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10年の眠りから覚めたら、助けた少年が執着侯爵になって激重な愛を注いできますっ!  作者: 越智屋ノマ@10/8書籍発売『兄王陛下』/コミカライズ進行中


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第32話:告白

「ん…………。よく寝た」

朝の気配に誘われて、エルダは目覚めた。


少し目が浮腫んでいる。きっと、昨日の誕生日パーティで大泣きしたからだと思う。


「本当にすてきだったわ……」

夢のような1日だった。

エルダはサイドテーブルに置いてある3つの小箱を抱き寄せた。どれもラファエルからのプレゼントで、一生ものの思い出だ。


「ありがとう、レイ……。最高のお誕生日、一生忘れないわ」


でも、お誕生日はもう終わってしまった。だから思い出を胸に、自分は前へ進むべきだ。


(幸せになってね、レイ。私も自立に向けて頑張るから……!)

気合を入れ直すために、エルダは両手で自分の頬をぱしっと叩いた。




朝食後、エルダはひとりで蔵書室に入った。手に取ったのは、使用人向けの職業案内書だ。さまざまな職種や就労方法が紹介されている。


(このお屋敷を出た後、私がどんな仕事に就けるか。まずは下調べから始めましょう)

しっかり勉強しておかないと。10年眠っていた間に、世間は進んでいるはずだ。

住所不定無職27歳の元令嬢というなんとも微妙な現状だけれど、凹んでいる暇なんてない。


蔵書室の席に着いてエルダがじっくりと本を読んでいた、そのとき。

「――おはようございます、シスター」

振り返ると、侍女のアニスがそこにいた。


「いないから探しちゃいました。ここにいたんですね」

「ええ」

アニスが、ひょっこり覗き込んでくる。


「……職業案内書、ですか? どうしたんです、急に」

「ここを出たあとの働き口を調べておきたくて」

「え!!?」

アニスがよろけた。エルダは慌てて椅子から立って手を差し伸べる。


「大丈夫? どうしたのよ、アニス」

「どうしたって……シスターのほうですよ! まさか出ていくつもりなんですか!?」

「それはそうよ。いつまでもここにいたら、ラファエル様が困るでしょ」

「~~~~~~~っ!? ちょ、ちょっと失礼します!!」

アニスは激しくうろたえて、蔵書室から飛び出してしまった。

「……どうしたのかしら。アニスったら」


程なくして、ラファエルが血相を変えて現れた。なぜだか、ひどく余裕がない。

「エルダ!」

「おはようございます、ラファエル様」

居住まいを正して笑顔で言うと、彼の美貌に切なげな影が差した。――でも昨日が特別だっただけで、本当は『ラファエル様』と呼ぶのが正しい。


「……エルダ。どうして屋敷を出ようと?」

「いつまでもラファエル様にご迷惑をかける訳にはいきませんから」

「迷惑なわけないでしょう!」

しっかりと、手を包み込まれた。心臓がまた高鳴ってしまう――こんなの、ダメなのに。


「いつまでもそばに居てください。私にはあなたが必要です」

怖いくらいの真剣な瞳で、まっすぐに見つめてくる。そんなに、見つめないでほしかった。


「……ダメですよ、そんなの」

手を放そうとしたけれど、ラファエルは決して力を緩めてくれなかった。

「なぜ私から逃げたがるんですか?」


「ラファエル様こそ、どうしてそんなに私にかまうんです?」

「まだ分からないんですか」

彼は苦しげに息をつき、やがて、声を絞り出した。


「愛しているからに決まっている」

「………………!!」

言われた瞬間、頭が真っ白になった。ラファエルの目を、怖くて見つめ返すことができない。

……嬉しい。

そう思ってしまった自分が、いやだった。


「……だめ」

本当は、私もあなたが大好きと心が叫びたがっていた。……でも。だめだ。



ぐい、と引き寄せられていた。

そのままきつく抱かれて、逃げられない。

「離して……」

「逃がさない。私はエルダしかいらない。あなたのすべてが欲しいんだ」


言わないで。そんなの、絶対聞いちゃダメなのに。

エルダは、震えていた。

「お願い、やめて。……婚約者がいるくせに、どうしてそんなこと言うの?」


びくり、と彼の動きが止まった。

「婚約者……?」

「本当は私、知ってたの。レイはもうすぐ結婚するんでしょ? ……なのに、なんで『愛してる』なんて私に言えるの?」


びっくりした顔のまま、彼は身じろぎもしなかった。


「……そんなのって、不誠実だわ」

「エルダ。あなた……まさか」

「ともかく離して!」


彼の腕を振りほどこうと、エルダは両手に力を込めた。

――びり。という布の裂ける音がして、ハッとする。

力を込めた拍子に、ラファエルの手袋に指が掛かって破いてしまった。彼の素肌が露わになり――。



「……レイ! そのアザは――!」

「っ――」

彼の手の甲に浮かんでいたのは、いばらの呪いの痣だった。


ラファエルは弾かれたようにエルダから距離を取り、その手を背中に隠した。けれど、もう手遅れだ。

「……違います、エルダ。これは――」

「まさか、あなたまで呪いに……?」


ウソだ、そんなのあり得ない。恐怖に飲まれて、何も考えられなくなった。

自分が倒れることよりも、彼がいなくなるほうが怖い。

ラファエルの人生が壊れてしまう。

そう思った瞬間、エルダはその場に倒れ込んでいた――。



   *


「……は!? なんだって、エルダが倒れた?」


グレンナは、素っ頓狂な声を上げた。

「そうなんです!」

「また呪いが再発してしまって――」

押しかけてきたアニスたちが、涙声で報告を続ける。


「ラファエル様と言い合いになったみたいです」

「……それで再発したってのか」


グレンナは呆れながら、アニスたちの話を聞いた。

「まったく、レイもエルダも情けない」


足早に、エルダの病室へと向かう。部屋の前の廊下に、元孤児たちが落ち着かない様子で立っていた。


「お前たち。ここはあたしに譲りな」

「「「え……」」」

「全員さっさと自分の持ち場に戻れと言ってるんだ。時間を無駄にするんじゃない」


元孤児たちを追い払うと、グレンナは病室に入った。ベッドにエルダが横たわり、ラファエルはひどく消沈した様子で彼女の傍らに控えている。


「レイ。あんたも出な」

「……グレンナ」

ラファエルは、訝しげに眉をひそめた。


「あんたとエルダじゃ、何か月待っても話が進みやしない。いい加減じれったいんだよ――エルダのことはあたしに任せな」




ラファエルを外に押し出すと、グレンナは眠るエルダを振り返った。


「いつまで経っても世話の焼けるガキばかりだね。…………ふん。面倒な仕事は一気に片付けるに限る」


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