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神の理と魔獣の存在 第92話

厨房で落ち着きなく動き回る

ルーナの様子を見て、サンが声をかけた。

「ルーナ。お前さんも選抜戦、気になってるんだろ

行ってもいいんだよ」


「えっ……行ってもいいんですか?」

ぱっと顔を上げるルーナ。


「ああ、いいとも。しっかり応援してきな」


「ありがとうございます!」


そのやり取りに、横から勢いよく声が飛び込む。

「母さん! 私も行きたい!」

アカネが身を乗り出した。


「ああ、だろうと思ったよ。行って来な」

サンは呆れたように笑う。


「その代わり――弁当、忘れるんじゃないよ」


「はーい!」



門の前では、カイチの引く荷車が静かに待機していた。


「園長が来たら出発だ。いいな」

クルツが確認する。


「あれ? 園長じゃなくて、アレンさんたちが来てますよ」

ニコが首を傾げた。

「どうしたんですか、みなさん?」


「いや……オスロに“行って来い”って言われてな。仕方なく……」

アレンが肩をすくめる。


「私たちは母さんに弁当持って行けって言われて」

アカネが掲げる包み。


「弁当!」

クレイグとガルドの声が見事に重なった。


「……いつも、助かります」

クルツが静かに頭を下げる。



「待たせたなぁ」

園長がゆったりと姿を現した。


「カイチさん、重くなってごめんなさいね」

ルーナが優しく声をかける。


「……だいじょうぶだ」

低く短い返事。


「ほらクルツさん、“だいじょうぶだ”って」

ニコが嬉しそうに笑う。


「喋ってるな……」

クルツも嬉しそうに笑う。


「ルーナさん、手綱をお願いできますか?」


「はい。カイチさん、ゆっくりでいいからね。合図したら進んで」

手綱を握りながら、丁寧に声をかける。


「……まかせろ」


「……全員、乗ったな」

クルツが確認する。


ルーナが手綱を軽く引いた。

「カイチさん――お願いします」


一瞬の静寂。


そして――


『ドンッ……!』

地を踏み締める重い一歩。


続けて、

『ドドンッ、ドンッ!』


カイチの巨体が前へと動き出す。

二車連結の荷車が軋みを上げ、


『ギギギ……ッ!』

と重く引かれていく。


「クルツさん、二車にしておいて正解でしたね」

ニコが振り返る。


「ああ――そうだな」

クルツが小さく頷いた。


「待ってくれーっ!!」

遠くから響く声に、


「おい、誰か来るぞ」

ガルドが振り向く。


「……あれ、ゴリムさんじゃないですか?」

ニコが目を細める。


「だな。やっぱり来たか……」

クレイグが口の端を上げた。


「やっぱり来ましたね〜」

ニコもくすりと笑う。


荷車がゆっくりと動き出しかけた、その時――


クレイグとガルドが同時に手を伸ばす。


駆け寄ってきたゴリムが、その手を掴んだ。


「――せぇのっ!」


『ガシッ!』


腕が噛み合い、


『グイッ――ドンッ!』


二人が一気に引き上げる。


「はぁ……はぁ……っ、間に合ったか……」

荷台に転がり込むようにして、ゴリムが息をついた。


「遅かったですね〜ゴリムさん」

ニコがにやりとする。


「オスロさんに許可もらってたら……遅れてしまった……」


「律儀だなぁ、ゴリムは」

ガルドが肩をすくめる。


「そういうのは大事ですよ」

ニコが真面目に言い返す。


そのやり取りの直後。

カイチの耳が、わずかに後ろへ動いた。


「……のったな……」

低く、確認するような声。


「はい!」

ルーナが応じる。


一瞬――間。


次の瞬間。


『ドンッ!!!』

踏み込みが変わった。


「ひぃ――っ!?」

ゴリムが叫ぶ。


荷車全体が、一段強く引かれる。


『ドドドドドドッ!!』

