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凱旋の晩餐 第64話

第64話


凱旋の晩餐


北の空に巨大な翼の影が姿を現した。アンズーが魔獣園へと帰還したのだ。

しかし、すでに宴の準備で大盛り上がりの副庭の面々は、作業や立ち話に夢中で

誰一人として空を見上げる者はいない。なんとも塩っぱいお出迎えである。


アンズーの背から降り立った園長が、コホンと咳払いをして厳かに口を開いた。

「みんな、留守番ご苦労だった。皆がここを守ってくれたおかげで

我々は無事に帰ってくる事ができた。心から感謝する――」

「……おい! 誰か聞いてるのか!?」

完全にスルーされていることに気づき、園長がたまらずツッコミを入れる。


「あ、聞いてますよ。もちろん……」

作業の手を止めずに、ニコが生返事で答えた。


「まったく……。ところで、クルツやアレンたちはどうした?」

園長が周囲を見回して尋ねる。


「クルツさんとアレンさんは、他の皆を連れて別館の食堂へテーブルを取りに行きましたよ。

『園長の帰りが遅いから、許可をもらう前に勝手に持ってくることにした。

後で知らせておいてくれ』って言付けを頼まれてます」

ニコがあっさりと事後報告をした。


「おお、そうか。今夜はここで食事をするんだな」

「そうです! 盛大なバーベキューパーティですよ!」

ニコが目を輝かせて嬉しそうに答えた。


そこへ、大きなテーブルを抱えたアレンたちが別館から戻ってきた。

「園長、お帰りなさい!」

アレンがテーブルを置き、駆け寄ってくる。


「アレン。魔獣園の留守番、本当にご苦労だった。心から感謝するよ」

園長は今度こそしっかりと向き合い、深く頭を下げた。


「そんな、大した事はしていませんから頭を上げて下さい!

