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魔獣の隊列と帰村の名簿 第79話

荷車の大隊列が、街を囲む堅牢な防壁の前に到着した。


園長は先頭で足を止め、衛兵に声をかける。

「魔獣園の者だ。領主邸へ向かう。通してもらえるか」


「通行証を提示してください」


「緊急だ。取得していない」


衛兵の視線が荷車へと向く。

「……魔獣、ですね。許可のない魔獣の入場は認められません」


わずかな緊張が走る。


その時――


「あっ……ヴァルド様!?」

別の衛兵が慌てて駆け寄ってきた。


「失礼しました!まさかこのような場所に……」


「構わん」

短く返す。


駆け寄った衛兵が新米の衛兵へ向き直る。

「この方は領主様のご兄君だ。無礼のないようにしろ」


「……は、はい!」

空気が一変する。


園長――ヴァルドは、変わらぬ調子で言った。

「通れるか」


「はっ!直ちに門を開けます!」


重い門が軋みを上げて開き始めた。


荷車の大隊列が、悠然と街中を進み始める。

後方ではカイチが威風堂々と歩き出した。


人の気配が一瞬で変わった。

誰かが何かを察した、その次の瞬間には

――人々は弾かれたように散り

逃げるように通りから姿を消していく。


戸口に立っていた者は慌てて中へ駆け込み、

開け放たれていた扉は乱暴に閉ざされ、閂が下ろされ

窓という窓が閉められた。


ついさっきまで賑わっていた通りは、瞬く間に人影を失った。

残されたのは、張り詰めた空気と、息を潜める気配だけ――。



ざわめきが広がった。


「先輩……あんな魔獣まで入れて、大丈夫なんですか……?」

新米の衛兵が声を潜める。


「俺に聞くな。ヴァルド様の判断だ……俺たちは従うしかない」

視線は逸らせないまま、ただ見送る。


「……園長。この時間にこの規模で移動するのは

さすがに目立ちます」

ニコが周囲を見回しながら言った。


通りの両脇では、窓の隙間から

不安と好奇の入り混じった目で見ている。


「そうだな。街の者にとっては“魔獣の行軍”だ」

園長は淡々と答えた。


「……前から来るの、騎士団じゃないですか?」

クルツの声。


視線の先――隊列を組んだ騎士たちがこちらへ向かってくる。


やがて先頭の男が足を止めた。

「ヴァルド様……思ったより早いお越しですね」


騎士団隊長ヴァンデルは、周囲の光景に一瞬だけ眉をひそめる。

「アレン殿から話は聞いていましたが……ここまでとは……」


言葉を選びきれないまま、視線が魔獣たちへ流れる。


「すまんな。ここまで騒ぎになるとは思わなかった」

園長はあっさりと謝った。


ヴァンデルは小さく息を吐く。

「……街の者は、魔獣に慣れていませんから」


その言葉に、周囲のざわめきが重なる。


「騎士団が先導いたします。後にお続きください」

ヴァンデルが静かに告げた。


「ああ、頼む」


短く応じると、隊列は騎士団の先導に従い

再び動き出した。

整然とした足並みが石畳に響く中、園長はただ

前だけを見据え、何も言わず進ませる。


門が近づく。

すでに警備兵たちは持ち場に就き

重々しい門扉は開かれたまま待機していた。


軋む音とともに、隊列はゆっくりと領主邸の

敷地へと入り込んでいく。


「――ヴァルド様」

控えていた執事が一歩進み出て、恭しく頭を下げた。

「応接間にて、領主様がお待ちでございます」


「わかった。すぐに向かう」

園長は足を止めることなく答える。


そして、わずかに顔を傾け――


「クルツ。アレンと合流し

避難民の帰村を調整しておいてくれ」


「はっ」

クルツは即座に応じ、力強く頷いた。


ーーーー


「リオネル様。ヴァルド様をお連れいたしました」

執事が恭しく告げる。


「通せ」

短い一言で、リオネルは入室を許した。


扉が開かれると同時に、リオネルはすぐに口を開く。

「兄さん、思ったより早かったですね。

こちらの準備が追いつかず

騒ぎになってしまい申し訳ありません」


「気にするな」

園長は軽く応じると、そのまま本題へと踏み込む。

「アレンからも話がいっているはずだ。

荷車の手配はどうなっている?」


「はい。アレン殿には、多少お時間はいただきますが

手配は進めるとお伝えしております」

リオネルは落ち着いた口調で答えた。


