成長と絆。 第72話
「リシェル。もう帰ってもいいんじゃないか」
熱い闘技の余韻が落ち着いた頃、ドラコニクスがふふと聞いた。
「もう少しのんびりしたいところですが
ギルドも心配なので、帰るとしますか」
リシェルが苦笑いを浮かべながら同意した。
「グレイヴのやつもそろそろ音を上げとる頃じゃろうしな」
留守を任せたギルド長の顔を思い浮かべ、バルドレインが言った。
「あやつは事務処理が苦手だからな〜
周りの者に迷惑かけとるんじゃないか」
ガルディアスが豪快に笑いながら言った。
「今まで人を頼ってばかりでしたので
いいお薬になったんではないですかね」
リシェルが、どこか楽しげな笑顔で言った。
「おまえ。それも目的だったのか?」
バルドレインがやれやれという感じにため息をついて言った。
「それはたまたまですよ。働き詰めだったので
休養が欲しかっただけですよ」
リシェルが涼しい顔でしれっと言った。
「まあ〜そういうことにしとこう」
バルドレインが呆れ半分で言った。
ギルド秘書であるリシェルの同意で
激動の三日間の特訓が終わりを告げた。
一方、副庭の片隅では。
「俺の三勝二敗だな。認めてやるよお前の強さを」
息を切らした七十階層主フレアディオが
満足げにアカネに向かって言った。
「くそっ、あと一歩なんだが……!」
アカネが悔しそうに言った。
「ヴァルド殿。やっと帰れる事になった
お世話になったな、また何かあれば言ってくれ
できる限りの協力は約束する」
ドラコニクスが力強く頷き、感謝の言葉を言った。
「こちらこそ。特訓までして頂き
本当にありがとうございました」
園長が深く頭を下げて言った。
「みんな。見送るぞ、整列してくれ」
園長が凛とした声で指示した。
「はい!」
魔獣園のみんなが元気よく返事をし並び始めた。
クルツとアレンが素早く列を整え綺麗に
並び終えた。
向かい合うように、ドラコニクスの指示で
ラビリオスの面々も整列した。
「この度の御助力、心より感謝致します。
訓練まで手伝って頂きありがとうございます」
園長が全員を代表し、改めて感謝の気持ちを伝えた。
「ありがとうございました!」
クルツとアレンが声を張って言った。
「ありがとうございました!!」
魔獣園全員が一斉に深く頭を下げ
感謝の言葉を言った。
「ドラコニクス殿。親父たちによろしく言ってくれ」
ヴォルンがどこか懐かしそうに言った。
「おまえは故郷へ帰らなくていいのか?」
ドラコニクスが静かに聞いた。
「ここには命を助けてもらった恩がある。
恩を返さず故郷に帰るわけにはいかん」
ヴォルンが迷いのない声できっぱり言った。
「そうか、立派に元気でやっていると伝えておく」
ドラコニクスが優しく微笑んで言った。
「ありがとうございます。偉大なる蒼炎王」
ヴォルンが深い感謝と敬意を込めて言った。
「アカネさんはどうするんですか?」
リシェルがふと気になったように聞いた。
「私はここで特訓を兼ねてもう少し居ようと思うので
私のパーティメンバーに伝えてもらっていいですか」
アカネが清々しい笑顔で言った。
「ニコ。カイチとアンズーにお客様を
北の門まで運んでくれるよう頼んでくれ」
園長が振り返って言った。
「はい。わかりました」
ニコが素直に了承し、カイチのいる厩舎へと向かった。
「カイチさん。ラビリオスの方たちを北の門まで
送り届けて欲しいみたいですよ」
ニコが厩舎を覗き込みながら伝えた。
「あれ? アンズーさんもここにいたんですか」
ニコがカイチの隣の大きな部屋でくつろぐアンズーを見て言った。
「そいつはいつのまにか、ここに居座っているんだ」
カイチが露骨に嫌そうな顔をして言った。
「今は北の監視も必要ないだろ……
別に俺がどこに居ようが勝手だろうが」
アンズーが面倒くさそうに言い返した。
「まあまあーお二方、喧嘩しないでください」
ニコが慌てて二体の間に割って入り仲裁した。
「さあ、お二方行きましょう」
ニコが苦笑いしながら言った。
二体は「やれやれ」と重い腰を上げてついていく。
「あやつら、俺らをヒッポスか何かと勘違いしてるんではないか?」
カイチが不満げに顔を顰めて言った。
「確かに最近はほとんどが、人を運ぶことしかしとらんぞ」
アンズーも大きく翼を揺らしながら同意した。
「変な時だけ同調するのやめてください。
神話級の力がどうしても必要とされてるだけですよ」
ニコがおだてるように、苦し紛れに言った。
「カイチ、アンズー。悪いがよろしく頼む」
園長が申し訳なさそうに、不機嫌な二体に言った。
それぞれが背に乗り、出発の準備が整った。
蒼炎王フレイム・ドラコニクス
不死の炎竜イグニヴァル
蒼空の覇鳥アンズー
三体の神話級が北門に向かって一斉に飛び立った。
クルツが、一斉に飛び立つ神々しいさまに目を奪われ呟いた。
「圧巻だなぁ~」
「ええ……一生見ることのない光景ですね」
アレンが空を見上げ、目を輝かせながら言った。
魔獣園のみんなが、空を覆う巨大な翼を見上げて呆然と立っていた。
裁きの魔獣カイチもまた、悠然と大地を走り始めた。
神話の魔獣らしく優雅で安定した足運びは
乗る者に全く揺れを感じさせず、ただ心地よい風だけを運んでいく。
「ニコ。神話のドラゴンとよく引き分けたな」
ゴリムがドラゴンを見送りながら
ニコの規格外の成長に驚愕して言った。
「あれは引き分けではないですよ。実戦なら僕は完全に死んでますよ
僕の攻撃ではドラコニクスさんに致命傷を負わせることは
絶対に出来ないと思うので。ましてやドラゴンの姿になれば
手も足も出ませんよ」
見送る空から視線を戻し、園長が大きく頷いた。
「さて、我々も大会に向けて気を引き締めるぞ」
こうして、波乱と熱狂に満ちた三日間の合同特訓は
魔獣園に確かな成長と絆を残し、静かに幕を閉じたのだった。
第72話
成長と絆。
お読みいただきありがとうございます!
激闘に次ぐ激闘だった三日間の合同特訓が
ついに終わりを迎えました。
ギルドで泣きながら事務処理をしているであろう
グレイヴを置いて、しれっと「休養」を満喫していた
リシェルの腹黒さや、七十階層主から二勝をもぎ取った
アカネの成長など、特訓の裏側のエピソードを
楽しんでいただけたら嬉しいです。
そして、ラビリオス組との別れのシーン。
「蒼炎王」「不死の炎竜」「蒼空の覇鳥」という
神話級の魔獣たちが一斉に飛び立つ光景は
圧巻の一言に尽きます。
一方で、そんな凄い魔獣であるカイチやアンズーが
「最近、移動係ばかりやらされている」と愚痴をこぼす
ドタバタ劇も魔獣園ならではですね。
神話の竜と引き分けたにもかかわらず
その底知れなさを理解して決して驕らないニコ。
特訓を経て確かな成長と絆を得た魔獣園の
メンバーたちは、いよいよ闘技大会出場権を
かけた戦いに向けて本格的に動き出します。
次回からの新展開も、どうぞお楽しみに!




