい。

「分かったわ……じゃあ、シャツは着て大丈夫よ」


でも、「それだけで十分」とまでは言えない。気になることは、他にもある。

エルダは深呼吸をして、ラファエルを正面から見据えた。


「でも。やっぱり私たち、距離を置くべきだわ」

「……なぜですか」

「だって――」


だって。


「あなたには、婚約者がいるんだもの」

現実を直視するのが怖い。けれど、逃げずにまっすぐ言った。


「なのに私に想いを寄せるなんて、そんなのは……!」

「エルダ」

ラファエルがそっと声を重ねる。


「私に婚約者なんていません」

「……嘘つき」

「本当です。なぜいると思ったんですか?」

「だって、王太子殿下が……」

「執事のフェンネルから、当時の状況は聞きました。殿下は『婚約者』なんて一度も言っていなかったはずです」

「え?」


エルダは、必死にあの日の記憶を手繰り寄せた。

王太子はなんと言っていた?

……結婚式。『愛しの君』への挨拶。

正直を言うと、細かいところは覚えていない。胸にぽっかり穴が開いて、頭が真っ白になっていた。


「まさかエルダが、そんな勘違いをしていたとは……。どうりで噛み合わないはずだ」

レイは溜息をついた。

「今から大事なことを伝えます。できるたけ驚かないでください」

ラファエルが言ったこと。それは――。


「実は私は、既婚者です」


――がつん。と、頭を殴られたような衝撃だった。

「そんな……!」

まさか入籍していたなんて。


「そ、それじゃあ、奥様はどこにいらっしゃるの!? 私、一度もご挨拶をしたことがないわ。こんな失礼なことって……」

「その心配はありません」

「え?」

「あ(・)な(・)た(・)な(・)の(・)で(・)」


――は?


「私の妻は、エルダです。実はもう私たちは入籍済みです」

「はい――――――!?」


絶叫だった。

あわあわと震えるエルダに、言い聞かせるようにラファエルが続ける。


「あなたがまだ眠っている間に、婚姻届を提出しました。届け出に必要なのは夫の署名と、妻の(・)家(・)の(・)当(・)主(・)の署名――オルドー子爵家が取り潰される前に署名させました」

「なんっ……、なんで勝手にそんなこと……!」

「すみません。本当はずっと打ち明けたかったんです。でもいきなりそんな話をしたら、ショックで呪いが再発するかもしれないでしょう? だから先に、しっかり関係を深めなければと」

「じゃなくて、そもそもなんで入籍したの!?」

「国王を納得させるためです」

「?」


ラファエルは話した――入籍の背景には、王家との縁組を避ける意図があったと。


「縁談を求める貴族があとを絶たず、とくに王家からの打診となると厄介で。ですが、エルダ以外を娶るなんてありえません」

だから、入籍したそうだ。親友の王太子が、いろいろと便宜を図ってくれたらしい。


「…………」

エルダは、開いた口が塞がらなかった。

「勝手にすみませんでした」

ラファエルは椅子から立ち上がると、エルダの前にひざまずいた。


「エルダ、どうか私と結婚してください」

「…………もうしてるじゃないの」

なんだか、おかしい。

噴き出して笑ってしまった。


「レイったら、いつからそんなに強引だったの。……もしかして最初からそうだった?」

クスクスと、笑いが全然止まらない。

心に羽が生えたみたいで、すごく軽い。楽しくて、なんだか嬉しい。


「あははははは」

「エルダ?」

「私とっくに、レイのお嫁さんだったのね」

ぎゅ。と、エルダはラファエルを抱きしめていた。


「これからは言ってね」

「……?」

「安心して、全部教えて」


大輪の花が綻ぶように、エルダは泣き笑いをしていた。


「全部知りたいの。レイのこと」

「…………エルダ」

ラファエルが、ぎゅっとエルダを抱きしめ返す。その腕は少し震えていた。


「はい。――遠い昔から、ずっとあなたを愛していました」

「うん」

胸の中で甘えるように、エルダは身体の力を抜いた。

「私も。レイを愛してる」


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