皆さんが無事に帰ってきてくれたことが、何より嬉しいんです」

アレンが慌てて謙遜する。


その感動的なやり取りの直後。

「……アレン。ちょっと耳を貸せ」

園長が急に声を潜め、手招きをした。


「はい? なんでしょうか?」

不思議に思って近づいたアレンの耳元で、園長がこっそりと囁く。

「領主から届いた支援物資の中に……『酒』はあったか?」


「あ、ありましたよ。物資を運んできた騎士団の人たちが、『うちの領主様は

なんで避難民への援助物資に大量の酒なんか混ぜてるんだ?』って

呆れ顔で首を傾げてましたけど……」

そこまで言って、アレンはハッと気づいた。

「えっ……もしかして、園長が裏でこっそり領主様にお願いしたんですか!?」


「おお……ちゃんと届いていたか、さすが領主様だ」

園長は悪びれる様子もなく、ニヤリと笑った。

「当然だろ。これから勝利を祝うってのに、酒がない晩餐なんて味気ないじゃないか」


「まあ……勝ったからいいですけど……」

職権濫用とも言える園長のちゃっかりした根回しに

アレンは呆れつつも苦笑いするしかなかった。


ふと、アレンの視線が園長の傍らに佇む見慣れない人物で止まった。

「園長。そちらのお綺麗な方が、もしかしてギルドの方ですか?」

アレンが、エルフ特有の透き通るような美しさを持つリシェルを見つめて尋ねた。


「おお、そうだ。紹介しよう。彼女はラビリオスギルドで

秘書をしているリシェルだ」

園長がリシェルを手で示して紹介する。


そこへ、テーブルの設置を終えたクルツも合流し

声をかけた。

「園長、お帰りなさい。事後報告ですみませんが

別館のテーブル、今夜はここで使わせてもらいますよ」


「おお、ニコから聞いたぞ。構わん構わん、好きなように使え!」

お酒の確保が確認できてすっかり上機嫌になった園長が、鷹揚に頷いた。


その言葉に一安心したクルツは、アレンと話し合っていた懸案事項を思い出し

真顔に戻って尋ねた。

「園長。今回の討伐完了の件ですが、領主様へのご報告はどうしますか?」


園長は少し考えるように顎を撫でた。

「そうだなぁ……さすがに明日という訳にもいかんだろう。

街の者たちも不安に思っているはずだ。今夜の食事が終わったら

私がお城へ行って直接報告してくるから安心しろ」


「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします」

園長の頼もしい言葉に、クルツがホッと安堵の息をついて深く頷いた。


そうして報告の件が片付き、ふと傍らに視線を向けたクルツは

園長を乗せて帰ってきたばかりのアンズーの姿を見て、思わず目を丸くした。


「……なぁニコ。ちょっと通訳、頼めるか?」


「はい。何ですか、クルツさん?」


「アンズーに聞いてみてくれ。

『なんでそんなに毛並みがフサフサで綺麗になっているんだ?』って」


「はい、わかりました」

ニコがアンズーの方を向いて短い言葉を交わすと

アンズーはすまし顔でふいっとそっぽを向いた。


「えっと、アンズーさんは『ふん。俺はいつもこんな感じだ。元々綺麗好きだからな』

と言ってますよ」ニコが通訳する。


「いや絶対違う! お前、なかなか帰って来ないと思ったら

さては向こうで温泉に入ってくつろいできただろ!」

クルツがビシッと指を差して追及する。


図星を突かれたアンズーが、目を泳がせながらグルルと喉を鳴らした。

「あー……『入ったと言うか……ちょっと足元が狂って、温泉に落ちただけだ』

と言ってます」ニコが呆れたように、アンズーの苦しい言い訳をそのまま伝える。


「へえー、温泉に落ちたねぇ。……まあ〜、そういう事にしておいてやるよ」

クルツがニヤニヤと笑いながら、誤魔化しきれていない

巨大な鳥の胸毛をポンポンと叩いた。


「アンズーさん。そういう事にしておいてくれるらしいですよ」

ニコがやれやれと肩をすくめてアンズーに伝えた。


そこへ、バーベキューパーティの準備が進む副庭に

今度はカイチがゆっくりと姿を現した。


「いやぁ、思ったより快適な乗り心地だったぞ。ありがとうな」

カイチの背から降りたガルディアスが、肩を叩きながら労いの言葉をかける。


「ほんとだなぁ~。四本足の魔獣で、こんなに重心が安定しとる魔獣は初めてじゃ」

バルドレインも、その乗り心地の良さにしきりに感心していた。


「ふん。我の背中に乗れたことを感謝することだ」

カイチが気高く鼻を鳴らして応える。


「両ギルド長、お疲れ様でした。もうすぐ食事の準備ができますので

しばらくそちらの丸太の椅子にかけてお待ちください」

クルツが二人を休む場所へ案内した後、再びクルツがニコの肩を叩いた。


「ニコ、また通訳頼む」


「……またですか?」

ニコが少し嫌そうな顔をして振り返る。


「ニコ、よく見てみろ。あのカイチも絶対温泉に入って来てるぞ!」

無類の温泉好きであるクルツが、カイチのふさふさになった毛並みを

指差して興奮気味に言った。


「別に入って来ても良いんじゃないですか……?」

根っからのお風呂嫌いであるニコは、心底どうでもよさそうにため息をつく。

「そんなにクルツさんが温泉に入りたいなら、明日行けば良いじゃないですか」


ニコのその適当な一言に、クルツはパッと顔を輝かせた。

「おっ、そうだな! よーし、明日はみんなで温泉だ!!」

クルツが副庭にいる全員に聞こえるような大声で

高らかに宣言するのだった。


ーーーー


一方、厨房では怒涛の調理作業が

ようやく終わりを迎えようとしていた。


「よし! これで下準備はすべて完了だな」

サンが満足げに腰に手を当て、美しく盛り付けられた

食材の山を見渡して頷く。

「ロルフ。みんなに食材を運ばせるから

副庭に行って手の空いている連中を呼んできておくれ」


「はい、わかりました!」

ロルフが元気よく返事をし

小走りで副庭に向かって駆け出していく。


残った女性陣に向き直り、サンがテキパキと次の指示を出す。

「ルーナとアカネは、食堂からワゴンを持ってきて

食材を乗せていってくれ」


「はいっ!」

二人は声を揃えて返事をすると、食堂から配膳用の

大きなワゴンをいくつも押してきた。


綺麗に切り分けられた山盛りの野菜

領主から届いた美しいサシの入った極上のお肉

そして氷水でしっかりと冷やされて味が馴染んだ

『究極の特製タレ』。それらを次々と

二人がかりで手際よくワゴンへ積み込んでいく。


その様子を見守りながら、サンがポンと手を叩いて

ピシッと注意を飛ばした。

「いいかい、ワゴンで運ぶのは玄関のフロアまでにしておくれよ!

