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不器用な恩返しと三連荷車 第76話

朝食後――ヒッポスの厩舎。


その中でもひときわ大きな一角へ

ニコは何度も足を運んでは引き返していた。

カイチの厩舎の前で、入る勇気が出ずに

うろうろと行き来している。


そんな様子を見かねて、隣の厩舎にいたアンズーが声をかけた。

「ニコ。さっきから何してるんだ?」


「あっ、アンズーさん……」

ニコはびくりと肩を揺らし、気まずそうに振り返る。


「その……避難民の帰村が始まるんです。

それで、カイチさんに荷車を

引いてもらえないかと思ってるんですが……」


言葉はそこで尻すぼみになる。

「……言いづらくて」


正直な本音だった。


アンズーは一瞬だけ間を置くと、やれやれと肩をすくめた。

「だったら、俺が引いてやってもいいぞ」


「えっ……本当ですか?」

ぱっと顔を上げるニコ。


「ありがとうございます、アンズーさん!」


深く頭を下げるその姿に、アンズーは軽く手を振った。

「気にすんな。あいつに頼むより話は早い――」


「騒がしいのぅ……何の話だ」

低く響く声が、厩舎の奥から割り込んだ。


ゆっくりと身体を起こしながら、カイチが姿を現す。


「カ、カイチさん!? 起きてたんですか……」

ニコが目を丸くする。


「目が覚めたら、外でごそごそやっておるからな」

まだ眠そうに目を細めながら、カイチは大きくあくびをした。


「す、すみません……起こしてしまって」

ニコが慌てて頭を下げる。


「構わん」

短く言い、カイチは二人を見下ろした。


そして――ほんの一瞬だけ視線を逸らし。

「……その、難民の件ならばな」


言葉を探すように、少し間を置く。


「我が……引いてやってもよいぞ」

ぽつり、と。どこか照れくさそうに

しかしはっきりと告げた。


「えっ……いいんですか?」

「えっ……いいのか……?」

ニコとアンズーの声が、同時に重なる。


カイチはふんと鼻を鳴らし、そっぽを向いた。

「勘違いするな。ただ……世話になった分くらいは

返してやろうと思っただけだ」


その耳の先が、わずかに赤くなっているのを――

ニコは見逃さなかった。


「……ありがとうございます、カイチさん」

今度は迷いのない声で、深く頭を下げる。


アンズーはその様子を見て、にやりと口元を歪めた。

「素直じゃねぇな、お前」


「うるさい。お前は長距離は苦手だろうが

ニコ。獅子は長距離は苦手なんだ、アンズーは

荷車は勘弁してやってくれ」

即座に言い返し、不器用ながらアンズーを気遣うカイチ。

だがその声には、どこか身内を慮る柔らかさが混じっていた。


「バレてたか……空なら得意だから運ばせてくれ

大勢は運べんが少しずつでもいいなら運ぶぞ」

アンズーが図星を突かれ、少し恥ずかしそうに言った。


「……アンズーさん……ありがとうございます」

ニコがアンズーの優しさに心から感謝して言った。


こうして――

予想外にあっさりと、神話級二体の協力が取り付けられたのだった。


ニコは胸をなで下ろしながらも、ふと一つ思う。

(……これ、後でとんでもないお願いとか、されないよな……?)


