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10年の眠りから覚めたら、助けた少年が執着侯爵になって激重な愛を注いできますっ!  作者: 越智屋ノマ@10/8書籍発売『兄王陛下』/コミカライズ進行中


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第28話:元婚約者との遭遇②

「エルダ……やっぱりエルダじゃないか!」


十数年ぶりのダミアンは、別人のように落ちぶれていた。

不健康そうにたるんだ体と不潔な身なり。酔っぱらっているらしく、足取りが危うい。


歩み寄ってくるダミアンを、呆然としてエルダは見つめた。バーネットが庇うように割って入り、鋭い声で警告した。

「酔っ払いが。立ち去れ!」


「……バーネット。この人、私の知り合いなの」

「ダメです、シスター! こんな奴、相手にすることありません」

「お願いだから、少し待って」

エルダはバーネットをそっと押しのけ、ダミアンに向き合った。



「どこの貴婦人かと思ったら、まさかエルダだったとはな! 見違えるほどきれいになって、まるで別人じゃないか」

(別人なのは、あなたでしょ……)


どこをどう見ても貴族の身なりではない。


「エルダが生きていたとはなあ! 今どうしているんだ? ずいぶんと上等な身なりじゃないか」


頭のてっぺんから爪先まで舐め尽くすようにじろじろと見られ、嫌悪感が込みあげてきた。


「あなたこそどうしたのよ。オルドー家に婿入りしたはずでしょ?」

「オルドー家? 今さら何言ってるんだ。4年も前にお(・)取(・)り(・)潰(・)し(・)になったじゃないか」


――え?



エルダがきょとんとしていると、バーネットが顔色を変えた。

「……っ、貴様! 適当をぬかすな。シスター、こんな男の言葉に耳を――」

「お取り潰し?」

「おいおい、エルダ。まさか、知らなかったのか!? お前の親父が新大陸の採掘ビジネスに手を出して、大失敗したんだ」

バーネットが遮ろうとするも、ダミアンは止まらなかった。


「借金漬けになって、詐欺に手を出したのが運の尽きさ。それがバレてオルドー子爵家は取り潰されちまった。お前の親父とお袋さんは死ぬまで懲役労働さ」

「何よそれ!」

完全に寝耳に水だ。

とっさにバーネットを振り返ると、バーネットは気まずそうに口をつぐんでいた。


「……じゃあ、キャロラインはどうしているの?」

「借金の方に売られたらしいぜ」

「は!?」

「正確に言うと、借金元の貴族が『妾によこせ』と言ったらしい。オルドー夫妻は支度金欲しさに大喜びでキャロラインを手放したそうだ」


「――もう行きましょう! シスター!!」

バーネットが、半ば強引にエルダを連れ出そうとする。バーネットの態度を見て、エルダは察した――ダミアンの話は、どうやら嘘ではないらしい。


エルダは、バーネットを押しとどめながらダミアンを睨みつけた。


「どうして他人事みたいな態度なの? ダミアンもオルドー子爵家の一員でしょ?」

「いや。僕はとっくに縁を切られてたから」

「なによそれ……」


ダミアンの口から出るのは、信じられないような話ばかりだった。


「キャロラインが妾になったのもオルドー家の取り潰しも、離婚後のことさ。あの家のゴタゴタに巻き込まれなかったのは、不幸中の幸いかもな」


衝撃の事実を次々聞かされて、頭の中がパンクしそうだ。

エルダが昏睡に陥っていた10年間のうちに、オルドー子爵家とダミアンはとてつもない不幸に見舞われていたらしい。



「――それより、エルダの話を聞かせてくれよ。どんな男に取り入ったんだ?」

目を爛々と輝かせ、ダミアンはそんなことを言ってきた。


「何の話?」

「身なりを見れば分かるさ。名のある貴族の夫人か妾にでも収まってところだろう? 昔は男に媚びるなんてできない女だったけど……意外だな」


「無礼な! 貴様、いい加減にしろ!!」

バーネットが声を張り上げた。

「シスター、行きますよ!!」

バーネットに肩を抱かれ、エルダは歩きだしていた。

だがダミアンは、粘ついた声でバーネットに絡んでくる。


「騎士さんよぉ、そんな言い方ないだろう。こう見えて僕は、エルダの婚約者だったんだから」

お酒に酔っているからなのか、怖いもの知らずの態度だ。今度は、エルダに話しかけてきた。


「なぁ、エルダ。助けてくれよ。あちこちに借金があって、全然首が回らないんだ」

「なっ……」


捨てた元婚約者からお金をせびろうだなんて、この男の頭はどうなっているんだろう。エルダは思わず声を荒らげた。

「ふざけないで!」


エルダはダミアンに正面から向き合った。

「私を捨てて妹に鞍替えしておきながら、よくそんな事が言えるわね!」

「何言っているんだよ。婚約解消は、エルダが呪いで家を継げない体になったせいじゃないか。僕のせいじゃない」


「よくそんなことが言えるわね! 呪いのことがある前から、あなたはキャロラインと恋仲だったじゃないの。私、全部知っていたのよ?」

「それは、まあ……」


おかしい。

この男はおかしい。

妹も父も義母も、みんなおかしい……!


「どこまで身勝手なの!? あなたたちが不幸になったのは、きっと自分のことしか考えなかったせいよ。神様が罰を与えてくれたんだわ!」

「なんだと!?」


顔を怒りに歪ませて、ダミアンは手を振り上げた。酒に酔っているせいで、正常な判断ができないのだろう。

バーネットがすかさずエルダの前に滑り込み、反撃の一手を繰り出そうとする。



――だが次の瞬間に、予想外の出来事が起こった。


バシッ、という鈍い音と同時に、地面に倒れ込むダミアン。

ダミアンを殴りつけたのは、バーネットではなかった。


「………………レイ?」

駆けつけてきたラファエルが、勢いそのままにダミアンを殴り倒していた。


「いてぇな……誰だ畜生…………ぐぁっ」

地面に伏していたダミアンの背中を、ラファエルが踏みつける。

「どうやら貴様は、命が惜しくはないらしい」


ラファエルの瞳はいつもの優しい色ではなかった。エルダが見たこともない、底冷えするほど冷たい色だ。


「貴族社会から駆除されたドブネズミの分際で、私のエルダに近寄るな」


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