車輪に泥がつくから、室内用のワゴンをそのまま外の副庭まで

転がしていくのは不衛生だから絶対ダメだからね!」


厨房を飛び出したロルフが小走りで副庭に到着すると

パンパンと手を叩いて皆の注目を集めた。


「みなさーん! 玄関のフロアまで来てもらって良いですかー

食材を外へ運ぶのを手伝って欲しいんですよ!」

ロルフが副庭でくつろぐ面々に聞こえるよう

よく通る大きな声で呼びかける。


「おおっ。もうすぐ飯が食べられるのか!」

「待ってました!」

その声を聞きつけた途端、宴を待ちわびていた魔獣たちが目を輝かせ

ワラワラと嬉しそうに玄関の方へと集まり始めた。


皆の動きを確認したロルフは、手際よく的確に人員を割り振っていく。

「アレンさんとクルツさんは、すいませんがもう一度厨房まで行って下さい。

そこから玄関のフロアまで、食材の乗ったワゴンを押して運ぶ係をお願いします」


「ヴォルンさんは、あっちにある特大の

バーベキュー炉に火を入れておいて下さい!」

「おお、わかった。すぐにやっておくぞ」

頼もしい巨躯を持つヴォルンが快く了承し

さっそく炉の火起こしへと向かって動き始めた。


そして、ロルフは最後に園長の方を向いて言った。

「園長は、支援物資のお酒を運んで下さい」


「おおっ! わかった、私に任せとけ!」

一番の力仕事(?)にして大役を任された園長は

隠しきれないほどにんまりと顔を綻ばせ

どことなくウキウキとした足取りでいそいそと歩き出すのだった。


ーーーー


「サンさん。そろそろ始めましょうか、よろしくお願いしますね」

食材の搬入を終えたクルツが、期待に満ちた声で声をかけた。


「園長、お酒の方も配っていきますよ」

アレンがドンッと木樽を置きながら確認する。


「おお、いいぞ! 今夜は盛大にやろうじゃないか!」

待ってましたとばかりに、園長が高らかに宣言した。


副庭の中央に据えられた特大のバーベキュー炉では

すでにヴォルンが起こした赤々とした炭が煌々と熾きていた。


「よし、火はいい具合だぞ」

ヴォルンが満足げに火の調整を終えると

ロルフが次々と分厚い肉の塊を鉄格子の上に乗せていく。


サンもトングで豪快に巨大な肉を持ち上げ、網の上へと並べた。


ジュウゥゥゥ――ッ!


その瞬間、肉の脂が炭へと落ちて弾け、真っ白な煙が一気に立ち上った。

先ほど完成したばかりの、あの特製の甘辛い「究極のタレ」の香りと

炭火で焼ける極上の肉の匂い。

そこへニンニクと生姜の刺激的な香りが複雑に絡み合い

食欲を容赦なく刺激する暴力的な匂いが副庭いっぱいに広がった。


「うわぁ……すっごくいい匂い……」

ニコが思わず鼻をひくひくさせながら、うっとりと呟いた。


その隣では、ゴリムが完全に目を血走らせて身を乗り出している。

「に、肉だ……! ダメだ、あの匂い……腹が鳴りそうだ……」


ぐぅぅ……きゅるるる……。

ゴリムの言葉を証明するかのように、あちこちから盛大に腹の虫が鳴る音が響き

周囲からドッと小さな笑いが起こった。


「こらこら、まだ焼けてねぇぞ。もう少し待ちな」

サンが笑いながら、手際よく肉を裏返していく。


ジュワッ!