「クルツには、アレンと調整するよう指示してある。

こちらで運びきれなかった者たちは

そちらで輸送してもらう形になるだろう」

園長は淡々と言い切る。


「承知しております。万事滞りなく進めますので

ご安心ください」


その言葉に、園長はわずかに頷き――

「すまんな。よろしく頼む」


ほんの僅か、だが確かな礼として頭を下げた。


「本来であれば、領内の民を守るのは領主の務め。

礼を申し上げるべきは、こちらの方です」

リオネルは静かに言葉を紡ぎ、そのまま深く頭を下げた。


「フェルナ領の守りまで担っていただき

さらには避難民の件まで……

すべてをお任せする形となってしまいました。

これは私の至らなさゆえ。申し訳なく思っております」


「気にするな」

園長は淡々と返す。


「こちらは被害らしい被害もなかった。

荷車の手配を早急に頼む、それだけで十分だ」


一拍置き、立ち上がり部屋から出て行った。


ーーーー


園長が外へ出ると、魔獣園の荷車が並ぶ停車場に

クルツとアレンの姿があった。

二人はすでに待機していたらしく

すぐに気づいて歩み寄る。


「園長。お疲れ様です。

リオネル様とのお話は終わりましたか」

クルツが静かに問いかけた。


「大した話はしておらん」

園長は肩を竦めるように答える。

「アレンがすでに荷車の手配を頼んでいる。念を押しただけだ」


そう言って視線をアレンへ向けた。


「アレン、ご苦労だった。それで、帰村の調整はどうなっている」


「はい」

アレンは一歩前に出て答える。

「リム村の方々には後回しで了承をいただきました。

先にコルン村とランナ村から――お年寄り、子供、女性を

優先して帰村してもらう予定です」


「リム村だけ後か……」

園長はわずかに眉を寄せる。

「すまんな。親父さんに、よろしく伝えておいてくれ」


「はい」

アレンは頷き、続ける。

「それと、病人や子供だけを先に帰すわけにはいきませんので

家族構成も考慮する必要があります。細かい振り分けについては

ベルモット医院長と相談しながら進めます」


その言葉に、園長は静かに頷いた。


ベルモット、クルツ、アレン、ロルフは

帰村予定となった二つの村の避難民が

身を寄せる兵舎を回り、聞き取りを始めた。


一人ひとりの体調や家族構成を確認しながら

帰れる者、残るべき者を丁寧に振り分けていく。

病人や子供には必ず付き添いをつけるよう配慮し

無理のない形で調整が進められた。


やがて――帰村する面々が、ようやくまとまる。


「……やっとできましたね。これなら昼食後には出発できそうです」

アレンが安堵の息をつきながら言った。


「ああ、よくやったな、アレン」

クルツが素直に労う。


「いえ、ロルフの名簿と、医院長

それにクルツさんがいてくれたからですよ。

俺一人じゃ到底無理でした」

アレンは首を振る。


「ロルフの名簿は確かに助かったな」

ベルモットが頷く。


「ぼ、僕は……アレンさんに言われた通り

書き留めていただけです」

ロルフは少し照れたように言った。


そのやり取りを見て、ベルモットが豪快に笑う。

「はっはっは、つまり全員よくやったってことだな」


張り詰めていた空気が、ようやく和らいだ。

第79話

魔獣の隊列と帰村の名簿

お読みいただきありがとうございます!


今回は、いよいよフェルナ領の街に到着した魔獣の

大隊列からスタートしました。


通行証を持たない園長が「ヴァルド様」と呼ばれて

衛兵の態度が一変するシーンや、神話級のカイチたちを

見て蜘蛛の子を散らすように逃げていく街の人々の反応など

一般の人々にとって「魔獣」がいかに恐れられている

存在なのかが改めて描写しました。


そして、領主リオネルと園長ヴァルドの兄弟による会談。

自分の至らなさを謝罪するリオネルと

それを「気にするな」と一蹴するヴァルドのやり取りに

二人の信頼関係と上に立つ者としての責任感を描きました。


後半は、アレン、クルツ、ベルモット、そしてロルフによる

完璧なチームワークでの名簿整理! みんなで協力して

一つの大きな仕事を成し遂げた安堵感が伝わってきました。


次回は、いよいよ昼食後、再び魔獣の大隊列の大移動です。


どうぞお楽しみに!


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