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お疲れ魔獣とふわふわ雑炊 第74話

「あれ、何か飛んできてますね」

ニーナが遠くの空に目をやり、ふと気づいて言った。


「アンズーではないですか」

ニコが目を細めて影の形を確認し、言った。


「カイチを運んでるみたいですね」

ニーナが信じられない光景に目を丸くして言った。


「なんで、カイチを運んでいるんだ?」

ガルドが、神話級同士の奇妙な姿に驚き言った。


「北で怪我でもしたのか?」

クレイグが心配そうに眉をひそめて言った。


「アンズー、なんでふらふら飛んでいるんだ」

やってきたクルツが、その重そうな飛び方を見て不思議そうに言った。


「クルツさん。園長の話は終わったんですか?」

ニコが振り返り、合流した先輩に聞いた。


「ああー終わったぞ。えっ、運んでるのはカイチじゃないか!

北の地で何かあったのか?」

再びクルツが空を見上げ、ぶら下がっている

カイチの存在に気づいて慌てて言った。


アンズーが副庭上空でピタリと停止し、ゆっくりと下降した。

カイチを丁寧に地上へ下ろしてから、自身もドスンと着地した。


「カイチさん。大丈夫ですか?」

ニコが慌てて駆け寄り、心配そうに聞いた。


「我は全くもって大丈夫だ」

カイチが何事もなかったように、堂々と言った。


「アンズーさん。北の地で何があったんですか?」

ニコが息を切らしているアンズーにも確認した。


「ただ疲れただけの裁きの親分を、俺が空から運ばされただけだ……」

アンズーが心底ウンザリし、呆れたように言った。


「ニコ。一体どういうことだ?」

状況が飲み込めないクルツが、困惑して聞いた。


「カイチさんが、ただ親分風を吹かしただけのようですよ」

カイチの性格をよく知るルーナが、困った顔で先に答えた。


「ええ……そのようですよ……」

ニコが脱力し、やれやれと肩を落として言った。


「アンズーさん。重かったでしょうに、ごめんなさいね」

ルーナが苦労を労い、カイチの代わりに優しく謝った。


「ニコ。早朝訓練はもういいのか?」

クルツが一息ついた様子で、ニコに聞いた。


「丁度終わりにしようと思ったとこです」

ニコが木剣を下ろし、ほっとしたように言った。


「ニコさん。もう一回だけやりましょうよ〜」

まだまだ戦い足りないアカネが、ねだるように言った。


「アカネさん。ダメですよ、もう朝食の時間ですし

サンさんの手伝いもしないといけないでしょ」

ルーナがお姉さんのように、優しくたしなめるように言った。


「はい……」

アカネがしゅんとして、ひどく残念そうに返事をした。


ニコが(助かりました)と

ルーナに軽く頭を下げて密かに感謝を示した。


「朝食にするか!」

ガルドが腹を鳴らし

待ちきれないといった様子で嬉しそうに言った。


ーーーー


「さあアカネさん。戻りましょう」

ルーナが名残惜しそうなアカネの腕を引き

厨房へ小走りで向かって行った。


「ニコ。実は、折り入ってお願いがあるんだ。

食事をしながらでいいから聞いてくれるか」

クルツが言いにくそうに、渋い顔をしながら言った。


「はい。いいですよ、さっきの園長の話と関係が

あるんですよね?」

ニコがクルツの様子から察して、静かに言った。


「ああー、まあ……そんなところだ……」

クルツが気まずそうに、ポリポリと頭を掻きながら言った。


「アカネ、ルーナ。丁度いいところに帰って来たね

そこにある冷やご飯を、サッと水洗いして小鍋に

分けてくれるか」

厨房を仕切るサンが、手際よく指示をした。


「はい。わかりました!」

ルーナがエプロンを着けながら、嬉しそうに返事をした。


「母さん。今日の朝ごはんは、なんですか?」

すっかりお腹の空いたアカネが、期待を込めて聞いた。


「今日は『旨みたっぷり雑炊』だよ

この前の鴨鍋の絶品残り汁を、凍らせておいたからな

それを使うからね、楽しみにしてな」

サンがお玉を片手に、自信たっぷりに言った。


「ロルフは、そっちのネギを刻んでちょうだい」

サンが隣のロルフにも指示をした。


「はい」

ロルフが包丁を握り、手短に返事をした。


「ルーナ。そっちのご飯の準備が終わったら

仕上げの海苔を刻んでちょうだい」

サンが調理用のハサミを取り出し、手際よく言った。


「ロルフ。たまごの準備はいいか?」

サンが隣の様子をチラリと見て確認した。


「はい、大丈夫です」

ロルフがボウルを片手に、力強く言った。


「アカネは白菜の古漬けの盛り付けは終わったか?」

サンが声をかける。


「終わったよ!」

アカネが小皿を綺麗に並べて、元気よく言った。


サンが厨房の最終確認をして、食堂に響くよう通る声で言った。

「みんなー準備出来たから並んでおくれ!」


