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10年の眠りから覚めたら、助けた少年が執着侯爵になって激重な愛を注いできますっ!  作者: 越智屋ノマ@10/8書籍発売『兄王陛下』/コミカライズ進行中


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第30話:最高のサプライズ

「お帰りなさい。ラファエル様、シスター・エルダ。お誕生日パーティの時間まで、ゆっくり休んでくださいね!」


自室での休憩時間を挟み、夕食どきに侍女たちが迎えにきてくれた。通されたダイニングには、二人分のご馳走の準備が整っていた。


席についていたラファエルが、朗らかな笑みを浮かべて立ち上がる。

「お待ちしていました、エルダ」

「ありがとう。こんなにしてもらって、なんてお礼を言えばいいか……」

「特別な日ですから。10年分のお祝いをしなくては」


彼はエルダの手を取って、テーブルへと導いてくれた。

「……あら?」

ふと、エルダがラファエルの手を見つめる。

「レイ。どうしてお屋敷の中でも手袋をしているの?」

外出時に着けていた白手袋を、なぜかラファエルは外していなかった。礼装でもないのに、室内で手袋を着用するのは珍しい。


「ええ。最近は、貴族男性の間で手袋の着用が流行っているんですよ」

ラファエルは、さらりと答えて微笑している。


「へえ。10年寝てると色々変わるのね」

「じゃあ、食事を始めましょうか」


豪勢なディナーの並んだテーブルを二人で囲む。

ミモザたち3人の給仕はとてもスマートで、思わず見惚れてしまうくらいだ。夢見心地のうちにディナーは進み、やがてデザートの時間になった。


ラファエルが、すっと立ち上がってエルダの前までやって来た。ひざまずき、優しい笑みを咲かせてベルベットの小箱を取り出す。


「誕生日のお祝いです。エルダ」

「……嬉しいけれど、貰えないわ。ジュエリーサロンでも、すてきな指輪をいただいたもの」

「あれはただのお土産です。こちらは誕生日祝いですから」


戸惑いながらも、エルダは小箱を手に取った。視線で優しく促され、小箱の蓋を静かに開ける。


金細工のネックレスが入っていた。

アメジストとガーネットの二つの石が、絡み合う蔦飾りのなかで睦び合うように輝いている。


「今日のために特別に造らせたものです」

「とても素敵ね。……アメジストは、あなたの瞳の色と同じだわ」

するとガーネットはもしかして、自分の赤い髪だろうか――そんなふうに思った瞬間、頬が熱くなってしまった。

ふたりの色が交わるようなデザインは、まるで、何らかの気持ちを象徴するようで――。


(でも……私が受け取ってもいいの?)

エルダが躊躇していると、ラファエルは何気ない口調で説明を添えた。

「ああ。その二つの石は健康への祈りを込めて選びました」


「……健康への祈り?」

「ええ。新大陸では、アメジストは穢れを祓い、ガーネットは血液の巡りを高めて病を癒すと信じられているそうです」

「そうだったのね」


……ホッとした。

勝手にいろいろ憶測してしまい、恥ずかしくなってくる。


「受け取っていただけますか」

「ええ。ありがとう」

「着けてさしあげますね」


そう言うと、ラファエルはネックレスを取ってエルダの後ろに立った。

首の後ろに体温を感じ、耳まで熱くなってくる――真っ赤な耳を見られてしまうのではないかと心配しているうちに、首元には二つ石のネックレスが飾られていた。


「……とても綺麗」

自分にはもったいないくらい、すてきな贈り物だと思った。


「やっと渡せた」

ふっと小さな息を吐きだし、ラファエルは安堵したように笑っていた。

「10年前の誕生日は、渡せませんでしたから」


そうだ。あの日、レイが用意してくれたプレゼントを受け取る直前、エルダは眠りに落ちて。


「10年前、レイは何をくれるつもりだったの?」

「子供だましの安物ですよ。当時はそれが精一杯でした」

「……欲しかったな」

ぽつりとつぶやくと、ラファエルは切なげに微笑した。


「ありますよ」

「え?」

「あなたに渡せなかったあの小箱は、今も持っています。……未練がましいでしょう?」


それから、甘えるような声で尋ねてきた。

「僕に、あの日をやり直させてくれますか? ……シスター」


――ほしい。エルダはこくりとうなずいていた。


ラファエルはダイニングから一度出て、小箱を持って戻ってきた。あのラッピングには見覚えがある。10年前の誕生日に貰おうとしたプレゼントだ。



胸が、どきどきと早鐘を打つ。


エルダは立ち上がって、ラファエルの前に立った。10年前に戻ったみたいだ。あの日はエルダのほうが背が高かったのに、今ではラファエルのほうが高い。でも、あの日と同じ甘えん坊の彼が、すぐ目の前に立っている。


「お誕生日おめでとうございます、シスター」

「ありがとう。レイ」


ドキドキしながら、ラッピングを解いていく。小箱の中には、紫色のガラス玉が嵌った指輪が入っていた。一生懸命お金を貯めて、選んでくれたプレゼント。


うれしくて、手が震えた。

「……うれしい。すごく」

幸せが込みあげて、目から涙がこぼれそうになる。失われたあの頃が、胸の中に蘇ってきた。

「大事にするね……レイのプレゼント、私、ずっと大切にする」

指輪を大事に撫でながら、幸せをかみしめていた。


そんなエルダを、ラファエルは瞬きもせずに見つめていた。でも、やがて――。


「実はまだ、取っておきのサプライズプレゼントがあるんです」


彼はおもむろに呼び鈴を鳴らした。

これ以上、何をくれるというのだろう。これ以上はもう本当に――


「え?」


ダイニングに入ってきたのは、二十歳前後の男女が十数名。

屋敷で働く者たちのようで、メイドや料理人、庭師や執事、騎士までもがそこにいる。そしてミモザとローゼル、アニスとバーネットも彼らと一緒に一列に並んだ。

笑顔を輝かせる彼らを見て、エルダは目を見開いていた。その目から、ぽろりと涙が一粒落ちる。


――知っている顔だ。このメイドも、この料理人も騎士も庭師も執事も。全員……知ってる…………!


