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お喋りな魔獣と空を駆ける先発隊 第86話

早朝の副庭――


まだ空気に冷たさが残る中、クルツとアレンは

魔獣たちと共に荷車の準備を進めていた。


木製の車輪がきしみ、縄が引かれる音が静かに響く。


「アレン。荷車、そのままにしておいて正解だったな」

クルツが結び目を確かめながら言う。


「そうですね。全部片付けなくてよかったです。

二台くらいは、このまま常備しておいてもいいかもしれませんね」

アレンは三連荷車の繋ぎ目を一つひとつ確認しながら応じた。


その横から、ニコが顔を出す。

「クルツさん。ここの結び、ほどけかけてたので

締め直しておきましたけど……。

もう一本足して補強した方がいいと思います」


「ああ、助かる。そこは俺がやるから、他のところも見て回ってくれ」


「はい、わかりました!」

ニコは元気よく返事をし、次の荷車へと駆けていった。


アレンはその様子を見送り、ふとクルツに向き直る。

「クルツさん。農場長のところに、打ち合わせも兼ねて

……例の件、お願いに行ってきてもいいですか?」


「こっちはニコたちもいる。問題ねぇ」

クルツは手を動かしながら、軽くうなずいた。


「むしろ、早めに話を通しておいた方がいい」


「わかりました。行ってきます」

アレンはそう言うと、足早に副庭を後にした。


ーーーー


アレンが農場の詰所に着くと

扉の向こうから話し声が漏れてきた。


「農場長……地植えのいちごも

今日のいちご狩りで収穫してもらえませんか?」

セリオの声は、どこか困ったように響いている。


「そうだなぁ……頼んでみるか」

低く唸るように、農場長が応じた。


アレンはそのやり取りを一瞬聞き、軽く扉を叩く。

「ローデリックさん、いらっしゃいますか?」


「おるぞ。入ってきてくれ」

落ち着いた低い声がすぐに返ってきた。


アレンはドアを開け、中へと足を踏み入れる。


室内では、ローデリックとセリオが顔を合わせていた。


「アレンか。どうした?」

ローデリックが腕を組みながら問いかける。


「今日のいちご狩りの件で

少し打ち合わせをしたくて来ました」

アレンは一礼し、そう切り出した。


「打ち合わせはしておいた方がいいな。

それで……いつ頃、始めるつもりなんだ?」

ローデリックがアレンを見据える。


「朝食後に迎えに行く予定です。

ですので、開始は昼前になると思います」

アレンは落ち着いた口調で答えた。


「昼前か……」

ローデリックは少し考え込むように顎に手をやる。


「わかった。その時間に合わせて、こちらも準備しておこう。

……それと、手の空く者を何人か回してもらえるか?」


「はい、そのつもりで来ています」

アレンはすぐにうなずいた。


「助かる」

短く礼を言うと、ローデリックはさらに続ける。


「他には何かあるか?」


アレンは一瞬だけ言葉を選び、口を開いた。

「もう一つ、お願いがあるんですが

……避難していた年配の方も

いちご狩りに参加させてもらえませんか?」


その言葉に、ローデリックはわずかに目を細める。

「年配の方か……」


少し考えた後、ゆっくりとうなずいた。

「後日にはなるが、地植えのいちご狩りでよければ

むしろこちらからお願いしたいくらいだ。

人手にもなるしな」


「はい、それで大丈夫です。よろしくお願いします」

アレンはほっとしたように頭を下げた。


話はまとまり、準備は着実に整い始めた。


「クルツさん。打ち合わせ、無事に終わりました」

副庭へ戻ったアレンが報告する。

「年配の方のいちご狩りは

後日に地植えの畑で行うことになりました」


「ああ、そうか」

クルツは一息つき、肩の力を抜く。


「よかったな。これでひと段落だ」

その表情には、わずかな安堵が浮かんでいた。


そしてすぐに、周囲へ向き直る。

「みんなー! 朝食にするぞ!」


よく通る声が、副庭に響いた。

「朝食が終わったら出発だ。遅れるなよ!」


「はーい!」

魔獣たちは元気よく返事をし

それぞれ足早に食堂へと向かっていく。


いよいよ本番へ向けて動き出す。


ーーーー


食事を終え、みんなが副庭に集まり始めた。


出発前のざわめきの中

クルツはニコの姿を見つけて手招きする。

「ニコ! お前はアレンと一緒に

アンズーに乗って先に行ってくれるか」


「はい、わかりました!」

ニコはすぐに頷いた――が、ふと首をかしげる。

「アレンさん、なんで僕が先なんですか?」


アレンは軽く笑って答える。

「ニコは子どもに人気があるからな。ニコがいれば

みんな素直に言うこと聞くだろうってことだよ」


「ああ……なるほど……」

納得したように頷くニコ。


その様子を見て、アレンは思い出したように続けた。

「ニコ、俺からも一ついいか?」


「いいですよ。なんですか?」


「アンズーなんだけどさ……人の言葉、話したんだよ。

あれ、前からできたのか?」


その問いに、ニコはあっさりと答える。

「ああ、それなら。アンズーさんに“教えてほしい”って

言われたので、時間がある時に簡単な言葉を教えてますよ」


