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嵐を呼ぶ剣と魂の召喚 第96話

「アレンさん。弁当、食おうぜ」

腹を押さえながら、ゴリムが言った。


「お、もうそんな時間か……」

アレンが周囲を見回す。


手際よく、皆に弁当を配り始めた。


そのとき――


「ヴァルド様。お食事中、失礼いたします」

執事アルフレッドが一礼する。


「リオネル様より、お話があるとのこと。

お手すきの折にお越しいただきたいと」


「……食事のあとでも構わんか?」

園長が問う。


「かしこまりました。お待ちしております」

アルフレッドは静かに頭を下げ、下がった。


「ニコ。おまえ、自分の剣には名前つけてないのか?」

ふと、クルツが思い出したように尋ねた。


「はい。いい名前が浮かばなくて……ずっと、そのままです」

ニコは少し照れくさそうに答える。


「俺の剣には、あんなにあっさりつけてくれたのにな」

クルツが、からかうように肩をすくめた。


「いつもなら、自然にすっと浮かぶんですけど……

この剣だけは、どうしても出てこなくて」

ニコは大剣へそっと手を伸ばし、少し困ったように笑う。


「そんなものか?」

クルツは不思議そうに首を傾げた。


「ええ。でも――」

ニコは言葉を切り、その時の情景を思い出すように言った。

「さっきの戦いの最中……風の加護が、まるで嵐のように暴れて……

その時、突然浮かんだんです」

パッと顔を上げたニコの瞳には、嬉しそうな光が宿っていた。


ニコは大剣の柄をぎゅっと握り直し、

相棒に語りかけるように、はっきりとその名を口にした。

「お前は――『ストーム・ブリンガー』だ」


ーーーー


静かな足音と共に、アルフレッドが姿を現した。


「ヴァルド様。お忙しいところ恐れ入ります。

リオネル様が応接室にてお待ちでございます」

アルフレッドがうやうやしく一礼する。


「構わん。こちらも用があってな」

ヴァルドは短く応じ、歩を進めた。


やがて、重厚な応接室の扉の前で

アルフレッドが足を止め、声をかける。

「――ヴァルド様がお越しです」


「入ってもらえ」

扉の向こうから、リオネルの落ち着いた声が返る。


アルフレッドは静かに扉を開き、一歩退いた。

「どうぞ、お入りください」


応接室の重厚な扉が閉まると、部屋には静寂が落ちた。


リオネルは領主としての強張りを解き、静かに口を開く。

「兄さん。お呼びだてして、申し訳ありません」


「構わん。話を聞こう」

ヴァルドは深くソファに腰を下ろした。


リオネルは卓上に置かれた水晶玉へ視線を向ける。

「リシェル殿。兄さんが来られましたので

話に加わってください」


『はい。分かりました』

水晶玉の奥底に淡い光が灯り

リシェルの透き通るような声が響いた。


「兄さん。エルフェリア王国の女王様の名代として

リシェル殿にも話に加わってもらってよろしいでしょうか」

リオネルが念のため確認する。


「構わん。……リシェル殿、お久しぶりです。

よろしくお願いします」

ヴァルドが水晶玉に向かって短く頭を下げる。


『ヴァルド様、お久しぶりでございます。

こちらこそ、よろしくお願いいたします』

水晶玉の光が、呼応するようにわずかに瞬いた。


「リオネル。始めてくれ」

ヴァルドが急かすように本題を促す。


「はい。承知しました」

リオネルは居住まいを正し、まっすぐにヴァルドを見た。


「――ニコ殿が『召喚者』であることは、ご存知ですね?」


「ああ、知っている。何か問題があるか?」

ヴァルドが眉をひそめる。


「ニコ殿は、聖統教の監視対象外ですよね」

リオネルが確信を突いた。


「……だったらどうだと言うのだ」

ヴァルドの声が少し低くなる。


「おそらく、召喚を行ったのは聖統教でしょう。

それなのに彼らが監視をしていないのは

あまりにもおかしくありませんか?」

リオネルが疑問をぶつける。


「……確かに、そうだ」

ヴァルドは腕を組み、小さな声で頷いた。


『わたくしからも、よろしいでしょうか』

水晶玉から、リシェルの声が静かに割って入る。


『ニコ殿には、召喚者の“烙印の気配”が感じられません。

神が召喚者に烙印を刻まないということは

本来考えられないのです。それには

なんらかの理由があるはずです』


「エルフの国は……その理由をつかんでいるのか?」

ヴァルドが水晶玉を鋭く見据えた。


『明確な理由は分かりません。ですが、ニコ殿の召喚は

今までの召喚とは違うやり方で行われています。

……それだけは確かです』

リシェルの声に迷いはなかった。


「分かった。……だが、なぜそう言い切れる?」

ヴァルドがさらに問い詰める。


『魔獣王の討伐以降――カリオス王国では

召喚を行った形跡が一切ないからです』

水晶玉から響くリシェルのきっぱりとした言葉が、

応接室の空気をより一層、重く冷たいものに変えた。


「……わしもこれまで何人もの召喚者に

会ってきたが、元の世界と違う姿になる

召喚者など聞いたことがない……」

ヴァルドは深く腕を組み、重々しい声で疑問を投げかけた。


『ニコ殿は、元の世界では人間だったのですよね?』

水晶玉の中から、リシェルが確認するように問いかける。


「そのはずだ。サンが『自分と同じ日本人だった』と

言っていたからな。間違いない」

ヴァルドが力強く頷く。


