交差する想いと譲れない信念 第78話
やがて案内された応接間――
重厚な扉が静かに開かれ
アレンは一歩中へと足を踏み入れた。
部屋の奥には、落ち着いた佇まいで椅子に
腰掛ける領主リオネルの姿がある。
「よく来たな、アレン」
穏やかな声が響く。
「本日は、避難民の件だと聞いている」
「はい」
アレンは深く一礼し、顔を上げた。
「現在、こちらに避難している方々の
帰村を進めようと思っています。
魔獣園の方でも輸送の準備は整えていますが――」
一度言葉を区切り、まっすぐにリオネルを見据える。
「三つの村分となると、どうしても運搬手段が足りません」
静かながらも、はっきりとした口調だった。
「ヒッポスと荷車の数が不足しています。
つきましては、領主様のお力をお
借りできないかと思い参りました」
部屋に一瞬、静けさが落ちる。
リオネルは腕を組み、ゆっくりと目を閉じた。
「……三村分、か」
小さく呟き、思案する。
その横顔には、領主としての責任の重さが滲んでいた。
やがて――
「よかろう」
静かに、しかし力強く言い切る。
アレンは思わず顔を上げた。
「本来であれば、領内の民を守るのは我らの務めだ。
それをお前たちに頼りきりにしているのは
こちらの不手際でもある」
リオネルはまっすぐにアレンを見る。
「ヒッポスと荷車は、こちらで手配しよう。
必要な数を後ほど伝えよ」
「……ありがとうございます!」
アレンは深く頭を下げた。
その声には、はっきりとした安堵が込められている。
「ただし」
リオネルが一言付け加える。
「急な動員になる。多少の準備時間は必要だ。
それでもよいか」
「はい。こちらも調整しながら進めます」
即座に返すアレン。
リオネルは満足げに頷いた。
「よし。では話は早い。すぐに手配に移ろう」
そう言って立ち上がり、控えていた側近に指示を出す。
部屋の空気が一気に動き出した。
アレンはその様子を見ながら、胸の奥に溜まっていたものが
すっと軽くなるのを感じる。
――これで、帰れる。
避難していた人々が、ようやく自分たちの村へと戻れる
その第一歩が、今ここで確かに踏み出されたのだった。
ーーーー
アレンは領主の城から出て
避難民が宿泊する正規軍の兵舎に向かった。
「アレンじゃないか!久しぶりだな。
親父さんに会いに来たのか?」
背後からかけられた声に振り返ると
そこには見慣れた顔があった。
「……カイルか」
思わず表情が緩む。
幼い頃から馬鹿みたいに笑い合った相手だ。
「いや、父さんにも用はあるけど、領主様にお願いがあったんだ
……お前こそ、こんなところで何してるんだよ」
「何って、お前……ここは俺たち騎士団の持ち場だろうが」
呆れたように肩をすくめるカイル。その仕草も昔のままだ。
「……そりゃそうか」
アレンは苦笑しながら頷いた。
「領主様にお願いってなんなんだ」
カイルが闘技大会と関係があるのか気になって聞いた。
「三つの村の難民が帰れることになったんだが
運ぶ為のヒッポスと荷車が足らないから
お借りできないかお願いに来たんだ」
アレンが説明した。
「俺の家族も帰れるのか?」
カイルが言った。
「ああ、帰れると思うぞ。領主様がヒッポスと荷車を
手配してくれる事になったからな。魔獣園の
魔獣たちも荷車を引いてくれるから多分大丈夫だ」
アレンが説明した。
「えっ、魔獣が引くのか……危なくないのか?」
魔獣は危険と思っているカイルが心配して聞いた。
「大丈夫だよ。魔獣園には神話の魔獣もいるからな」
アレンが自慢げに言った。
「ふーん……」
どこか探るような視線。
しかしそれ以上は追及せず、カイルは軽く息を吐いた。
「まあいいや。せっかくだ、少し話そうぜ」
「ああ」
並んで歩き出す。兵舎の中は慌ただしく
人の行き来が絶えない。
ふと、アレンが思い出したように口を開いた。
「そういえばさ、騎士団の選抜
……もう決まってるんだよな」