「やっぱりか……」

アレンは苦笑しながらうなずいた。


「ちなみに――カイチさんの方が、もっと上手いですよ」


さらりと告げられた一言に、アレンは目を丸くする。

「そうなのか? でも、喋ってるの見たことないぞ」


「カイチさんですからね」

ニコは少し肩をすくめる。

「たぶん……プライドがあるんじゃないですか。

“なんで我がお前たちの言葉を話さなきゃいけないんだ”って」


「……ああ、それはありそうだな」

アレンは妙に納得した様子でうなずいた。


副庭には、出発前の緊張と

どこか和やかな空気が入り混じっていた。


アンズーが大きく翼を広げ、ニコとアレンを背に乗せる。

「しっかり掴まってくださいね」

ニコが振り返って言った、その直後――


バサッ!!


力強く羽ばたくと同時に、巨体がふわりと浮かび上がった。

地面が一気に遠ざかり、風が頬を打つ。


アンズーはそのまま一気に高度を上げ、空へと駆け上がる。


「お、おい……今日は思ったより速いな……!」

アレンが思わず声を上げた。


風を切り裂きながら、アンズーは一直線に飛び抜けていく。

下には出発したばかりの隊列が小さく見え始めていた。


「先に着いて、準備しないといけませんからね」

ニコが楽しげに言う。


その言葉に応えるように、アンズーはさらに翼を打ち――

二人を乗せたまま、空を滑るように飛び去っていった。


クルツがヒッポスの手綱を握り、ゆっくりと視線を巡らせた。

並ぶ荷車、息を整える魔獣たち――そのすべてを確かめるように。


「全員、準備はいいな!」

低く張りのある声が、副庭に響き渡る。


それぞれが無言で頷き、手綱を握る手に自然と力がこもった。

空気が、張り詰める。


一拍の静寂――


「――出発だ!」


号令が落ちた瞬間、


ギシッ……ギシッ……


重なり合う軋みが、足並みを揃える合図となる。


先頭ではアルヒッポスが大きく一歩を踏み出し、

それに呼応するようにヒッポスたちも続いて進み始めた。


土を踏む音、車輪の震え、列はゆるやかに

しかし確かな意志を持って動き出す。


そして最後尾――


「カイチさん。行きましょう」

ルーナの合図にカイチが三連荷車を従え、遅れることなく歩み出た。

その一歩ごとに大地がわずかに震え、列の終端を静かに締める。


整然と連なる隊列は、やがてひとつの流れとなり、

朝の空気を押し分けるように進んでいった。


ーーーー


アレンとニコは、コルン、ランナでの説明を終え、

最後の目的地――リム村へとたどり着いた。


一通りの話を終えたあと、アレンは重要なことを告げた。

「父さん。後日にはなりますが、いちご狩りの

許可はもらいましたので安心してください」


「おお。ありがとう」

村長は笑顔で感謝した。


その間にニコは、集まってきた子供たちの前に

しゃがみ込み、やさしく言い聞かせる。


「いいですか? ちゃんと順番に案内しますから

今はここで待っててくださいね」


子供たちは素直に頷いた。


やがて二人は再びアンズーの背に乗り込む。


「お願いします、アンズーさん」

軽く合図を送ると――


バサッ!


大きな翼が空気を打ち、巨体がふわりと浮かび上がった。

そのまま迷いなく、魔獣園の方角へと飛び出していく。


帰路の途中。

高度を上げたアンズーの背から

地上の景色がゆっくりと流れていく。


「あれ……見てみろ」

アレンが指差した先には、林道を進む荷車の隊列があった。

小さく連なり、ゆっくりと進むその姿。


「やっぱり空の方が、断然速いなー」

しみじみとした声が風に流れる。


「そうですね〜」


ニコも同意しながら、下を覗き込んだ。


空を駆ける風と、地を進む列。

その差を実感しながら――アンズーはさらに速度を上げ

魔獣園へと帰っていった。


やがて、三つの村を巡り、笑顔の子供たちを乗せた

荷車の隊列もまた、ゆっくりと魔獣園へとたどり着く。

第86話

お喋りな魔獣と空を駆ける先発隊

お読みいただきありがとうございます!


今回は、いよいよ子どもたちを魔獣園へ迎えるための

慌ただしくも活気に満ちた朝の準備風景を描きました。

アレンの交渉のおかげで、お父さん(ハロルド村長)を

はじめとする年配の方々も、後日「地植えのいちご狩り」に

参加できることになりました!

農場長としては人手確保の思惑もあるようですが(笑)

双方にとって嬉しい結果になって良かったです。


また、アンズーに言葉を教えていたのはやはりニコでしたね。

カイチの方が上手いのにプライドが高くて喋らない

……という裏話には、アレンと同じく「カイチらしいな」と

納得してしまいました。


さて、今回でいよいよ「いちご狩りとケーキパーティ」……

とお伝えしたのですが、申し訳ありません、準備と移動の描写で

文字数がいっぱいになってしまいました(汗)。

次回の第87話こそ、お待ちかねの子どもたちがいちご畑や

いちごケーキに目を輝かせる本番をお届けします!

お預けになってしまい申し訳ありませんが

もう少しだけ楽しみにお待ちくださいね!


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