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報告とお願い。 第66話

応接室のふかふかしたソファに腰を下ろすと

リオネルは身を乗り出すようにして口を開いた。

「兄さん。今回の討伐のこと……詳しい話を聞かせてもらえますか」


対する兄――ヴァルドは、出された温かい茶で

喉を潤すと、静かに目を伏せた。

「さて、どこから話したものか……」


「全て聞かせて下さい。兄さんたちが、あの恐るべき白極の巨神を

どうやって退けたのか、余すところなく知っておきたいんです」

領主としての責任感と、兄への尊敬が入り混じった真剣な眼差しで

リオネルが懇願する。


「わかった。……事の始まりは、ラビリオスのダンジョンにドワーフの

武器を取りに行く為に、ギルド長にダンジョン探索の許可をもらいに行った

そこでギルド長からドワーフの隠し扉の存在を聞いたんだ」

ヴァルドが説明した。


「……ダンジョンに、『ドワーフの扉』があるんですか!?」

リオネルが信じられないと言うように、大きな声で言葉を遮った。


「ああ、大きな扉だ。うちの仲間のヴォルンも、その存在を知っていたんだ」

ヴァルドが静かに頷いて答えた。


「それから……それからどうなったんですか!?」

規格外の事実に、リオネルは思わず身を乗り出して急かすように先を促した。


「ちょっと待て、そう急かすんじゃない」

ヴァルドは小さく苦笑し、手元の茶を一口飲んで呼吸を整えるように言った。


「我々はまず、ギルドでサンの娘……炎の魔術師のアカネと合流した。

お前も前に見ただろう? あの翼の生えた魔獣に。

そいつに乗って、三人でダンジョンに向かったんだ」

当時の状況を思い浮かべながら、ヴァルドがゆっくりとした口調で話し始める。


「そして、ドワーフの隠し通路から、ヴォルンだけが単身で

ドワーフの階層へと入って行った」


「ヴォルン殿が一人でですか?」


「ああ。聞けば、ドワーフの剣は、北から移住してきた残党どもに

奪われていたそうだ。ヴォルンはそれを一人で奪い返しに行ったらしい……。

その後、彼の弟が我々に知らせに来て、我々も中へと案内された」


「北からの残党……」


「そうだ。そいつらは、白極の巨神の脅威から逃げてきた者たちらしい。

元々このダンジョンにいた魔獣たちはそいつらに敗れ

ダンジョンの権利を奪われてしまったみたいだな」

ヴァルドが静かに語る。


その言葉を聞いたリオネルが、領主としての鋭い視点で眉をひそめ、疑問を呈した。

「……どうやって、彼らはそこまで辿り着いたんですか?

