感謝の朝と誇り高き騎士 第67話
「わかりました。兄さん、まずはその三体を
ここへ連れて来てください」
リオネルが領主としての真剣な顔つきに戻り
まっすぐに兄を見据えて言った。
「ああ、当然そのつもりだ」
ヴァルドが自信ありげに深く頷く。
「我がフェルナ領にも、すでに今回の武闘大会に
参加を予定している優秀な者がいます。
彼らと手合わせをして見事勝つことができたら
……その三体に『騎士団』の肩書きを与え
大会への参加を正式に許可しましょう」
リオネルが、為政者としての正当な条件を提示した。
「実力主義というわけか。それは仕方ないだろうな……。
領ごとの騎士団からの出場枠は、確か三名までのはずだからな。
枠を奪う以上、力で証明するしかない」
ヴァルドも、弟の出した条件が理にかなっていると素直に受け入れる。
「ええ。武闘大会での成績は
そのまま我がフェルナ領騎士団の価値と威信を決定づけます。
いくら兄さんの頼みとはいえ、彼らに負けるような者を
代表として参加させるわけにはいきませんからね」
リオネルが、一切の妥協を許さない厳しい視線で告げる。
「ふっ、言うようになったな。……対戦は1ヶ月後でルールは
本番の大会と同じく『真剣勝負』でいいか?」
頼もしい弟の姿にヴァルドがわずかに口角を上げ、最終確認をした。
「はい。それで構いません。……お手並み拝見といきましょう」
リオネルが静かに了承し、兄の連れてくる
「規格外の魔獣たち」と自領の誇る騎士たちとの御前試合に
静かな闘志と期待を込めた。
「兄さん。今日は泊まっていきますよね」
リオネルが言った。
「仲間を待たせているからな……」
ヴァルドが言った。
「神話の魔獣殿の寝場所も提供しますよ
リム村の村長の息子さんも家族と一晩くらいは
過ごさせてあげた方が良いのでは」
リオネルが提案した。
「……そうだな……よろしく頼む」
ヴァルドが言った。
ーーーー
出発の身支度を整えると
ヴァルドは弟である領主のリオネルに向き直って口を開いた。
「リオネル。色々と世話になったな。……王都への報告は頼むぞ」
「はい、分かっております。
こちらで上手く伝えておきますのでどうかご安心下さい」
リオネルが頼もしく頷いて請け負う。
そこへ、傍らに控えていたアレンが一歩前に出て声をかけた。
「園長。私の父が、直接お礼を言いたいらしいんです。
すぐに呼んで来ますので、少し待ってもらっていいですか?」
「ああ、分かった」
園長は足を止め、短く頷いて返す。
ふと、園長は城の正面広場にずらりと整列している
見送りの面々へと視線を巡らせた。
「しかしリオネル。いくらなんでも、騎士団まで総出で見送りとは大袈裟だぞ」
少し気恥ずかしそうに苦笑する兄に対し
リオネルは一切の妥協を見せず、きっぱりと言い切った。
「この国を救ってくれた英雄に最大限の礼を尽くすのは
騎士として当たり前のことです」
その言葉の通り、背後に並ぶ騎士たちも深い敬意を込め
一糸乱れぬ姿勢で静かに立っていた。
やがて、避難民たちが滞在している建物から
ゆっくりと出て来るハロルドの姿を見つけると
園長は待つことなく自ら歩み寄って声をかけた。
「村長。随分と心配をかけたな。無事に討伐出来たから
どうか安心して村に帰ってくれ」
「ヴァルド様……。この度は我々村民に対する温かいご配慮
深く感謝致します。そして何より、我々の村を守って頂き
まことにありがとうございます」
息子の無事と故郷の無事を噛み締めるように
ハロルドは感極まった様子で深く、深々と頭を下げた。
「避難した三つの村を代表し、心より感謝申し上げます」
深々と頭を下げる村長ハロルドに対し
園長は優しく微笑んでその肩に手を置いた。
「我々にとっても、当たり前のことをしたまでだ。
どうか頭を上げてくれ」
そのやり取りの傍らで、アレンは避難した村の村長たちと共に
並んで立っているオスロの姿を見つけ、弾かれたように駆け寄った。
「オスロ! 村の皆のことをお前一人に任せきりにして、本当にすまなかった。
上手くまとめてくれてたみたいだな……お前がいてくれて
本当に助かった。心から感謝してる!」
アレンは頼れる仲間であるオスロに向かって、深々と頭を下げて礼を言った。
「アレン、頭を上げて下さい。僕は大した事はしていませんよ。
……皆さんがこうして無事に帰って来てくれたことに
ただ安心しました。本当によかったです……」
オスロは安堵の笑みを浮かべながら、少し震える声で答える。
村長たちを労い終えた園長もまた、オスロの方へと歩み寄り
その肩に優しく手を置いた。
「オスロ。よく裏方を守り抜いてくれたな。心から感謝する」
「園長……っ。ぼ、僕は……皆さんがもし、帰って来なかったらと
……不安で、仕方なかったです……っ」
園長の温かいその一言に、これまで必死に張り詰めていた
緊張の糸がふっと切れたのだろう。
オスロの目からは堪えきれずに大粒の涙が溢れ出し
