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10年の眠りから覚めたら、助けた少年が執着侯爵になって激重な愛を注いできますっ!  作者: 越智屋ノマ@10/8書籍発売『兄王陛下』/コミカライズ進行中


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第35話:惨めな女の幕引き


「――エルダ!」

鋭い叫びは、ラファエルの声だった。十数名の騎士を連れ、血相を変えて駆け込んでくる。バーネットやセージの姿もあった。


アルシュバーン家の騎士達は瞬く間に悪漢どもを鎮圧し、キャロラインは愕然とした顔でその場に立ち尽くす。


エルダは、ラファエルにきつく抱きしめられていた。

「エルダ! こんなことになっていたなんて……」

悔しそうに言いながら、ラファエルはエルダの口を縛る布をほどいてくれた。


騎士達が悪漢に縄を掛けて引きずり出していく中、ラファエルは冷たい声をキャロラインに投じた。

「貴様は、デヴォン侯爵家のキャロライン第九夫人だな」

不潔なゴミを見るような視線を、ラファエルはキャロラインに向けている。


「エルダの拉致を試みた罪は重いぞ。覚悟はできているだろうな」

「ひっ」

刃物のように鋭い視線に、キャロラインがすくみ上がっている。


「ア、アルシュバーン侯爵閣下……? あ、あの」

しどろもどろになりながら、キャロラインは必死に取り繕おうとしていた。

「ら、拉致だなんてそんな……。わたくしはただ、姉に会いたかっただけですのよ?」


キャロラインは、媚び入るような笑みを浮かべた。

「こうして閣下と直接お話をさせていただくのは、初めてですわね……! ああ、なんて美しいのかしら!」


そんなことを言いながら、キャロラインはラファエルに近寄ろうとしていた。


「閣下のおかげで、姉は目覚めたんですもの……家族としてお礼を言わせてくださいませ」

「……家族だと?」

レイが冷たく呟いた。


「ええ! あなたのようにすばらしいお方と、お近づきになれたらどんなに素敵かしら!」

ねっとりとした声で言い、目をパチパチとしばたたかせながら。キャロラインはなおも近づいてくる。


「ねえ、アルシュバーン侯爵閣下。わたくしと仲良くしてくださらない? デヴォン侯爵の弱みを教えますから、どうか今後はわたくしと――」


キャロラインがラファエルに手を伸ばす。だがその瞬間に叩き落されていた。

「情報など不要だ。貴様の愚行で、デヴォン侯爵家は信用を失うだろう」

「……へ?」

ぽかん、とした顔でキャロラインは間抜けな声を漏らしていた。


「愛人の犯罪行為はデヴォン侯爵の管理責任だ。エルダの拉致と家令への恐喝を、王立裁判所に申し立ててやる」

「き、恐喝なんて……! だって、エルダお姉さまはただの被験者で、用済みで放り出されたって……」

青ざめていたキャロラインは、やがてハッとした顔でグレンナを睨みつけた。


「こ、このババァ……! さては、わたしを嵌めたのね!?」


グレンナは明後日の方向を向いて聞こえないふりをしていた。……エルダには、いまいち状況が分からない。


ラファエルに命じられた騎士のひとりが、キャロラインを連行していった。


「いやぁああ! ちょっと離して、離してよぉ――!!」


人気のない倉庫街に惨めな叫び声が響き、やがて残響の尾を引いて消え失せた。


「――――はぁ」

ラファエルは溜息をついてから、忌々しそうにグレンナを睨みつけた。

「グレンナ。あなたの処遇はどうしてやりましょうか」

「はて? なんのことでございましょうかね、旦那様?」

「貴様……」

肩をすくめて笑うグレンナに、食って掛かろうとしたラファエル。そんな彼を引き留め、エルダは問いかけた。

「どういうこと!? ……私、全然わからないわ!」


キャロラインが待ち受けていた理由も、ラファエルが間一髪で助けてくれた経緯も全然わからない。


混乱しているエルダを見つめ、レイはもう一度溜息をついた。

「グレンナが、あなたを餌にしてデヴォン侯爵の愛人を罠にかけたのですよ。……まったく、こんなふざけた真似をするとは」


「許可なら取っただろう? 『その件は一任する』と言ったのはあんただよ」

「……っ!」


レイとマザー・グレンナが、また揉めそうになっている。

きょとんとしているエルダを見つめ、ラファエルはこめかみに青筋を立てながら教えてくれた。


「エルダの近況を知ろうと接触してきた彼女を、グレンナが逆に利用したんです」

「……レイは、その計画を知っていたの?」

「そんな訳がないでしょう!」

ラファエルが声を裏返らせる。


「あなたに危険が及ぶようなマネをするわけがない。グレンナの悪巧みを知ったのは、あなたが屋敷からいなくなった後でした……」


屋敷には、グレンナからの置き手紙が残っていたそうだ。その手紙にはキャロラインに与えた偽情報の内容と、倉庫街での取引日時が詳しく書いてあったらしい。


「馬車では到底間に合わず、馬を乗り継いでようやく間に合うかどうかのタイミングでした」

「先回りされないように、タイミングを図るのに苦労したよ」

「……万が一間に合わなかったら、どうするつもりだったんだ」

「あんたなら、どうとでもするだろう?」

「この……」

「それに頭を下げるのはあたしじゃなくて、あんた達のほうだろう?」

グレンナはにやりと笑って二人を見つめた。


「屋敷から引きずり出しでもしなきゃ、レイもエルダもごちゃごちゃ言い合ってばかりじゃないか。いい加減、その関係に白黒つけな。あたしは昔っから、グズが大嫌いなんだ」

「「……!」」

びしり。と、彼女はふたりを指さした。10年前とまるで変わらぬ威圧感に、ラファエルもエルダも絶句してしまう。


グレンナは旅行鞄を一つ持つと、ラファエルの脇をすり抜けてつかつかと歩いていった。


「……グレンナ。どこへ行く気ですか」

「アルシュバーン領に戻るのさ」


まるでレイに処罰される可能性なんて、まったく考えていない態度だ。

グレンナは振り返りもせず、そのまま歩き去っていったが――やがて突き当りの角を曲がる直前に、真顔でこちらをふり返った。


「エルダ、あとは自分で決めな。あたしの助言はここまでだ」

そのまま彼女の姿は曲がり角の向こうに消えてしまった。


……嵐が去ったような静寂。



取り残されたエルダとラファエルは、言葉を失くして立っていた。近くで控えていた二人の騎士が、ぽつりとつぶやく。

「うわー。やっぱ怖ぇな、あの婆さん」

「ほんと。昔から全然変わんないわ」

そう呟いたのは、セージとバーネットだった。


残り2話で完結です。明日(10月7日)は、お昼12時、夜18時の2話投稿ですのでよろしくお願いします!

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