「……肉体ごとではなく、魂だけが召喚されたということですか?」

リオネルが、ふと核心に触れるように口にした。


『魂だけ……? そうか、魂だけを喚び寄せたのか……!』

リオネルの推測にハッとしたように

リシェルの声に驚きが混じる。


「だが、魂だけを召喚したところで

こちら側に器となる身体はないんだぞ。

……その辺の魔獣にでも、無理やり魂を

植えつけるとでも言うのか?」

ヴァルドが怪訝な顔で反論する。


『この世界であろうと、他の世界であろうと

……魂の根源は同じ場所に存在すると聞きます。

通常、魂は生命が生まれる瞬間に宿るはず。

すでに生まれ、成長した身体に

後から別の魂を植えつけるなど

……果たして可能なのでしょうか?』

水晶玉がわずかに明滅し、リシェルが慎重に思考を巡らせる。


「……ニコは、こちらの世界で目覚めた時には

すでにあの姿だったと聞いている」

ヴァルドが記憶を辿るように、低く呟いた。


「……この件は、今ここで推測を重ねても

結論は出ないでしょう。話を本題に戻させてください」

リオネルが、場の空気を引き締めるように言った。


「これから先、いかにしてニコ殿を聖統教の目から隠し通すか。

それが最も重要なことです」


「わしの考えはシンプルだ。

自分の身は自分で守る、それだけのことだ」

ヴァルドが腕を組んだまま、頑なに言い放つ。


「兄さん! 自分一人で守り切れるような

相手ではありませんよ! 相手は国そのもの

……いや、おそらくは神ですよ!」

普段は冷静なリオネルが、珍しくむきになって声を荒げた。


『リオネル殿の言う通りです』

水晶玉からリシェルが静かに同調する。

『ニコ殿は十分に強い。ですが……伝説の剣士カイロスと

比べれば、まだまだ及ばないでしょう。

今、神に見つかれば、必ずカイロス討伐の駒として

引っ張り出されます。それだけは絶対に避けねばなりません』


「……なら、ニコがカイロスに勝てるようになればいいという事か?」

ヴァルドが、途方もない極論を口にした。


「カイロスの規格外の強さは

兄さんが一番よく分かっているんじゃないですか!」

リオネルが堪えきれずに反論する。


『ヴァルド様。ニコ殿の本当の“強み”は、何だと思われますか?』

ヒートアップする兄弟の間に

リシェルの落ち着いた声がスッと入り込んだ。


「ニコの強み……? あの異常な速さではないのか……」

ヴァルドは少し言い淀み、ふと目を見開いた。

「……いや、違う……。あいつの本当の強みは、『名付け』の力だ!」


『その通りです。巨神をも従える、特異な名付けの加護……。

ニコ殿は、周囲の仲間を際限なく強くすることの出来る

唯一無二の存在なのです』

リシェルがはっきりと告げる。


「……確かに、その通りだ」

ヴァルドが唸るように呟いた。


『そのニコ殿が、たった一人で戦うことなど

……一体、誰が許すのですか?』

水晶玉から響くリシェルの声は優しく

しかし確かな熱を帯びた問いかけだった。


「……わしが間違っていたようだな」

ヴァルドは憑き物が落ちたような顔で、小さく息を吐いた。

「リオネル、リシェル殿。申し訳ない」


「兄さん。いいんですよ。

これからどうするか、一緒に考えましょう」

リオネルは柔らかな笑みを浮かべ、力強く頷いた。


『エルフェリア王国、女王の名代として

――我が国も協力は惜しまないと誓いましょう』

水晶玉から響くリシェルの声は、凛とした決意に満ちていた。


領主、魔獣園の園長、そしてエルフの国。

ニコという規格外の存在を強大な敵から守り抜くため

かつてない強固な繋がりが結ばれた瞬間だった。


重苦しかった応接室の空気は晴れ

確かな希望の熱を帯びていた。

第96話

嵐を呼ぶ剣と魂の召喚

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


今回は、前半の和やかな日常風景と、後半の重厚な密談シーンという

対照的な二つの場面をお届けしました。


前半では、ついにニコの大剣に

『ストーム・ブリンガー』という名前が付きました!

普段は直感ですぐに名付けができるニコですが

この大剣だけはなかなか名前が浮かびませんでした。

激戦の中で「荒ぶる風の加護」を肌で感じたからこそ

辿り着けた、特別な相棒誕生の瞬間です。


そして後半は、領主リオネル、園長ヴァルド

エルフの国を代表するリシェルによる重要な首脳会談です。

「肉体がない、魂だけの召喚」というこれまでの常識を覆す可能性や

聖統教が監視の目を向けていない不気味さなど

世界の根幹に関わる謎が一気に輪郭を現し始めました。


何より、最初は「自分の身は自分で守る」と頑なだったヴァルドが

リシェルの言葉によって「ニコの本当の強み」に気づかされる場面。

ニコ一人に過酷な運命を背負わせるのではなく

領主、魔獣園、エルフの国が固く手を取り合い

伝説の剣士カイロスや聖統教といった強大な敵から彼を守り抜く……。

ニコの預かり知らぬところで、頼もしい同盟が結ばれました。


物語のスケールも少しずつ広がり、新たな展開へと進んでいきます。


いつも温かい応援、本当にありがとうございます。

これからも皆様に楽しんでいただけるよう物語を紡いでいきますので

引き続きよろしくお願いいたします!


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