地面を叩く音が、明らかに重く、速くなる。


「うおっ!? さっきより速くないか!?」

ガルドが叫ぶ。


風圧が一気に強まり、髪と衣が後方へ叩きつけられる。


「カイチさん……!」

ニコが目を輝かせる。


カイチは応えない。


ただ――


『ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!!』


力強く、そして正確に地を踏み抜きながら、


さらに速度を上げていく。


二車連結の荷車を引いているとは思えない加速。


まるで――


“まだ余力があった”と言わんばかりに。


「……やるな」

クルツが、小さく呟いた。


カイチはただ前を見据え、


選抜戦の地へと――一気に駆け抜けていった。


ーーーー


城の応接室。

張り詰めた静寂の中、空気がわずかに揺らぐ。


『其方らの国――カリオス王国の神、エル・カリオンが

魔獣殲滅を名目に召喚を繰り返していたこと……

無論、知っておろう』

エルリーゼが、静かに口を開いた。


「はい……承知しております。

ただ、それは王の勅命によるものと――」

リオネルが言いかけた、その言葉を。


「違うな」

エルリーゼが、わずかに遮る。


『王は操り人形に過ぎぬ。

意志を持ち、動かしておるのは

――エル・カリオンそのものじゃ』


「……はい……」

リオネルは、短く頭を垂れた。


『本来、召喚は一年に一度。

授けられる加護も、ひとつのみ。

それが――神々の定めたことわりじゃ』

エルリーゼは、わずかに目を細める。


『これは、我が王国の神より直々に聞き及んだ話。

疑う余地はあるまい』


「……はい」

重く、肯定が落ちる。


『だが、エル・カリオンはそれを破った』

静寂を裂くように、エルリーゼの声が響く。


『“世界を救うため”という大義のもと、

無作為な召喚を――幾度となく繰り返したのじゃ』


一瞬、空気が張り詰める。


『その果てに生まれた異端――』


エルリーゼは、わずかに間を置き、


『それが、カイロス』

低く、告げた。


『すべての加護を与えられた――最強の剣士じゃ』


「……はい」

リオネルは、低く応じた。


『カイロスが魔獣王を討ち果たした――

それ自体は、紛れもない事実』

エルリーゼは視線を落とし、わずかに眉を寄せる。


『だが……やつは一度、確かに死んでおる。

――そのはずなのじゃ』


重い間が落ちる。


『魔獣王は、二つの魂を持つ存在。

一度滅びても、もう一つの魂で蘇る』


ゆっくりと顔を上げる。

『……だが、その“二つ目”までも葬ったのは

カイロスであると伝わっておる』


「……では、カイロスもまた

魂を二つ持っていたと……?」

リオネルの問いに


『――あり得ぬ』

エルリーゼは、即座に断じた。


『人の身で、魂を二つ宿すなど……存在せぬ』

言い切るその声音に、迷いはない。


「……それでは、なぜ……?」

絞り出すような問い。


エルリーゼは、わずかに目を細めた。


『――それは、神にも分からぬらしい』

静かに告げられた言葉が、場の空気をさらに重くする。


『我が王国の神は言っておる。

あの一件以降――エル・カリオンは

召喚を行ってはおらぬ、と』


一拍、置く。


『……だが同時に』

視線が鋭くなる。


『ニコ殿は――召喚された者である可能性が

極めて高い、ともな』


沈黙。


その言葉の意味が、ゆっくりと場に沈んでいく。


『……納得はできぬであろう』


エルリーゼは、静かに言い切った。

『だが――それが、現時点での“真実”じゃ』


『神は、召喚者に烙印を刻む。

だが――ニコ殿には、その気配がない』

エルリーゼは、静かに言い切る。


『エル・カリオンが、召喚した者を放置するなど

本来、あり得ぬこと……』

わずかに視線を鋭くした。


『ゆえに――ニコ殿は例外。

