↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10年の眠りから覚めたら、助けた少年が執着侯爵になって激重な愛を注いできますっ!  作者: 越智屋ノマ@10/8書籍発売『兄王陛下』/コミカライズ進行中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/37

第20話:王太子殿下の来訪

1週間後の、昼下がり。

「レイは今頃、領地に到着した頃かしら」

日当たりのいいサロンの窓辺で、エルダは刺繍をしながら呟いていた。


ラファエルが所領に向かっておよそ1週間――毎日欠かさず顔を見ていた彼の不在は、エルダの胸にぽかりと穴をあけていた。ふとした瞬間、「レイは何をしているかな」と思ってしまう。


「そうですね。きっとラファエル様、着いた瞬間から仕事に取りかかってると思いますよ」

「そうそう。シスターに会いたくて、一刻も早く帰らなきゃって」

付き添っていたミモザたち侍女3人が、そんなことを言ってきた。


「……」

反応に困って、聞こえないふりで刺繍に励む。これもリハビリの一環だ。針仕事は、指先を細かく動かす練習に良い。あともう少しで、ようやく完成――。


「よし、できたわ」

エルダが声を弾ませると、ミモザたちはエルダの手元に視線を寄せた。

「わぁ、きれいなバラ!」

「本物みたいです……!」

「やっぱりシスターの刺繍って、すてき!」

懐かしいな、とエルダは思った。

「ふふ。ありがとう」


ミリュレー修道院にいた頃は、子どもたち全員の持ち物に刺繍をしてあげていた。ひとり一人にぴったりのデザインを考えるのも楽しくて――。


「バラということは、ラファエル様へのプレゼントですか?」

「へ!?」

「ラファエル様の持ち物は、バラのモチーフでしたよね」

「あっ…………」


令嬢時代から馴染のあったデザインだからか、つい無意識に刺していた。

「いえ……全然、そんな意味はなくて。これはただの練習よ」

「ええー。もったいないです」

「絶対喜ぶのに」

「肌身離さず持ち歩いて、一生手放しませんよ?」


大げさな……と思ったけれど、ありえないとも言いきれない。髪を結んだリボンさえ、ラファエルは大切そうに握りしめていた……。


思い出して顔が真っ赤にしていると、なぜか3人は目を輝かせた。


「やっぱりお似合いですね、おふたりは!」

「ど、どうしたのよ急に」

「ずばり聞きますけれど、シスター的にどうですか、ああいう男性は」

「え!?」


こういうやりとり、修道院時代にもあった気がする。近隣から麦や穀物を運んでくる村人の中で、誰が一番シスターの好みですか? とか。

「変わらないわね、あなたたち」

肩を揺らして、エルダは笑った。


「でも私がレイを男性として見るなんて、絶対にありえないわよ」


――そう。あってはならない、絶対に。昔助けたあの子を、異性として見るなんて。

野草の庭で自分の『気持ち』に気付きかけたあの瞬間、これはいけない感情だと思った。


しかし侍女たち3人は、いきなりガクリと肩を落としている。


「……どうしたのよ、3人とも。そもそも私、修道女だったんだもの。今さら恋愛なんてする訳ないでしょう?  結婚を考えるような年齢でもないし」


「何言ってるんですか、シスターったら!」

「まだまだ若いですよ!? 言うほど私たちと年齢差ないじゃないですか」


目を血走らせるアニスとローゼルの隣で、ミモザは少し冷静だった。

「でも、シスター。目覚めて5か月くらい経ちますけれど、これだけ長く過ごせば1回くらいはキュンと来たこと、ありませんか……?」


(あるわよ。……何回も)

というのは、エルダの心の中だけの秘密だ。


「もう、ミモザったら。ある訳ないでしょう?」

さらりと流すと、3人同時にガターン、と膝をついてうなだれてしまった。


「前途多難だよぅ。がんばれラファエル様ぁ」

「あぁぁ、じれったい」

「シスターの身持ちが固すぎる……」

彼女たちのごにょごにょという呟きは、エルダには聞き取れなかった。


(……なんなの、この子たちの反応)


