原初のドワーフと三種の防具 第88話
早朝の副庭に、不意に意外な人影が現れた。
「クルツ。防具を持ってきたぞ」
低く落ち着いた声が響く。
「ヴォルンさん、防具できたんですか!?」
クルツが口を開くより先に、ニコが弾む声を上げた。
「ヴォルンさん、ありがとうございます。
ギリギリ間に合いましたね」
クルツがほっとしたように、肩の力を抜いて言った。
「まあな。間に合わせたってところだ。
特にニコの極薄の防具は神経をすり減らしたわい。
少しでも気を抜けば割れる。
炉の前で三日三晩、寝ずに叩き続けたぞ」
ヴォルンは少しドヤ顔で誇らしげに語った。
そのやり取りに、ガルドとクレイグの
視線が一気に引き寄せられる。
「おっお……俺たちの防具……」
「完成したのか……!」
二人は思わず一歩、また一歩と前へにじり寄る。
興味津々といった様子で視線を送っている。
「ヴォルンさん。説明してもらっていいですか」
クルツが丁寧に聞いた。
「ああ、わかった。まずこれがニコの防具だ。
ニコの戦い方に合わせて軽量に徹した防具だ」
ヴォルンが防具を持ち上げながら言った。
「……確かにニコの場合は攻撃を受けること
自体が負けみたいなもんだからな……。
大怪我にならなければそれでいいと思う」
クルツが納得して説明した。
「……大怪我って……」
ニコが顔を引きつらせ、わずかに身をすくめる。
だが次の瞬間――
「チェ、チェインメイル!?」
防具を覗き込んでいたニコが、思わず声を張り上げた。
朝日に当たって、銀色の波のように滑らかに輝いている。
触れてみると、布のように柔らかいのに
金属特有の冷たい感触があった。
「おお、気づいたか」
ヴォルンが口元を緩める。
「オリハルコンを極限まで薄く伸ばしてな。
可動域にはチェインメイルを仕込んである。
――お前の動きを一切邪魔しねぇ造りだ」
ニコは目を見開いたまま、防具に顔を近づける。
「これ……こんな細かい加工……」
「ちなみにそのチェインメイルもオリハルコンだ」
さらりと言い放つヴォルン。
「オリハルコンでこの加工ができるのは
俺たちドワーフだけだ。並のドワーフには真似できん代物だ」
どこか誇らしげに胸を張る。
「……すごい……」
ニコは思わず息を呑んだ。
「で、俺のはどれだ」
待ちきれない様子で、ガルドが口を挟む。
「慌てるな。次はこいつだ」
ヴォルンは重厚な防具を持ち上げ、ガルドの前に差し出した。
鈍い光を放つ分厚い装甲。
ガルドが受け取った瞬間、ズンッと空気が
沈むような重みを感じさせた。
「お前用だ。接近戦での強打を受けても
びくともしねぇように作ってある。
多少重いが――硬さは保証する」
自信をにじませる声。
ガルドは無言でそれを受け取り――
ぐっと持ち上げる。
「……この程度か」
感触を確かめると、にやりと口元を歪めた。
「これなら全然問題ねぇな」
その一言に、ヴォルンの目が満足げに細められた。
「次はこいつだ」
ヴォルンは一歩踏み出し
落ち着いた手つきで防具を差し出す。
動きを邪魔しないように、しなやかな魔獣の革と
金属が精巧に組み合わされている。
「槍使い向けだ。中装と重装の中間――重量と防御
その両方のバランスを突き詰めて仕上げてある」
一拍置き、まっすぐにクレイグを見る。
「クレイグ。お前専用だ」
その言葉に――
「これが……お、俺の、防具……」
クレイグは息を呑み、震えるような手でそれを受け取る。
重みを確かめるように抱え
しばらく視線を落としたまま動かない。
やがて、ゆっくりと顔を上げた。
その目には、抑えきれない高揚が宿っている。
「……ありがとう……」
低く、しかし確かな声。
「そうだ。お前の防具だ」
ヴォルンは短く頷く。
「わしに出来るのはここまでだ。
あとは――お前次第だ。せいぜい使いこなしてみせろ」
ぶっきらぼうな言葉の奥に、確かな期待が滲んでいた。
「ヴォルンさん……俺の……ぼ、防具は……」
クルツが遠慮がちに、しかし期待をにじませて呟く。
「お前のは作っとらん」
間髪入れずヴォルンが、ばっさりと言い切った。
「そんな〜……」
肩を落とし、がっくりとうなだれるクルツ。
「情けない声を出すな。
闘技大会までには作ってやるわい。それまで待っとれ」
ぶっきらぼうに言いながらも、どこか気遣いの滲む声音だった。
「……はい……」
力なく頷くクルツをよそに――
「よし、着てみるか」
「動きも見ておきたいな」
ニコ、ガルド、クレイグは早速防具に手を伸ばした。
「軽い……!」
ニコが腕を振り、くるりと回る。
「全然引っかからない!」
関節の動きに合わせてしなやかに
追従する防具に、思わず笑みがこぼれる。
「ほう……こりゃいいな」
ガルドは肩を回し、拳を軽く振る。
鈍い音と共に空気が揺れるが、防具はびくともしない。
「重さも悪くねぇ。むしろ安定する」
満足げに頷いた。
クレイグは静かに構えを取り――槍を突き出す。
「……動きやすい」
一歩踏み込み、もう一歩。
無駄な引っ掛かりが一切ない。
「これなら、間合いを崩さずに戦えます」
その声には確かな手応えがあった。
「いいなそれ!」
「見せてくれよ!」
三人でああでもないこうでもないと動きを
確かめ合い、自然と笑い声がこぼれる。
和やかな空気の中、互いの装備を見ては感想を言い合い
ーー副庭はすっかり賑やかになっていた。
その少し離れた場所で。
クルツは腕を組んだまま
じっとその様子を見つめていた。
「……いいなぁ……」
ぽつりと漏れる本音。
楽しげに動く三人の姿を
どこか羨ましそうに目で追い続けていた。
その騒ぎに気づき、カイチとアンズーが
顔を出して一部始終を見ていた。
やがてアンズーが静かに近寄り、
大きな手でクルツの背中をぽん、と叩いた。
「クルツ……げんきを、だせ」
たどたどしい、慰めの言葉。
横ではカイチが、呆れたように小さく鼻を鳴らしている。
「……ああ、ありがとな、アンズー」
クルツは力なく笑い、その手を静かに撫でるのだった。
第88話
原初のドワーフと三種の防具
お読みいただきありがとうございます!
今回は、闘技大会に向けてヴォルンさんが
打ち上げた特製防具のお披露目回です。
三日三晩寝ずに仕上げたというオリハルコンの装備。
朝日に銀色の波のように輝くニコのチェインメイル
空気が沈むほど重厚なガルドの重装。
そして魔獣の革と金属がしなやかに
組み合わさったクレイグの中装。
それぞれの戦い方に合わせたヴォルンならではの
こだわりが詰まっています。
新しい装備を身につけて動きを確かめる
三人の高揚感が伝われば嬉しいです。
そして、そんなはしゃぐ三人を横目に
一人だけ防具を作ってもらえず「……いいなぁ……」と
本音を漏らす不憫なクルツ(笑)。
見かねたアンズーから「げんきを、だせ」と励まされるオチで
魔獣園らしい平和な朝の風景になりました。
新しい装備を手に入れたニコたちの更なる活躍と
クルツの防具が無事に完成する日(?)をどうぞお楽しみに!




