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10年の眠りから覚めたら、助けた少年が執着侯爵になって激重な愛を注いできますっ!  作者: 越智屋ノマ@10/8書籍発売『兄王陛下』/コミカライズ進行中


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第18話:オルドー子爵家の転落

――これは、エルダの知らない真実。

エルダが呪いに落ちていた頃、オルドー子爵家を襲った悲劇のひとかけら。



「いやよ! わたし、絶対に老いぼれ貴族の愛人なんかにならないからね!?」


父親の書斎に呼び出されたキャロラインは、両親の前で声を荒らげた。

おろおろしながらキャロラインを見つめる子爵夫人と、表情一つ変えない子爵。オルドー子爵は死刑宣告さながらの口調で、キャロラインに告げた。


「これは決定事項だ。オルドー家は今、破産か否かの瀬戸際にある。この家の娘として、お前は自分の責任を果たせ」

「冗談じゃないわ! ダミアンと離婚したばかりなのに、なんで今度は老人なんかと!!」

「うるさい!!」


怒りに我を忘れたキャロラインは、机の上の書類を巻き散らし、花瓶や調度品を投げ捨てた。普通なら侍従や事務官が止めに入るほどの騒ぎだが、この屋敷にはもう、そんな人手さえ残っていない。


原因は、オルドー子爵の投資の失敗だった。新大陸の鉱山採掘権を購入したものの、それがまったくのクズ山で赤字を垂れ流し続けている。


「お父様が新大陸の商人なんかに騙されるから、こんなことになるんじゃないの!!」

「なんだと!?」

「だって『絶対に儲かる』なんて言われて、ろくに下調べもしないから!」


「お前に何が分かるんだ! 新大陸とつながりの深い、アルシュバーン侯爵閣下が取り次いでくださった有力商人だぞ!? 信じない方がどうかしている!」


「そういうところがダメなのよ! その商人、相手がお父様だから足元を見たんじゃない!?」

「ぅぐ……」


そして破綻寸前にまで陥ったオルドー子爵は「娘をくれたら借金を減らしてやる」と債権者のひとりに持ちかけられて、迷わず頷いてしまったのである。


「借金が減ったって、どうせ焼け石に水じゃない! お父様の不始末の責任を、わたしが取るなんて嫌よ!」

「私ではなく、お前とダミアンの責任だ!」

「なんですって!?」


子爵は歯をギリギリと軋らせて、真っ赤な顔で怒鳴りつけてきた。


「お前たち夫婦が役立たずなせいで、私は事業選びに専念できなかった! ……いばらの呪いにかかるのが、エルダではなくお前だったら良かったのに!」

「――っ!?」


吐き捨てるような父の言葉に、キャロラインは言葉を失った。

「ダミアンのことだって、エルダなら火遊びがひどくなる前に見抜いたはずだ! お前のように無価値な娘は、売るくらいしか役に立たん!」


最低の父親だ。救いを求めるように、キャロラインは母親へと目を向けた。しかし母は、幼児をなだめるような口調でこんなことを言ってきた。


「ほら、キャロライン。そんなに怖い顔をしないで。あの方はたしかにご高齢だけれど、とってもお金持ちなのよ? 今よりずっと贅沢に暮らせるし、上手く取り入れば正妻になれるかもしれないじゃない」

「……お、お母様」


信じられない……母まで実の娘を売ろうだなんて。


「いやよ――そんなの、絶対いや!」

泣き叫ぶキャロラインに、父母はまったく耳を貸さなかった。


「あなたはまだ若くて美しいから、優しく迎えてくださると思うの。ダミアンさんといた頃よりも、きっと幸せになれるわ。だから……ね?」

「キャロライン。先方の気が変わる前に仕度しろ」

へなへなと、キャロラインはその場にしゃがみこんでいた。


「エルダがいれば、……エルダさえここに居れば、代わりに売れたのに!!」


修道女になったエルダが、数年前に昏睡になったのは風の噂で聞いている。そしてなぜかアルシュバーン侯爵に引き取られて、延命治療を受けているらしいということも。


――腹が立つ。あの女が生きてここにいれば、身代わりにできたのに!


「…………いや。いやよ、もう。こんな人生、嫌――!!」


夫に浮気され、実家は借金漬けで、挙句の果てには老いぼれジジイの愛人にされるなんて。どうしてこんなことになってしまったのだろう――?


キャロラインは、無様に泣き叫ぶしかできなかった。


   *


長女エルダを修道院送りにし、今度は次女キャロラインを手放したオルドー子爵家。

しかしその『愛人送り』でさえ、束の間の延命措置に過ぎなかった。そして追いつめられたオルドー子爵は、とうとう投資詐欺へと手を染めてしまう。


鉱山鑑定書を偽造して、貴族たちに投資を募った。

そして王家の査察が入り、お取り潰しの末期を辿る。


後に新聞を騒がせることとなる『悪徳貴族』の鉱山投資詐欺事件は、こうして始まったのだった――。


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