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10年の眠りから覚めたら、助けた少年が執着侯爵になって激重な愛を注いできますっ!  作者: 越智屋ノマ@10/8書籍発売『兄王陛下』/コミカライズ進行中


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第21話:王太子殿下の来訪②

執事を伴って屋敷から出てきたその人物は、王太子殿下だった。

エルダがまだ子爵令嬢だった頃、式典で拝謁したことがある。十数年前のことだが、面立ちや雰囲気は当時とほとんど変わらなかった。


(急な来客って、王太子殿下のことだったのね。さすがアルシュバーン侯爵家……)


ローゼルとアニスは、緊張した面もちで冷や汗を流している。ひっそりと茂みの中で、エルダは侍女たちとともにやり過ごそうと息をひそめた。


王太子殿下と執事が、門の方に向かいながら会話をしている。

「王太子殿下。せっかくご来訪いただいたのに、十分なおもてなしもできずに申し訳ございません」

「いや。近くに寄ったついでにと思ったのだが、いきなりで済まなかった。あいつが所領に戻るとは、珍しいこともあるものだ」


あいつというのは、ラファエルのことに違いない。口ぶりからすると、かなり親しい間柄のようだ。王太子殿下は、朗らかに笑ってこう言った。


「今日はラファエルの『愛しの君』にも挨拶ができればと思っていたが、どうやらまだ気が早すぎたらしい。また来るよ」


(……愛しの君?)

エルダは、つい聞き耳を立ててしまった。

ローゼルとアニスが、なぜか真っ青な顔になっている。


「彼女への面会は次の楽しみに取っておくから、祝いの品だけでも受け取っておいてくれ」

「ありがとうございます」


王太子と執事が、エルダの隠れる茂みのそばを過ぎ去っていく。


「結婚式の準備も着々と進んでいるそうじゃないか。先日会ったとき、ラファエルが嬉しそうに言っていた。あいつが、あんなにも幸せそうな顔をするとは」

「ええ。主人は式を挙げることを、それはそれは長く待ち望んでおりましたので」


「王家としてもラファエル・アルシュバーン侯爵の婚礼を盛大に祝うつもりだから、そのつもりでいてくれ」

「恐悦至極に存じます」

そんな会話をしながら、彼らは遠ざかっていった。


――愛しの君?

――結婚式?


エルダは、呆然としながら彼らの背中を見送っていた。


(…………そっか。レイには婚約者がいたのね)

すとん。と、なぜか体の力が抜けた。


結婚式を間近に控えた、愛する女性がいるらしい。

……それはそうだろう。立場ある人なのだから、婚約者がいて当然だ。どうして今まで、思い至らなかったんだろう……?


(なんだ。良かった。レイはちゃんと、自分の人生を歩んでいたのね。それなら……安心だわ)

安心したら 心がすっかり軽くなった。軽くなり過ぎてスカスカだ。



――『あなたの居場所は、ここではダメですか?』。

(あの言葉は、やっぱり私が親代わりだからだったんだ……)

なぜだか分からないけれど、急に目頭がじわっと熱くなってきた。


「シスター・エルダ!?」

「な、泣いてるんですか!?」

「え……?」


泣いてる? まさか。

そう思ったときには、ぽろぽろと目から溢れて止まらなくなっていた。


「……あれ。なんでだろう……変ね……」


「ご、ごめんなさい、シスター。こんな形で知ってしまったらショックですよね……?」

「……あの、ラファエル様は悪気があって隠していた訳じゃないんです! シスターが元気になって、心の準備ができてから打ち明けようと思ってたはずで……」


おろおろと、二人はひどく戸惑っている。――彼女たちを困らせるわけにはいかない。


「……私は大丈夫よ。それより二人とも。今の殿下たちの話、私は何(・)も(・)聞(・)い(・)て(・)い(・)な(・)い(・)わ」

「「え?」」


そういうことに、しなければならないと思った。

伏せていた情報がエルダに漏れたと知れば、ラファエルはアニスたちを叱るかもしれない。


「私は何も聞かなかった。お客様なんて見ていないし、何も知らない。だから、レイには何も報告しないで」

「「でも……」」

「お願いよ」


ローゼルとアニスは顔を見合わせた。

「……でも、せめてミモザにだけは共有しておきたいです」

「そうね。あなたたち3人の間でだけは、話してもらっても良いわ。だから、レイには絶対内緒にして」


「わかりました……。ともかく、ひとまずお部屋に戻りましょう」

「ええ」


二人に両脇を支えられながら、エルダは屋敷の中へと戻っていった。





   *


その夜。

エルダは、一人物思いに耽っていた。

(お相手の女性にも、申し訳ないことをしてしまったわ。この数か月レイは私にかかりきりだったから、ほとんど会えずに寂しかったはずよ)


彼と、彼の選んだ女性には絶対に幸せになってほしい。

そう。胸を痛めている場合ではないのだ――。


(……そもそもなんで落ち込んでるのよ、私!)


きっと、いきなり聞いて混乱してしまっただけだ。


「しっかりしなくちゃ! 私が頼りないままだと、レイが安心して結婚生活を迎えられないじゃない」


もはや一刻の猶予もない。

早く自立して、レイの門出をお祝いしなければ!

エルダがそんな決意を固めていた、ちょうどそのとき――。


こん、こん。というノックの音が響き、ミモザとローゼル、アニスの3人が立派な花束を持ってきた。

「あら、それは?」

「王太子殿下からの贈り物です」

気まずそうな顔をして、ミモザが答えてくれた。


「え? どうして私の部屋に……?」


王太子殿下は、ラファエルの『愛しの君』にお祝いの品を贈っていた。居候にすぎない自分が、この花束を受け取るなんてどう考えてもおかしい。


「でも、受け取るべき人は他にいるでしょう?」

「「「へ?」」」

3人は首を傾げたが、やがて納得したような顔になった。


「ラファエル様が領地からお戻りになるまで取っておいても、枯れてしまいますから。執事も、シスターのお部屋に飾るようにと言っていました」

(どうして執事さんまで? ………。つまり、それって……)


そこでエルダは、ハッとした。


(婚約者さんは遠くに住んでいるのね。 確かに、誰にも渡せず枯らせるよりも客人(わたし)の部屋に飾るほうが良いはずだわ)


それに、無為に枯らせば殿下への不敬にあたるに違いない。そう考えて、エルダは背筋を正してうなずいた。


「分かったわ。お花を愛でる大事なお役目、ありがたく務めさせてもらいます」

「「「?」」」

いきなり気合が入ったエルダを見つめ、ミモザたちはもう一度首を傾げた。

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