ほんの少しだけ浮かんだ不安を振り払うように

ニコは空を見上げた。


ーーーー


「クルツさん。カイチさんにお願いしてきましたよ」

ニコが弾むような足取りで戻り、嬉しいそうに報告した。


「おお、すまんな。迷惑をかけたな」

クルツは振り返り、ニコの顔を見るなりふっと表情を緩める。


「――どうやら、うまくいったみたいだな」


「あれ? なんでわかったんですか?」

ニコがきょとんと首を傾げる。


「はははっ、そりゃあな」

クルツは軽く笑い、顎でニコを指した。

「そんなにわかりやすく顔に出ていれば、嫌でもわかるさ」


「えっ……そんなに出てました?」

ニコは慌てて自分の頬に手を当てる。


クルツはどこか嬉しそうに頷いた。


「そうか……引き受けてくれたんだな」

その一言に、安堵が滲んでいた


「カイチさんが、荷車を大きくすれば

大勢運べるって言ってましたよ」

ニコが思い出したように、カイチの提案をそのまま伝える。


「大きくする、か……」

クルツは腕を組み、少し考え込むように視線を落とした。


「とはいえな……ヴォルンさんも今は防具の製作で手一杯だろうし

すぐに新しく作るのは厳しいかもしれん」

難しい顔のまま、ゆっくりと首を振る。


その様子を見て、ニコが少しだけ身を乗り出した。

「それなら、荷車をつなげるのはどうですか?」


「つなげる?」

クルツが眉をひそめる。


「どうやってだ?」


ニコはしゃがみ込み、近くの地面に指で線を引いた。

「こんな感じです。前の荷車の後ろに

次の荷車をつないで……三台くらい連結するんです」


簡単な図だが、まるで列をなすような形が描かれていく。


「ああ……なるほどな」

クルツの表情が少し明るくなる。


「そういうふうにつなげるのか」

顎に手を当て、改めて図を見つめる。


「それくらいの細工なら……ヴォルンさんに頼らなくても

俺たちでどうにかできそうだな」

現実的な案だと判断したのか、小さく頷いた。


「はい。数を増やせば、一度に運べる人数も増えますし」

ニコも手応えを感じたように、少し誇らしげに言った。


クルツはその様子を見て、ふっと笑う。

「カイチの力なら問題ないだろうし

いい案だ。すぐに準備に取りかかろう」


クルツは袖をまくり

近くに置かれていた荷車へと歩み寄った。

「よし、とりあえずやってみるか。連結用の縄か金具があれば――」


「この辺りに使えそうなもの、探してみます」

ニコもすぐに動き出し、倉庫の方へと駆けていく。


しばらくして

太めのロープや古い留め具を抱えて戻ってきた。

「これなら、なんとかいけそうです」


「いいな。まずは一台目と二台目を固定してみるか」

クルツが荷車の後部にしゃがみ込み、取り付け位置を確認する。


ニコも隣に並び、ロープの通し方を考えながら手を動かし始めた。

「ここをこう通して……引いた時に外れないように――」


「少し余裕を持たせた方が、段差で壊れにくいかもしれませんね」


二人で試行錯誤しながら、少しずつ形にしていく。


その時――

「なるほど、連結ですか。面白いことを考えましたね」

聞き慣れた声が背後からかかった。


「アレン!」

ニコが振り返る。


アレンは興味深そうに荷車を覗き込み

地面に描かれた図と実物を見比べた。


「避難民の帰村用ですよね」


「ああ。数が足りなくてな

こうして繋げて運ぼうって話になった」

クルツが手を止めずに答える。


「それなら――少し工夫した方がいいですね」

アレンはしゃがみ込み、ロープの結び目を指でつまんだ。


「このままだと、引いた時に左右に振られて不安定になります。

簡単な横止めも入れましょう」


「横止め?」


「ええ。こうして……」

アレンは手際よくロープを追加で回し

左右の揺れを抑えるように結び直す。


「おお……さっきよりしっかりしてるな」

クルツが感心したように頷く。


「応急処置ですが、これでだいぶ安定するはずです。

あと、連結部分は二重にしておいた方が安心ですね」


「さすがアレンさん……工作は……得意そうですね」

ニコが感嘆の声を漏らす。


「料理は苦手だがな…おい。何を言わせる」

アレンがぼやく。


「素直に褒めてるだけですよ」

ニコがとぼける。


「これくらいなら大丈夫だろう。

人を運ぶとなると、安全第一ですから」

そう言って、アレンは次の荷車へと手を伸ばした。


「三台連結でしたよね? 手分けしてやりましょう」


「助かる」

クルツが短く答え、再び作業に集中する。


ニコも二人に続き、ロープを握り直した。


三人の手が加わり、荷車は次第に“列”としての形を整えていく。


軋む木の音と、ロープを引く音が厩舎に響く中――


帰村のための準備は、確かな現実として動き出していた。


第76話をお読みいただきありがとうございます!


今回は、ニコにとって一番の胃痛の種であった

「神話級への荷馬車引きのお願い」の顛末からスタートしました。

親分風を吹かせつつも、実は人間の世話になったことを

気にかけて自ら引受けてくれたカイチ。

そして、長距離が苦手なアンズーを庇う優しさ

……彼らの不器用な「デレ」に、ニコと一緒に胸を

撫で下ろした方も多いのではないでしょうか。


後半は、神話級のパワーを活かすための「連結荷車」作り!

ニコのひらめきから始まり、クルツ先輩と試行錯誤し

最後は手先の器用な(料理は苦手ですが)アレンが完璧に

補強していくという、男三人でのDIY作業が

魔獣園らしくてとても微笑ましいシーンでした。


次回は、いよいよ完成した連結馬車

(カイチ牽引仕様!)の出番です。どうぞお楽しみに!


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