彼はしゃくり上げながら必死に想いを口にした。
そんなオスロの肩をアレンが力強く抱き寄せ
園長もまた目を細めて静かに頷き返す。ひとしきり無事を喜び合い
オスロの涙が落ち着くのを見計らってから
園長は改めてアレンに視線を向けた。
「アレン。そろそろ出発する、カイチを呼んで来てくれ」
「はい。わかりました」
アレンは短く返事をすると、急ぎ足で城の訓練場へと向かった。
そこには、昨夜カイチのために急遽作られた大きな寝床がある。
丸くなって眠る神話の魔獣に近づき、アレンが優しくその頭を撫でると
カイチは心地よさそうにゆっくりと目を開けた。
「ふぁぁ……うおぉ〜」
カイチが大きく口を開け、長い胴体を伸ばしながら盛大なあくびをする。
「おはよう、カイチ。さあ……俺たちの家に帰ろう」
アレンが優しく微笑みかけると、カイチはのっそりと起き上がり
主たちの待つ正面広場に向かって歩き出した。
やがて正面広場にその神々しい姿が現れると
待っていた園長が労うように声をかけた。
「おお、カイチ。ゆっくり休めたか? すまんな、帰りもまた頼むぞ」
その言葉に応えるように、カイチは静かに前足を折り曲げ
体を沈み込ませて『乗れ』と合図を送った。
広い背中に二人が跨ると、園長とアレンは
ズラリと並ぶ見送りの面々に向かって軽く手を上げ
別れの挨拶を交わしながら城の門へと向かう。
そして堅牢な門をくぐり抜けると
カイチは徐々にそのスピードを上げ
朝の澄んだ空気の中を、待つ人のいる故郷へ
向かって颯爽と駆け抜けていった。
遠ざかるカイチの背中とヴァルドたちを最後まで見送った後
リオネルは静かに振り返り、正面広場に整列したままの
騎士団へと鋭い目を向けた。
「ヴァンデル隊長。今年の闘技大会の参加者は、すでに決めているか?」
領主としての威厳ある声で確認する。
「はい。領主様のご指示通り、確実に上位へ食い込み
良い結果を出せる精鋭を選抜しております」
隊長であるヴァンデルが胸を張り
揺るぎない自信を滲ませてはっきりと返答した。
「そうか、それは頼もしいな。
……実は今回、兄上が三名の候補者の参加を願い出ている。
そこで、そちらで選抜した候補と直接戦わせ
実力で出場枠を決めることになった」
リオネルの言葉に騎士たちが僅かにざわめく中
彼はさらに厳しい視線で発破をかけた。
「しっかり指導し、我がフェルナ領騎士団としての
誇りと力を示してくれ。いいな」
だが、ヴァンデル隊長は困惑したように眉をひそめた。
「領主様……それは。選抜した三名には
すでに大会出場が内定済みだと伝えてしまっております。
彼らの志気にも関わりますゆえ、誠に申し訳ありませんが
ヴァルド様にはご遠慮いただくわけにはいかないのでしょうか?」
それは、理不尽に枠を奪われかねない部下たちを想うがゆえの
隊長としての苦言だった。
すると、その横からスッと前に出た影があった。
「ヴァンデル隊長。大丈夫です
我々の選抜が勝てばよいだけの話ですから」
副隊長のサイラスである。彼は涼しい顔で
しかし絶対的な自信を湛えた笑みを浮かべていた。
「相手がどこの誰であろうと、負けるような
ぬるい指導はしておりませんのでどうかご安心下さい」
過去の闘技大会において、フェルナ騎士団の中で
最も優秀な成績を残している実力者サイラス。
その説得力のある力強い言葉に、ヴァンデル隊長も
ふっと肩の力を抜き、己の迷いを捨てて折れた。
「……領主様。先程の弱音、失礼いたしました。
全言撤回させていただきたく存じます」
ヴァンデルが再び居住まいを正し、力強く言い切る。
「分かった。それでこそ、我がフェルナ領の誇り高き騎士団だ」
リオネルは満足そうに深く頷き
頼もしい精鋭たちに向けて不敵な笑みを向けた。
白極の巨神という未曾有の脅威を退けたフェルナ領に
今度は「闘技大会」という新たな熱狂の風が
吹き込もうとしている。
園長が鍛え上げた規格外の魔獣たちと
領主の期待を背負う騎士団の精鋭たち。
果たして、激しい手合わせを制し
大会の出場権を掴み取るのはどちらになるのか――。
第67話
感謝の朝と誇り高き騎士
お読みいただきありがとうございます!
巨神との死闘から無事に帰還し
物語は新たな章「闘技大会編」へと動き出しました。
今回はフェルナ領を支える騎士団の面々が登場しましたが
部下思いで真面目なヴァンデル隊長と実力者ゆえに強気で
頼もしいサイラス副隊長のコンビが良い味を出しています。
彼らもまた、領主リオネルが全幅の信頼を置く
x誇り高き強者たちです。
そんなフェルナ領自慢の精鋭騎士たちと
園長が送り込む「三体の魔獣」が
出場枠を懸けて激突することになります。
魔獣とはいえ、相手は人間。しかも真剣勝負です。
一体どんなバトルが繰り広げられるのか
そして園長が選ぶ三体とは誰なのか……!?
次回からの展開も、熱く盛り上げていきますので
引き続きお楽しみいただけますと幸いです!




