第24話:盛大な勘違い/幕間
――ここはアルシュバーン侯爵邸にある使用人専用の食堂だ。
「今日は本当にびっくりしたわ。まさかシスターが、レイとのリハビリまで嫌がるなんて」
ミモザはテーブルに肘をついて、がっくりとうなだれていた。テーブルに置いたワインのグラスを見つめて、頭の痛そうな顔をしている。
「本当ね……」
「やっぱり、王太子殿下の話を聞かれちゃったのがマズかったよね……」
ローゼルとアニスも、ワインを飲みつつ重たい溜息をついた。
食堂にいるのは、この3人だけではない。
ミリュレー修道院から引き抜かれた仲間たちが、毎月恒例の『夜中のお疲れ会』と称して一堂に会している。
落ち込む侍女3人の対面に座っている、明るい髪色の青年が声をかけた。
「おい、お前ら暗いぞ! 過ぎちまったことは仕方ねぇって!」
その隣で、ビールをちびちびと啜っていた執事のフェンネルが口を挟む。
「……セージが明るすぎるんですよ。シスターがレイと結婚してくれなかったら、この侯爵家はおしまいです」
「レイが何とかするって。あいつの諦めの悪さは、皆もガキの頃からよく知ってるだろ?」
ほろ酔いのセージはどこまでも明るい。
「あんたね……少しはシスターの立場で考えてみてよ。自分が寝ているうちに、勝手に結婚式の準備まで進められてたのよ?」
「泣いてたもんね。全然嬉しそうじゃなかったし」
そう。
誰も気付いていない――エルダが盛大な勘違いをしているということに。
エルダは『ラファエルが愛しい人との結婚式の準備をしている』という話を聞いたが、その『愛しい人』が自分だとは気づいていないのだ。
「……でも私、ちょっと不思議なのよね」
ミモザが、首を傾げている。
「本当にレイが嫌いなら、はっきり拒否すると思うの。『聞かなかったことにする』っていうのが、どうも煮え切らないというか……」
「だったらいっそ、シスター本人にはっきり聞けばいいじゃねえか」
セージが言うと、ミモザたちはそろって「「「ダメよ!」」」と声を上げた。
「ショックで呪いが再発したらどうするの!?」
「そりゃそうだけど。いつまでも伏せてるのも無理があるっつーか。必ず再発する訳じゃねえんだろ?」
「可能性があるんだから、怖くて聞けないわ」
そう言うと、ミモザは俯いて身震いした。
「シスターの呪いが再発したとき、私は目の前にいたの。……すごく怖かった。二度と目覚めてくれなかったらどうしようって」
涙声になるミモザを見て、セージは申し訳なさそうに口を閉じた。
「もう、あんな思いしたくない。だからレイも慎重になってるんだわ……」
「分かったよ。軽はずみに言って悪かった」
しんみりと、場が静寂に包まれる。
やがて空気をとりなそうと、フェンネルが立ち上がった。
「みんな。ともかく、落ち着きましょう」
あごに手を添えながら、思案する表情で彼は続ける。
「今までの様子から察するに、シスターはレイを嫌ってはいないはずです。しかし、『まだ結婚を考えられる心境ではない』というのが実際のところなのでは?」
「あー……。たしかに」
みんなは、合点のいった顔をした。
女性陣のひとりが、ぽつりとつぶやく。
「シスターったら、素直に落ちちゃえばいいのに」
ほかの女性たちも、うなずいていた。
「そうね。レイはいろいろ歪んでるけど、まあ、いい男だし?」
「あれだけ一途に愛してくれる男って、そうそういないと思うわ」
「腹黒くてしつこいけど、いい奴だよね」
「うん」
その場の全員が、互いに顔を見合わせた。それぞれのグラスに酒を注ぎ直し、気合を入れて乾杯し直す。
「ともかく新生アルシュバーン侯爵家のためにも、あの二人には幸せになってもらわなければ。がんばりますよ、皆!」
「「「「「「「「「「「「おー!!」」」」」」」」」」」