お腹を空かせた魔獣園の面々が、ぞろぞろとカウンターに並び始める。


「よし。ルーナ、鍋を火にかけてくれるかい」

サンが次の指示を出して言った。


「はい」

ルーナがコンロに、人数分の小鍋を次々と並べてかけていった。


サンがそれぞれの小鍋に

グツグツと沸かした黄金色の鴨汁を加えて言った。

「ロルフ。溶き卵は、火を止める直前に回し入れるんだよ。

卵を入れたら、すぐにかき混ぜたらダメだよ。

蓋をして余熱で1分ほど蒸らすと、卵が固まりすぎず

ふわふわとした食感になるからね。頼んだよ」


「はい。わかりました」

ロルフが真剣な顔で頷き、言った。


ニーナが鮮やかに刻んだネギと海苔を散らし、ついに完成した。

ロルフが出来上がった熱々の鍋をトレイに乗せ、

アカネが自家製の白菜の漬物を添えてカウンターに出した。


みんなが並んだ順に受け取り

テーブルに着いて幸せそうに食べ始める。


「うまい! 鴨の出汁が最高に効いてるな」

ガルドが熱々の雑炊を頬張りながら、幸せそうに言った。


「ああ、卵もふわふわで体に染み渡るな」

クレイグもふーふーと息を吹きかけながら

深く頷いて同意した。


「サンさんの料理はいつも本当に美味しいですね」

ニコがスプーンで汁を掬い、ほっとした表情で言った。


「そうだな。お前たち、おかわりもあるらしいぞ」

クルツがニコの向かいで、美味しそうに食べながら言った。


その時、食堂の扉が開いて園長が遅れて入ってきた。


「園長。おはようございます」

ニコたちが一斉に立ち上がり、姿勢を正して挨拶をした。


「よいよい、挨拶はいいから座りなさい。

温かいうちにしっかり食べなさい」

園長が手で制し、みんなの様子を見て温かく微笑んで言った。


「はい。いただきます」

ニコたちが再び席につき、食事を再開した。


「ふぅ、なんとか帰村の段取りがまとまりそうですね」

避難民の打ち合わせを終えたアレンが

食堂に入って来ながら言った。


「ああ、あとは領主様から借りる荷車の数次第だがな」

ベルモットがアレンの隣で

手元の資料を確認しながら同意した。


「ベルモットさん、朝からご迷惑をお掛けします。

アレン、丁度いいところに来たな」

クルツが二人を見つけて、声をかけた。


「厨房から凄くいい匂いがするね。今日は雑炊なんだな」

ベルモットが空腹に耐えかねたように

急いでカウンターへ向かった。


アレンもベルモットの後に続いた。


二人がテーブルに戻り食べ始めた頃に

アレンがクルツに尋ねた。

「クルツさん。荷車の件はどうなりましたか?」


「どうって……今からお願いするところだ……」

クルツが苦し紛れにぼそっと言った。


ニコが耳をピクリと動かしたが

聞こえなかったようにそっぽを向いた。


「ニコ。お願いというのは避難民の帰村の件なんだが

おそらく荷車を引くヒッポスが足りないと思うんだ

カイチとアンズーにまたお願いしてもらえないか」

クルツが申し訳なさそうに頭を下げて言った。


「またですか……クルツさんも見たと思いますが

伝えはしますが今日の感じでは、素直に従うとは

思えませんよ」

ニコが核心を突いた意見をため息まじりに言った。


「わかっている。申し訳ないが、お願いだけよろしく頼む」

クルツが両手を合わせて必死に言った。


「はぁ……わかりました。食事が終わったら

二体のところへ行って聞いてみますよ」

ニコが深い溜め息をつきながら了承した。


「すまん! 本当に助かる!」

クルツがパッと表情を明るくして感謝した。


「ニコも大変だな……」

ガルドが同情するように苦笑いして言った。


「神話級の機嫌を取れるのは、お前しかいないからな」

クレイグも慰めるように頷いて言った。


温かい雑炊の湯気と、賑やかな笑い声に包まれる食堂。

だがニコは、これから機嫌の悪い神話級を

どう説得するかで頭がいっぱいになっていた。


こうして、魔獣園に再び賑やかで

頭の痛い日常が戻ってきたのだった。

第74話

お疲れ魔獣とふわふわ雑炊

お読みいただきありがとうございます!


今回は、ニコとアカネの熱い早朝特訓からスタートしました。

ニーナのアドバイスで急成長し、ニコから瞬間移動を

引き出したアカネの姿にこれからのさらなる活躍の予感を

感じていただけたのではないでしょうか。


そして空からは、アンズーに運ばれるカイチという

神話級の珍客(?)も登場し、魔獣園にいつもの

騒がしい日常が帰ってきました。


サンさん特製の絶品「鴨出汁のふわふわ卵雑炊」で

ほっこりしたのも束の間

……ニコには再び「機嫌の悪い神話級への

荷馬車引きのお願い」という

胃の痛くなるようなミッションが待っています(笑)。


果たしてニコは無事に二体を説得できるのか!?

次回もどうぞお楽しみに!


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