あるいは……神の理から外れた存在じゃ』


一拍。


『ニコ殿を守れ。

それが、今の其方の役目じゃ』


「……はい。心得ております」

リオネルは、迷いなく応じた。


『話はここまでじゃ』

張り詰めていた空気が、ふっと緩む。


『この件――試合が終わるまでは

誰にも口外するでないぞ』


そして、


『……せっかくの見世物が、つまらなくなるでな』

エルリーゼは、にやりと笑った。


ーーーー


『コツ、コツ』

静かなノックの音が室内に響いた。


「……なんだ」

リオネルが短く応じる。


「魔獣園のみなさんが到着されました」

アルフレッドが扉越しに告げた。


「わかった。すぐに向かう――ギルドの御一行も呼んでくれ」


「かしこまりました」


ほどなくして、アルフレッドがグレイブたちを伴って戻ってくる。


「グレイブ殿。水晶玉の設置をお願いしてもよろしいか」


「はい。設置は我々で行いますので、ご安心ください」

グレイブが一礼する。


「選抜戦は訓練場で行います。設置場所はお任せします」

リオネルが告げた。


「アルフレッド、案内を頼む」


「はい。――皆さま、こちらへ」


ーーーー


訓練場に、それぞれの者たちが集まっていく。


「兄さん。ご苦労様です

――選抜戦の開始は一時間後でよろしいか?」

リオネルが確認する。


「ああ、構わん」

ヴァルドは短く頷いた。


「ヴァルド……迷惑をかけたな」

グレイブが珍しく申し訳なさそうに言う。


「おまえが殊勝な顔をするとはな」

ヴァルドは片眉を上げ、


「で――何を企んでいる。元ギルド長まで引き連れて」

鋭く踏み込んだ。


「いや、その……そのギルド長に頼まれてな……」

グレイブが視線を逸らす。


「ほう?」

間髪入れずに返すヴァルド。


すると背後から、


「わしらのせいにするでない」

低い声が割り込む。


「見たいと言い出したのは――おぬしの方じゃろうが」

ガルディアスとバルドレインが姿を見せる。


「兄さん。エルフェリア王国の女王――エルリーゼ様が

選抜戦をご覧になりたいとのことで

水晶玉を設置します。よろしいですか」

リオネルが慎重に告げる。


「はあっ!? エルリーゼ女王陛下が、なぜだ?」

ヴァルドが驚きの声を上げた。


「リシェル殿が巨神討伐の報告の際

ニコ殿の話をされたそうで……ぜひ見てみたいと」

リオネルが説明する。


「ほぉ……それなら断る理由はないな」

ヴァルドは腕を組み

「……我が国の王よりは、よほど信用できる御方だ」

と呟く。


「兄さん! 騎士団の前でそういうことは……!」

リオネルが慌ててたしなめる。


「悪い悪い……」

軽く手を振るヴァルド。


そのまま視線をグレイブへ向けた。

「グレイブ。ちょうどいい、審判を頼む」


「……急だな」


「リオネル、それでいいな?」


「ええ。私もそのつもりです。グレイブ殿、お願いできますか」


「……仕方ないな」

グレイブが肩をすくめる。


「では、ガルディアス殿、バルドレイン殿」

ヴァルドが続ける。

「副審をお願いできますか」


「おお、構わんぞ」

ガルディアスが笑う。

「その方が近くで見られるでの」


「兄さん。三番勝負の順番は、この紙に記しておいてください。

こちらも決めておきますので」

リオネルが差し出す。


「リオネル――こっちは、一番強い者を最後に出す」

ヴァルドはあっさりと言い切った。


「またそういうことを……その手には乗りませんよ」

リオネルが苦笑する。


ヴァルドは肩をすくめ、視線をクルツへ向けた。

「クルツ。こちらは“強い者は後”だ。いいな」


「……承知しました」


「さっきリオネルにもそう言っておいた。

向こうも同じで来るはずだ」

ヴァルドが小さく笑う。



「サイラス。魔獣園側は“強い者を後に出す”