大勢の残党が、このフェルナの地を通らずにラビリオスのダンジョンへ

行くことなど不可能でしょう」


「そこなんだよ。まぁ、焦らず最後まで聞いてくれ」

ヴァルドは片手を軽く上げて弟の言葉を制した。


「我々が広い洞窟の奥にあるドワーフの住処で

鍛冶師の頭領と話をしている時のことだ。

ヴォルンの弟が、ギルドからの援軍を連れて到着した」


「ギルドからの援軍……」

リオネルが息を呑む。


「ああ。ギルド長のグレイヴや元ギルド長だけでなく

秘書のリシェルも一緒にな」

ヴァルドが言った。


「……だが、驚くのはそこではない。ダンジョンの階層主たちも

わしたちの戦いに参戦しに来てくれたのだ。

まあ〜利害が一致したからだろうがな」


「階層主たちが!? 魔獣たちが、人間と共闘したというのですか……!」

リオネルが驚きに目を見開いた。


「それだけではないぞ。

神話の魔獣、蒼炎王フレイム・ドラコニクス殿も加勢してくださったのだ」


「し、神話のドラゴンまで!? 兄さん、それは本当ですか……!」

次々と飛び出す規格外の事実に、リオネルは思わずソファから腰を浮かせた。


「ああ、本当だ。私も最初見た時は目を疑ったがな。

……どうやら、うちのヴォルンが魔獣と交渉し

その弟がギルド長と取引をして、参戦を取り付けたらしい。

詳しい交渉の内容までは、私も聞いていないがな」


「ヴォルン殿が……」

想像を超える部下の暗躍に、リオネルが息を呑んで呟く。


「……リオネル。これから言うことは、決して誰にも言うんじゃないぞ」

ヴァルドがふいに声のトーンを落とし、鋭い視線で真っ直ぐに釘を刺した。


「はい。わかっております」

只事ではない兄の気迫に、リオネルも居住まいを正して固い声で了承した。


「ダンジョンの最下層には、北の大地への扉があったんだ。

そして、氷雪の獣王がその扉を守っていた」

ヴァルドが静かに、しかし衝撃的な事実を口にする。


「北への扉……。まさか、その扉を使ってラビリオスへ?」

リオネルが、点と点が繋がったかのように確認した。


「ああ、そうだ。……いや、間違いではないが、完全に当たりとも言えんな」

ヴァルドが腕を組み、少し言い淀むように答える。


「兄さん。それは、どういう意味ですか?」

リオネルが眉をひそめ、さらなる疑問をぶつけた。


「北の扉の先にはな、複数の扉がずらりと並ぶ巨大な空間が存在していたんだ。

リシェル殿が言うには、それぞれの扉がどこに繋がるかは

あらかじめ決まっているらしいがな」

ヴァルドが、その異様な光景を思い出しながら言った。


「複数の扉……。待ってください

リシェル殿はエルフの国から派遣されている方ですよね? ならば

もしかしたら……その空間には、エルフの国へと繋がる扉もあったりするのでは?」

領主としての鋭い勘を働かせ、リオネルが核心を突いた。


「本人に聞いても決して言わないだろうが……おそらく、あるだろうな」

ヴァルドが深く頷き、静かに同意した。


「リシェルの導きで、我々は北の大地に戻って来る事が出来た。

……大勢の仲間を連れてな……」

ヴァルドが、かつての死闘を思い返すように低く呟いた。


「大勢の仲間、ですか?」

リオネルが聞き返す。


「神話の魔獣ドラコニクス殿と、ダンジョンの階層主たち。

さらには先代、先々代のギルド長、そして案内人のリシェル殿だ。

我ら三名を加えて、総勢十二名の最強の布陣だった」

ヴァルドがその規格外の面々を数え上げる。


「……確かに、これ以上ない最強の布陣ですね……」

神話の存在や伝説の強者ばかりが揃ったその顔ぶれに

リオネルは思わず呆れたように息を吐き出した。


「我々もそう思っていた。だが……決して簡単な戦いではなかった。

北の扉の前で、白極の巨神が我々の『魂』を求め、待ち構えていたんだ」

ヴァルドがひときわ険しい顔つきになり、声のトーンを落として言った。


「魂を求めて……とは、どういう意味ですか?」

不穏な言葉に、リオネルがごくりと喉を鳴らして聞いた。


「お前も、古書に『魔獣は凍りつく』と記されているのは知っているか?」

ヴァルドが探るように視線を向ける。


「ええ、知っていますが……それが何か関係があるのですか?」

