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ギルド長の手紙と選抜戦への想い。 第90話

早朝――副庭での修行の最中だった。


風を切る音が、ほんの一瞬だけ場の空気を裂いた。


「あれ〜、今、何か飛んで来ませんでしたか?」

ニコが首を傾げる。


「えっ、何も見えなかったぞ」

ガルドは眉をひそめ、周囲を見回した。


「……伝令鳥かもしれないな」

クルツが低く呟く。


その視線は、副庭の端に立つ一本の木へと向けられていた。


「クレイグ。あそこの木の上――箱を確認してくれ」

「はい」


短く返事をしたクレイグは、軽やかに木へと

駆け寄り、箱へと手を伸ばす。

そっと中を覗き込んだ。

「あっ……鳥がいるぞ!」


驚きと少しの嬉しさが混じった声が

副庭に響いた。


クレイグの声を聞き

クルツはゆっくりと木の下へ歩み寄った。

箱の前まで来るとゆっくりと覗き込んだ。


中にいる鳥は逃げる様子もなく、じっとこちらを見返していた。

訓練された伝令鳥特有の落ち着きだ。


「……やはり伝令鳥だな」

クルツは静かに呟き、そっと手を差し入れる。

刺激しないよう慎重に鳥の足元へ視線を落とした。


細い脚には、小さな金属製の筒が取り付けられている。

「付いているな」


器用に固定具を外し、筒を取り外す。

軽く振って中身の存在だけを確かめると

そのまま懐へ収めた。


「誰からですか?」

下から見上げるニコが尋ねる。


クルツは首を横に振った。

「さあな。――園長宛だろう」


視線を副庭の奥へ向ける。


「俺たちが勝手に開けるものじゃない。届けるぞ」

その一言で、場の空気が引き締まった。


クルツは筒を懐に収めたまま

一拍置いて、全員を見渡した。


「手紙は俺が届けてくる。お前たちは修行を再開しろ」

低く、だが有無を言わせぬ声だった。


「はいっ」

クレイグが即座に応じる。


ニコも小さく頷き、定位置へ戻っていく。


クルツはそれを確認すると、踵を返した。

朝の光の中、彼の背だけが副庭を離れていく。


残された者たちは再び構えを取り――


何事もなかったかのように、修行を再開した。


ーーーー


副庭を後にしたクルツは、本館へと向かった。

足音を響かせながら階段を上がり、二階へ。


園長室の前で立ち止まる。


『コンコン。』

「クルツです。伝令が届きました」


一拍の間。


「入れ」

内側から返事が返る。


クルツは扉を開け、静かに中へ入り

机の向こうにいる園長へと歩み寄る。


「伝令鳥によるものです。先ほど回収しました」

そう告げると、懐から筒を取り出す。


両手で、まっすぐに差し出した。


園長は筒を受け取ると

手早く中を確認し、手紙を引き抜いた。


紙を一度だけ整え、静かに目を通していく。


やがて――


「……グレイブのヤツ、何を企んでいるんだ……」

低く、押し殺した声が漏れた。


「えっ……何と書いてあるのですか?」

クルツが一歩踏み込み、問いかける。


園長は視線を紙から外さず、そのまま答えた。

「領主に、今回の件の礼を述べに来るそうだ」


一拍。


その言葉だけなら問題はないはずだった。


だが――


「……それだけならいい」

ゆっくりと顔を上げる。


「アンズーを迎えに来させろ、とも書いてある」

園長は呆れたように言った。


「クルツ。ニコにアンズーをギルドに

向かわせるように言ってくれ」

園長が言った。


「はい。早急に伝えます」

クルツが言った。


「クルツはこの手紙を領主のもとへ飛ばせ。

伝令鳥は――間違えるなよ」

園長の声は低く、念を押すようだった。


「承知しました」

クルツは短く応じる。


「ギルドの伝令鳥は、副庭の伝書箱だったな」

確認するように視線を向ける。


「はい、その通りです」

即答。


園長は小さく頷いた。

「よし。なら――ギルドへの返事は、私が飛ばしてくる」


そう言って、手紙を手にしたまま立ち上がる。


ーーーー


「フェルナ領に行くことは、お聞きしていますが

……なんでアンズーさんが来てるんですか?」

ギルド長室に、リシェルの声が鋭く響いた。


「仕事が溜まっては困るからな。

早く戻れるよう、ヴァルドに頼んでおいただけだ」

グレイブは平然と答える。


間髪入れず、リシェルの視線が次へ移る。

「……では、もう一つ聞きます」


一歩踏み込み、じっと睨む。

「どうしてここに、ガルディアスさんと

バルドレインさんがいるんですか?」


空気がわずかに止まる。


「た、たまたまだ。

我らもちょうどフェルナ領に用事があってな」

ガルディアスが咳払い混じりに言う。


「そ、そうじゃそうじゃ。

用事があってのう」