――兄さんがそう言っていた」

リオネルが伝える。


「……本当ですか? 混乱させるための策では……」

サイラスが疑いの目を向ける。


「兄さんはな、戦いに関して嘘をついたことはない」

リオネルは静かに言い切った。


「――私を信じてくれ」


その言葉に、サイラスはわずかに息を呑んだ。


ーーーー


「それでは――選抜戦の順番表、ご提出を願います」

グレイブが一礼しながら告げる。


サイラスとクルツが、それぞれの紙を差し出した。

内容を確認し、グレイブは顔を上げる。


「これより、闘技大会・選抜戦を開始いたします」

一歩下がり、声を張る。

「騎士団よりザック、魔獣園よりガルド。両者、前へ」


「なぜ先鋒があの小さな魔獣ではないのだ……」

サイラスが、ニコに疑いの視線を向け呟く。


「お待ちください」

サイラスが口を挟んだ。

「ヴァルド様のお話と、順が異なるのでは?」


視線が集まる。


「……わしは、嘘など言っておらん」

ヴァルドが一歩踏み出す。


「文句があるなら最後に聞こう。

その上で――もし虚言であったなら

この勝負はこちらの負けで構わん」

きっぱりと言い切った。


場が静まり返る。


「……サイラス殿」

グレイブが静かに呼びかける。

「このまま進めても、よろしいでしょうか」


「……はい。お騒がせして、申し訳ありません」

サイラスは一礼し、下がった。


グレイブは小さく頷き、懐から銅貨を取り出す。

「それでは――開始の合図を務めさせていただきます」


軽く掲げ、

「この銅貨が地に落ちた音をもって、試合開始といたします」


「はい」

ザックとガルドが応じた。


一瞬の静寂。


指が弾かれる。


『ピンッ……』

二人の間で、銅貨が高く舞い上がった。


『チリン……』

冷たい地面に、銅貨が触れた。


――その瞬間。


ザックが踏み込む。


左右へ鋭くフェイントを散らし、そのまま一閃。


『ガキィンッ!!』


ガルドは、最小限の動きでそれを弾き返した。


「……見えるな。ニコの動きに比べれば――遅い」

低く、呟く。


弾かれたザックが目を見開き、即座に体勢を立て直す。

「なぜだ……読まれているのか……なら――もう一度だ」


今度は左右に加え、上下も混ぜる。

揺さぶりを増やし、意識を散らす。


「……おかしい」

ザックの眉が歪む。

「反応しない……見えていないのか……?」


だが――違う。

ガルドは、すべて見えていた。

だからこそ、乗らない。

無駄に追わず、ただ“来る瞬間”を待つ。


「……もらった!」

痺れを切らしたザックが、横薙ぎに振り抜く。


『ガッキンッ――ガリィッ!!』

受け止めた瞬間、鉾槍の鉤が絡む。


「――遅い」

引き寄せる。


『ドォンッ!!』

そのまま、地面へと叩きつけた。


「がっ……!」

息が詰まる。


だがザックは転がるように距離を取り

辛うじて追撃をかわす。


「……どうなっている……当たらない……!」

焦りが滲む。


思考が乱れ始める。


「次だ……次で決める……!」

自らに言い聞かせ、再び揺さぶりをかける。


左右、上下――


だが。


それでも、ガルドは動かない。


「――っ!」

ついに、ザックが踏み込もうとした、その瞬間。


「そこまで!」


「勝負あり!」


ガルディアスとバルドレインの声が、鋭く場を断ち切った。


動きが止まる。


二人は、その場でしばらく静止したままだった。


「勝者――魔獣園、ガルド」

グレイブの声が、静かに響く。


「なぜだ! 俺はまだ――」

ザックが叫ぶ。


「ザック」

サイラスが低く告げた。

「……お前の負けだ」


一拍。


「あのまま振り抜いていれば――お前は、死んでいた」

その言葉に、場が凍りつく。


ザックは、言葉を失った。

ガルドは何も言わず、ただ鉾槍を静かに下ろす。

――実力差は、誰の目にも明らかだった。


選抜戦、第一試合。

その決着は、あまりにも鮮やかに

――そして一方的に幕を下ろした。

第92話

神の理と魔獣の存在

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


いよいよ選抜戦の地に到着し、第一試合がスタートしました。

ニコとの地獄のような修行を乗り越えたガルド

その成長ぶりはいかがだったでしょうか?

相手の動きを冷静に見切る姿に、彼の確かな実力アップを

感じていただけたら嬉しいです。


そして、エルリーゼ女王の口から語られた

「この世界の神」と「伝説の剣士カイロス」、そしてニコの秘密……。

物語の根幹に関わる重要な謎も少しずつ動き出してきました。

女王の言葉の意味とは一体何なのか

こちらも今後の展開にご注目ください!


次回は、選抜戦の続きをお届けします。

魔獣園の快進撃は続くのか!?

引き続き、楽しみにしていただけますと幸いです。


いつも温かい応援をありがとうございます!

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