領主として古い文献にも目を通しているリオネルが、首を傾げて問い返す。


「あれは物理的に氷漬けになるという意味ではない。

『魂を縛られ、動けなくなる』ということだ。

これまではただの憶測だったんだがな……実際に巨神の前では

『名』を持たない者は魂を飲み込まれる。

そして『名』がある者でも、魂との結びつきが薄い者は

完全に動けなくなってしまうんだ」

ヴァルドが、その恐るべき真実を重々しく語った。


「……魂を、飲み込まれる……」

その絶望的な威圧感を想像し、リオネルが戦慄して呟く。


「ああ。何百年……もしかしたら何千年なのかもしれないが

途方もない時を生き抜いた神話のドラゴン、ドラコニクス殿が

最前線にいてくれたからこそ、我々は魂を飲み込まれずに済んだんだ」

ヴァルドが、偉大なる蒼炎王への深い感謝と畏怖を込めて言った。


「…………」

人間の理解を超えた次元の戦いだったことを悟り

リオネルはただ言葉を失い、沈黙するしかなかった。


「ニコが到着するまでは、わしらは戦いにまったく参加出来ておらん。

ニコに『名前の上書き』をしてもらって、初めて戦いに加わることが出来たんだ」

ヴァルドが、自らの無力さを噛みしめるように言った。


「ニコ殿とは、一体どのような方なのですか?」

戦況をひっくり返した謎の人物に、リオネルが身を乗り出して尋ねる。


「……おまえになら、言ってもいいか」

ヴァルドは一度言葉を区切り、周囲に誰もいないことを

確認するように声を落とした。

「ニコは、召喚者だ。絶対に誰にも言うんじゃないぞ」


「……召喚者……。召喚者は何かしらの特異な能力を持つと聞きますが

ニコ殿の能力は先ほどの『名付け』なのですか?」

領主としての豊富な知識から、リオネルが鋭い推察を口にする。


「流石だな。おそらく、一つはそれだろう」

ヴァルドが弟の察しの良さに感心したように頷いた。


「『一つは』とは、どういう事ですか? 他にも能力があると言う事ですか?」

その言い回しに引っかかり、リオネルが間髪入れずに問う。


「そうだな。わしが知っているのは、もう一つだけだがな」

ヴァルドが腕を組み、少し勿体ぶるように視線を外した。


「……兄さん。もったいぶらずに教えて下さい」

普段は冷静沈着なリオネルが、先が気になりすぎるあまり

少しイラつきを滲ませて急かした。


「ははっ。わしもおまえに一つお願いがあるからな。

教える代わりに、その願いを聞いてもらうぞ」

ヴァルドが、兄らしい少し意地悪な笑みを浮かべて交渉を持ちかける。


「……いいですよ。私に出来ることに限りますが」

リオネルがやれやれとため息をつき、その条件を呑んだ。


「その能力は……スピードだ。いや、『スピード』と言ってしまうのは

少し違う気もするが、わしには他に表現する言葉を持ち合わせておらんからな」

ヴァルドが、自分が見た常識外れの光景をどう説明すべきか悩むように眉間を揉んだ。


「スピードが、速いと……?」

リオネルが訝しげにオウム返しをする。


「ただ速いと言う次元ではない。目で追うことすら出来んのだ」

ヴァルドが真顔で、きっぱりと言い切った。


「にっ……兄さんが、ですか?」

かつて最強の盾使いとして名を馳せた兄の動体視力を

もってしても見えないという事実に、リオネルが目を見開いて驚愕する。


「ああ、そうだ。わしには、まったく見えん」

ヴァルドは誤魔化すことなく、その圧倒的な実力差をあっさりと認めた。


「わしらもどうにか戦えるようにはなったが、白極の巨神はいくら削ろうが

その異常な再生速度を上回る事は出来ずにいた。

ジリ貧の絶望的な状況だ。……だが、ニコの放った一言が

戦況をひっくり返すどころか、一瞬で終わらせてしまったんだ」

ヴァルドが当時の衝撃を思い出すように、淡々とした口調で言った。


「終わらせた……? 討伐して、勝ったという事ですよね?」

その言葉のニュアンスに違和感を覚え、リオネルが身を乗り出して聞く。


「ふっ、流石のおまえでも想像は出来んか。……あいつは戦闘の最中

あの恐るべき白極の巨神に『名前をつける』と言いやがったんだ」

ヴァルドが、常識外れな仲間の行動に呆れと感嘆の混じった笑みをこぼす。