バルドレインも慌てて続けた。


リシェルはしばらく無言で三人を見つめ――


ふっと、ため息をつく。


「……しらじらしい、ですね」

肩を落とし、ぽつりと続けた。


「……私も行きたかったのに……」

その一言に、部屋の空気が今度は違う意味で固まった。


「……今回は、許してあげます」

リシェルは小さく息を吐き、そう言った。


三人がわずかに安堵した、その直後――


「ただし、渡す物があります。少し待ってもらえますか?」

有無を言わせぬ口調だった。


グレイブが眉を上げる。

「渡す物、だと?」


「はい。すぐ戻ります」

リシェルはそれだけ告げると、足早に部屋を出ていった。


――しばらくして。


扉が開き、リシェルが戻ってくる。

両腕で抱えているのは、ひときわ大きな水晶玉だった。


「な……それは……」

ガルディアスが目を見張る。


リシェルは慎重にそれを机の上へと置いた。


鈍く、重い音が響く。


「これを持って行ってください」

まっすぐに三人を見据える。


そして――


「戦いのよく見える場所に設置してください」

その言葉に、場の空気が変わる。


バルドレインの口元が、わずかに歪んだ。

「……なるほどな……」


リシェルは一歩も引かない。

「エルフの国とも情報を共有します。

隠し事は、できません」


静かな圧が、三人へとのしかかった。


ーーーー


「リオネル様。伝令鳥が届いております」

執事は一礼し、筒を丁重に差し出した。


「うむ」

リオネルはそれを受け取ると、すぐに視線を落とす。


「アルフレッド。すぐに確認する。そこで待っておれ」

落ち着いた声で告げる。


「はっ」

アルフレッドはその場で姿勢を正した。


リオネルは筒から手紙を取り出し、目を走らせる。


わずかな間――


やがて紙を畳み、顔を上げた。

「明日、ギルド長が来る知らせだ」

静かに告げると、執事へ視線を向ける。


「三名が来られる予定だ、もてなしの準備を整えよ。

それと――至急、隊長を呼べ」

声には、わずかな緊張が混じっていた。


「かしこまりました」

執事は深く頭を下げ、すぐにその場を後にした。


「領主様。急ぎのお呼びと伺いましたが

――どのようなご用件でしょうか」

隊長は一礼し、静かに問いかけた。


「明日、ギルド長が来る」

リオネルは端的に告げる。


「ちょうどよい機会だ。

選抜戦の審判を務めてもらおうと思う」


一拍置き、視線を向ける。

「問題はないか」


「はい。異論はございません」

隊長は即座に応じた。

「よいご判断かと存じます」


その言葉に、リオネルは小さく頷いた。


ーーーー


春のやわらかな風が、副庭をゆっくりと通り抜けていく。


「いよいよ明日だな……。

じたばたしても始まらん。

力を出し切ることだけ考えろ。いいな」

クルツの声は、いつもより低く、まっすぐだった。


「はい!」

ニコ、ガルド、クレイグが一斉に応じる。


その返事に、クルツはわずかに頷いた。

「……よし。今日はこのくらいにしよう。

疲れてしまっては元も子もないからな」


「わかりました。ありがとうございました」

三人は頭を下げ、ゆっくりと歩き始めた。


副庭には、再び静けさが戻った。


――明日。


その一日が、すべてを決める。


風は変わらず穏やかに吹いている。


だが、その中に立つ者たちの胸には、

確かな熱が宿っていた。

第90話

ギルド長の手紙と選抜戦への想い。

お読みいただきありがとうございます!


いよいよ闘技大会の出場権を賭けた

「選抜戦」の前日となりました。

今回は、早朝の魔獣園に一羽の伝令鳥が

舞い降りるところから物語が動き出します。


ギルド長グレイブからの

「お礼に伺う(アンズーを迎えによこせ)」

という手紙に、園長も思わず

「何を企んでいるんだ」と呆れ気味でした。


そして、ギルド側の場面。

「しらじらしい」理由で同行しようとする

お馴染みの重鎮二人組(ガルディアス、バルドレイン)と

それを鋭く追求するリシェルさんのやり取りです。

「私も行きたかったのに……」と本音を漏らしつつも

ちゃっかりと中継用の「巨大な水晶玉」を押し付ける

リシェルさんの抜け目のなさと、静かな圧が……

これでエルフの国とも繋がることになり選抜戦は

思いがけず大きな注目を集めることになりそうです。


一方、領主リオネル様もギルド長来訪の知らせを受け

選抜戦の審判を依頼するという機転を利かせます。

全ての思惑が重なり合う中、魔獣園で修行を終えた

ニコたちは、静かに明日の決戦へと備えます。


次回、いよいよ三対三の選抜戦が始まります! どうぞお楽しみに!


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