その一言で、カイルの足がわずかに止まった。
「……ああ」
短い返事。
「どんな剣士なんだ?」
アレンが聞いた。
「なんでお前がそんな事聞くんだ。
魔獣に頼まれたのか?」
カイルが自分が聞きたいことを
先に聞かれて不満そうに言った。
「いや、そんなわけじゃないよ。
ただ少し気になっただけだよ……
気分を悪くしないでくれ」
アレンが謝った。
「俺も、その三人のうちの一人だ」
誇りを滲ませる声音だった。
「だが、仲間の剣士がどんな剣士かは
言うつもりはない。いくら幼馴染でもだ」
「やっぱお前なら選ばれるよな」
アレンが気まずそうに言った。
だが、その言葉にカイルはなぜか眉をひそめた。
「……なんだよ、その反応」
「いや、別に。純粋にすごいと思ってるだけだって」
カイルは少しだけ視線を逸らし、それから低く呟いた。
「……お前、選抜戦の魔獣……聞いてるんだろ」
その言葉に、アレンは「ああ」と小さく頷いた。
「聞いたよ」
「……それで?」
カイルの声が、ほんのわずかに硬くなる。
「それでって?」
「どう思ってるんだ」
真っ直ぐな視線だった。
騎士としての誇りと、揺るがない信念が宿っている。
アレンは少しだけ考えてから、肩の力を抜いて答えた。
「どうって……」
「魔獣が騎士団から闘技大会に参加することだよ」
カイルが熱くなって問い詰める。
「別に魔獣が出てもいいと思う。
お前にも勝って出て欲しいが――」
そこで一拍置き
「……あいつらにも、ちゃんと戦ってほしいと思ってる」
その言葉に、カイルの表情がわずかに歪んだ。
「……はぁ? 魔獣に勝って欲しいだと」
短く、乾いた笑い。
「相変わらずだな、お前は……
そういえば、アルクトス・ベアの時もそうだったな」
呆れとも、苛立ちとも取れる声。
「普通は騎士が出るべきだろ」
「そうか?でもこのフェルナ領を救ったのは
魔獣たちだぞ!それは紛れもない事実だ」
「それは、ほんとなのか?」
カイルが聞いた。
「ああ、そうだよ。
嘘と思うなら領主様に聞いてみるがいい」
言い切るアレン。
カイルがゆっくりとアレンに向き直る。
「俺たちは騎士だ。領主の名のもとに戦う」
「……ああ。魔獣もこの国の為に戦う」
「相手がなんであろうと、負けるわけにはいかない」
カイルの瞳には、一切の迷いがなかった。
アレンはその視線を受け止めながら、ふっと笑う。
「だろうな……」
「……なんだよ」
「いや、安心しただけだよ」
「は?」
「ちゃんと“カイルのまま”で」
一瞬、言葉に詰まるカイル。
だがすぐに顔をしかめた。
「気持ち悪いこと言うな」
「ひでぇな」
軽口を交わしながらも
空気はどこか張り詰めている。
やがてカイルが、小さく息を吐いた。
「魔獣が俺の村を救ってくれたのか……」
「ああーそうだ。俺たちの村を救ってくれたんだ」
アレンがきっぱりと言った。
第78話
交差する想いと譲れない
お読みいただきありがとうございます!
今回は、アレンの成長と信念が強く
表れるエピソードになりました。
領主様との直談判を無事に成功させ
魔獣園と領主側の協力により
避難民の帰村がいよいよ現実のものとなります。
そして後半は、幼馴染である騎士カイルとの再会。
騎士団の代表に選ばれた誇り高きカイルと
魔獣たちが体を張って村を救う姿を間近で
見てきたアレン。
お互いの信念が真っ直ぐにぶつかり合うこのシーンは
個人的にも会心の出来になったと感じています。
圧倒的な実力を持つニコに対して
カイルたち騎士団は誰がどの順番で立ち向かうのか
……オーダー次第で命運が大きく分かれる選抜戦の
対戦カードも、どうぞ楽しみにしていてください。
次回からは、いよいよ避難民たちの帰村が始まります。
引き続きよろしくお願いいたします!
【お知らせ】
誠に勝手ながら、明日の更新はお休みさせていただきます。
明後日以降、また続きをお届けしますので
引き続きよろしくお願いいたします!