「巨神に、名前ですか? しかし、アルケオスという名前がすでにありましたよね?」

リオネルが理解が追いつかず、戸惑いながら聞いた。


「ああ、あったよ。だがそれは

巨神本人が認めた『魂に刻まれた真の名前』ではなかったんだ」

ヴァルドが静かに首を横に振って言った。


「えっ……どういう事ですか?」

リオネルが眉をひそめて聞く。


「『アルケオス』という名は、ただ人間や魔獣たちが

勝手に呼んでいただけの仮称だった。

巨神自身にとっては、ただの記号に過ぎなかったんだよ。

だから奴には、魂を結びつけるための本当の『名前』がなかったんだ」

ヴァルドが、この世界における『名』の真理を語るように重々しく言った。


「そういう事ですか……! だからこそ

ニコ殿の規格外の能力である『名付け』が成立したと……!」

すべてを悟ったリオネルが、戦慄と共に息を呑む。


「ああ。ニコから新たに『ヴェルディオス』という本当の名前を与えられた巨神は

そのまま巨大で穏やかな『調律樹』へと姿を変え

……我々の長きにわたる死闘に静かに幕を引いたのだ」

ヴァルドが深く息を吐き出しながら

神話の終焉を告げるように力強く締めくくった。


応接室にはしばらくの間、人間の理解を超えた壮大な

結末の余韻と深い静寂だけが満ちていた。


ーーーー


先ほど保留にされていた兄からの「お願い」を思い出し

リオネルが改めて真剣な眼差しを向けた。

「……そういえば兄さん。私へのお願いとは、一体何なのですか?」


「ああ、そうだったな」

ヴァルドは一度姿勢を正し、領主である弟へ向けて静かに

しかし熱を帯びた声で説明を始めた。

「現在、我が魔獣園の魔獣たちは『奴隷』という肩書きを得ることで

討伐対象から外れるよう保護されている。

だが……奴隷の身分では『武闘大会』に出場することができんのだ」


「武闘大会に、魔獣を……?」

予想外の言葉に、リオネルが目を瞬かせる。


「ああ。あいつらを大会に出場させ、上位の者に与えられる

『加護』を授けさせてやりたいのだ。

そのために、このフェルナを治める領主としての、お前の力を借りたい」

ヴァルドが、魔獣たちへの深い親心を覗かせて言った。


兄のその真っ直ぐな想いに、リオネルは一切の躊躇なく力強く頷く。

「兄さんの頼みとあらば、遠慮なく言って下さい。

私にできる最大限の支援をお約束します」


「助かる」

ヴァルドはニヤリと不敵な笑みを浮かべ、とんでもない要求を口にした。


「うちの魔獣、三体に――フェルナ領『騎士団』の肩書きを与えてやってほしい」


魔獣を騎士団の騎士として武闘大会へ送り込む。

その前代未聞の計画に、リオネルは一瞬呆気にとられ

……やがて面白そうに口角を上げた。


白極の巨神という規格外の脅威が去ったのも束の間。

魔獣園の次なる目標は、まさかの『武闘大会』制覇!?


新たな波乱と熱狂の幕開けを予感させながら

フェルナ領の夜は静かに更けていくのだった。

第66話

報告とお願い。

までお読みいただき、ありがとうございます。


今回は、白極の巨神討伐の裏側の報告回でした。

読者の皆さんにはすでにお読みになられている出来事ですが

今回はそれを園長ヴァルドの視点で語り直す形になっています。


リオネルの驚きや領主としての視点を通すことで、

あの戦いがどれだけ規格外だったのか

少し違った形で伝われば嬉しいです。


そして今回のもう一つのポイントは――

最後に出てきた園長の「お願い」です。


まさかの

魔獣を騎士団にして武闘大会に出す。

という、とんでもない計画。

普通ならあり得ない話ですが

園長なら「まあ、この人なら言い出しかねないな」と

思っていただけたら成功です。


巨神討伐という大きな山を越えましたが

物語はまだまだ続きます。次の舞台は、武闘大会編。

魔獣たちがどんな活躍を見せるのか

ぜひ楽しみにしていただけたら嬉しいです。


ここまで読んでくださった皆さま

ブックマーク、評価、感想など頂けたら

嬉しいです。

皆さまの応援が、物語を書く大きな力になっています。


それではまた、次の話でお会いしましょう。


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