「シスター!」

「シスター・エルダ」

彼らは口々に『シスター』と呼んだ。


「みんな……!?」

修道院で共に暮らした子どもたちだ。レイも含めて13人、全員が目の前にいる。

「みんな、どうして!?」


かつて子どもだった彼らは、エルダを囲んでわいわいと声を弾ませた。

「俺たちみんな、アルシュバーン侯爵家に仕えてるんだ」

「おれ、庭師になったよ」

「わたしはメイドです!」

「私は執事になりました」


……これは夢ではないだろうか? 


「シスター。……私たちのこと、覚えてる?」

「もちろんよ、絶対に忘れたりしないわ!」


エルダは一人一人を見つめて名前を呼んでいった。フェンネル、リンデン、マートル、セージ、ミモザ、アニス、ローゼル、バーネット、タンジー、ローズマリー、ホップ、ネトル、……そしてレイ。全員、大事な子。


「みんな! どうしてこれまで姿を見せてくれなかったの!?」

エルダが声を裏返らせると、みんなは意味ありげな顔をしてラファエルを見つめた。


「私がそうするように頼んだんです」

「レイが!? どうして?」

少し気恥ずかしそうな顔で、ラファエルは肩をすくめている。


「……エルダを驚かせたかったからです。だから、時期が来るまで内緒にすると決めました。身の回りの世話役として、侍女3人だけは早々に顔合わせしましたが」


ミモザたち侍女3人組が「はーい」と手を上げて笑っている。隣にいたセージが、不満そうに唇を尖らせていた。

「お前らばかりずるいぞ。俺らも早く会いたかったんだからな」

「良いじゃないの。こうやってサプライズプレゼントができたんだから」

「驚いてくれましたか、シスター? …………シスター?」


返事がなかなかできなかった。本当に、涙が止まらなくなっていたから。

「最高の……プレゼントよ……」


嗚咽しそうになりながら、エルダは笑顔でラファエルに尋ねた。

「もしかして、レイが皆に働き口を用意してくれたの?」

ラファエルは、言葉を選ぶような顔で沈黙している。12人の仲間たちは、ニヤニヤした目で彼を見ていた。


「働き口を提供したと言うのは、半分ハズレです。私から彼らに助けを求めたのが、雇うきっかけでしたから」

「助けを?」

「ええ。侯爵家の当主交代を目指すに当たり、私には頼れる味方がいませんでした。だからみんなに助けを求めたのです」

「そうだったの……」


エルダが眠りについた後も、ラファエルは仲間と支え合っていた――その事実を聞けただけで、エルダは胸がいっぱいだ。


「立派になったあなたたちを見たら、きっと天国のマザー・グレンナも喜んでくれるわね」

エルダが言うと、全員が怪訝そうな顔をした。


「マザー・グレンナが……天国へ?」


エルダは首をかしげた。何か変なことを言っただろうか。


「まさかみんな、マザー・グレンナが地獄行きだと思っているんじゃないでしょうね……。あの人が意外といい人なのは、皆も良く知ってるでしょ?」


「いや。というか、ええと……」

皆、なにやら言いたげな顔である。



「誰が死んだって!? この小娘が!」



懐かしいしわがれ声が、耳朶を打つ。驚いてダイニングの入り口をふり返ると――


「マザー・グレンナ!?」

タキシードスタイルの執事服を着た老婆が、颯爽と歩み寄ってきた。


「古臭い名前で呼ぶんじゃないよ。今のあたしはスチュワード・グレンナさ」

「家令(スチュワード)!?」


エルダが声を裏返らせると、ラファエルが説明してくれた。

「グレンナには当家の家令として、普段は所領の管理を任せています。常軌を逸した高給取りですが、執務能力は確かですから」


「なんで……? マザー・グレンナは亡くなったんじゃあ……!」

「?」

「だってほら、私が地図を見つけたとき、レイとミモザが――」

ラファエルとミモザが、互いの顔を見合わせて考え込んでいる。


「……ミリュレー修道院がなくなったとは、伝えましたが」

「あのとき、マザー・グレンナの話はしてなかったと思います」

「えっ!!」

エルダは目を白黒させた。

記憶の糸を手繰り寄せ、エルダは顔をこわばらせた。……たしかに、マザー・グレンナのことは口に出しては尋ねていない。


ラファエルが、少し気まずそうに付け加えた。

「修道院の話題がエルダの負担になるのを避けて、聞かれるまでは伝えないつもりでした。ミリュレー修道院が解体されたタイミングで、マザーも含めた全員を侯爵家に引き入れたんです」


「………………!!」

絶句していると、マザー・グレンナがエルダの肩に手をかけてきた。


「田舎の修道院よりも、貴族の領地で幅を利かすほうが楽しいに決まってるからね。どうだい、エルダ。驚いたろう? …………おっと、なんだいあんたは。この程度で泣くんじゃないよ」


エルダは、マザー・グレンナに抱きついていた。声を上げて、子どもみたいに大泣きしてしまう。


「10年経っても相変わらず小娘だねぇ、まったく。久々にこき使ってやろうか」

「許しませんよ、グレンナ。今のエルダはあなたの部下ではありません」

「知ったこっちゃないね」


懐かしさと嬉しさで胸がいっぱいだ。倒れた先の未来に、こんな幸せが待っていたなんて――!


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