そのとき、柱時計が10時の鐘を鳴らした。

「――あ。ちょうどいい時間ね!」

微妙な空気を変えたくて、エルダは裁縫道具を片付けながら笑顔で言った。


「外のリハビリ、誰か付き合ってもらえる?」

「はい。今日はわたしの担当です」

「よろしくね、アニス」


やや強引に場を切り上げ、エルダはアニスとともにサロンを出た。


   *


晴れた日の歩行トレーニングは、いつも屋外で行っている。

平らな場所ならすでに問題なく歩けるが、高低差のあるところは引き続き訓練が必要だ。

南側の大庭園は小高い丘になっていて、二十段ほどの石段がいくつかある。花の香りを楽しみながら上り下りを繰り返すのが、最近のお気に入りだ。


「シスター・エルダ。最近は、全然ふらつかなくなりましたね!」

エルダのすぐ脇にはアニスが控えていて、もしふらついたらすぐに支えられるようにしている。

「みんなのおかげよ。ありがとう」

「もうすぐいろんな場所を歩けるようになりそうですね」

「ええ。楽しみだわ」


元気に歩けるようになったら、どこに行こうか。

街に出たいし、自然の中にも足を運びたい。アニスやローゼル、ミモザたちと一緒にお出かけできたら幸せだ。

それに……ほんの少しでも、彼も一緒に来てくれたら。



……と、そのとき。




「シスター・エルダ! アニス!」

庭園に、血相を変えてローゼルが駆け込んできた。とても慌てているけれど、どうしたのだろう。


「リハビリ中にごめんなさい。……申し訳ないんですけれど、今日は切り上げていただけますか」

「分かったわ。……何かあったの?」

「実は、急な来客が。そのお客様がお帰りになるまで、お部屋で待っていてほしいんです」


そう言うと、ローゼルはアニスに耳打ちをした。アニスも、顔を強張らせる。

「そ、それ……まずくない?」

「そうなのよ、すごくまずいの! だから急がなくちゃって」


エルダには事情がよく分からないが、ともかくお客様が帰るまでじっとしていたほうが良いらしい。

アニスとローゼルとともに、エルダは大庭園の出口に向かった。

「シスター・エルダ、本当にすみません」

「気にしないで。あなた達も、いろいろ大変そうね」


ローゼルが苦笑している。

「そのお客様、ラファエル様が不在と知らずにお越しになってしまって。もしうっかり会ってしまうと、話がこじれそうなので……すみません」


それから屋敷のほうへと向かった。木々の茂みを抜け、玄関に近付こうとしたそのとき――。


ローゼルとアニスが、びくっと肩をこわばらせた。エルダの肩を抱き、いきなり回れ右をする。

「どうしたの、二人とも?」

「すみません! やっぱりちょっと隠れます!!」

「隠れるって……」

エルダの返答を待たず、玄関前の茂みの中に身を潜めた。


「ごめんなさい、シスターもあと少し体を屈めてくれますか? お客様が出てくるみたいで……!」

「出会い頭とかマズすぎるので、茂みの外から絶対に見えないようにお願いします……!」


二人は青ざめて緊張している。


(……一体、どんなお客様なの?)

身を潜めつつ、私は茂みの隙間から屋敷の入り口を見た。

ちょうど扉が開き、執事と思しき男性と来客者が出てくるのが見える。


執事の男性はエルダから見ると奥側で、ほとんど陰になっている。でも、来客者の顔はしっかりと見えた。


(――! あれって……)


見覚えのある、蜂蜜のような濃い色の金髪ときらびやかな美貌。

(王太子殿下だわ!)

そのお姿は紛れもなく、この国の王太子その人であった――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。