焼き目がついた肉の表面から、さらに強い香ばしさが爆発的に立ち上る。

炭火の強烈な熱で表面がカリッと焼け、中からはキラキラとした

肉汁がとめどなく滲み出していた。


「……いい色になってきましたね」

アレンがゴクリと喉を鳴らす。


その圧倒的な匂いに、周囲に集まっていた者たちの視線は

もはや一斉に炉の上の肉へと釘付けになっていた。


そこへ、巨大な影が一つ、ドス、ドスとゆっくりと近づいてくる。

蒼炎王フレイム・ドラコニクスだった。


「……ほう」

ドラコニクスが巨大な鼻先をわずかに下げ、煙を吸い込むように目を細める。

「これは……酷く食欲をそそる、良い香りだ」

地響きのような低い声で、ポツリと呟いた。


その横で、リシェルがくすっと優しく微笑んでいる。

「ええ、本当に。……血生臭い戦場の匂いとは、まったく違いますね」

彼女は目を細め、夜空へ高く立ち上る煙を見上げた。

「とても温かくて……平和な匂いです」


少し離れた丸太の椅子では、両ギルド長が腕を組んでその光景を眺めていた。

「ははっ……まさか、死線を潜り抜けた直後に、神話のドラゴンと一緒に

肉が焼けるのを待つことになるとはな」

ガルディアスが肩を揺らして笑うと、バルドレインや周囲の冒険者たちもつられて苦笑した。


その時だった。

「よし、焼けたぞ!」

サンの弾むような声が響き渡った。


炭火でこんがりと絶妙な焼き加減に仕上がった肉が、次々と大皿へと移されていく。

「すごい……ツヤツヤだ……」

ニコの目がさらに輝いた。


「おい、もういいか!? もう食っていいのか!?」

限界を迎えたゴリムが、ヨダレを垂らさんばかりの勢いで身を乗り出す。


だが、無情にもサンがピシャリと片手を上げて制止した。

「待て待て! まずは領主様の計らいで届いた肉なんだ、避難民の方々の分を先に届けるから

みんなはもうちょっとだけ待ってちょうだい」


その宣告に、副庭に集まっていた魔獣たちと一部の人間から

一斉にこの世の終わりのような残念そうな声が上がった。


「えぇぇ……っ!?」

「もう目の前で焼けてるのに……」

「こんなに、こんないい匂いなのに……」


ニコも露骨に肩を落とし、ゴリムに至っては名残惜しそうに

焼き台の上の空になったスペースを凝視している。


「しょうがないだろ。不安な思いをしてる避難民の方々が先だ。

お前らも大人しく待ってろ」

クルツが苦笑しながら窘めると、魔獣たちも渋々といった様子で頷いた。


「……わかったよ」

「待つ。……絶対に待つ」

「配り終わったら、早く戻ってきてくれよ……!」


腹を空かせた巨大な魔獣たちが、まるで餌を待つ子犬のように

おとなしくしている姿を見て、サンは優しく微笑んだ。

「ははっ、いい子だね。すぐ次の分を焼くから、安心して待っていな」


そう言いながら、焼き上がった極上の肉を次々と皿に乗せていく。

「ロルフ、どんどん皿に乗せるよ!」

「はいっ!」

ロルフが手際よく大皿を並べ、特製のタレをたっぷりと絡めていく。


「アカネ、マレナ、ルーナ。熱いうちに、これを避難民の皆様の

ところに持って行っておくれ」

サンがトレイに大皿を乗せて差し出すと、女性陣三人がすぐに受け取った。


「はい!」

「任せてください!」

「冷めないうちに届けてきますね!」


三人はそれぞれトレイをしっかりと抱え、避難民たちの元へと

急いで配りに向かった。


その頼もしい背中を見送りながら、サンは再びトングを握り

真新しい分厚く大きな肉を網へと乗せた。


ジュウゥゥゥ……ッ!

再び炭火の上で、暴力的に食欲をそそる音が鳴り響く。


その音と匂いに、大人しく「おあずけ」を食らっている

魔獣たちの悲痛な視線が、またしても一斉に焼き台へと吸い寄せられた。


「……なぁ。俺たちの肉は、まだか?」

ゴリムがぽつりと、魂の抜けたような声で呟く。


ニコはそんな彼らを慰めるように苦笑しながら、優しく肩を叩いた。

「もう少しですよ。……たぶん、もう少しの辛抱です」


しかし、再び焼き上がった肉を大皿に盛り付けながら、サンが無慈悲な宣告を下した。

「よし、焼けた! 次は、今日うちを助けてくれた『お客様』の分だ!」


「えっえぇぇぇーーっ!?」

魔獣園の魔獣たちから、この世の終わりを見たような悲痛な悲鳴が上がった。


「嘘だろ……」「まだ待つのか……」と完全に項垂れる魔獣たちをよそに

サンとロルフは手際よくお客様たちへ極上の肉を配っていく。


まずは、最も巨大な客人である蒼炎王フレイム・ドラコニクスからだ。

彼の足元に、大鍋ほどの器に山盛りにされた肉がドンッと置かれる。


ドラコニクスは「うむ」と重々しく頷くと、その巨大な口で一息に肉を平らげた。

その瞬間、彼の鋭い瞳がカッと見開き、鼻から満足げな熱い息が噴き出す。

「……なんと。この『タレ』とやらの味の深み……見事だ。実に見事な肉料理だ」

神話の魔獣をも唸らせる美味さに、ドラコニクスは上機嫌で喉を鳴らした。


続いて、両ギルド長とリシェルの元へ。園長が運んできた酒と共に

タレが輝く焼きたての肉が振る舞われる。

「こりゃあ美味い! 戦いの後の肉と酒、最高じゃないか!」

ガルディアスが豪快に肉を頬張って酒を煽り

バルドレインも「この甘辛い味付け、無限に酒が進むわい!」と大絶賛した。


リシェルも小さく切り分けられた肉を上品に口に運び

「まあ……なんて複雑で豊かな味わいなのでしょう。

疲れが吹き飛びますね」と、エルフの美しい顔をほころばせた。


さらに、共に死線を潜り抜けてくれたダンジョンの階層主たちにも

それぞれの体格に合わせた山盛りの肉が配られていく。

至る所から「美味い!」「なんだこの味は!」と歓声が上がるたび


おあずけを食らっている魔獣園組のヨダレの量は限界を突破しそうになっていた。


「もう……限界だ……死ぬ……」

ゴリムが白目を剥きかけた、その時だった。


ついにサンが振り返り、トングを高々と突き上げてニヤリと笑った。

「よし! みんな、よく待ったね! ここからは魔獣園の身内の分だ!

遠慮はいらない、好きなだけ食いな!!」


その合図とともに、副庭の空気が爆発した。


「「「うおおおおぉぉぉぉ!!」」」

歓喜の咆哮とともに、ゴリムやアンズー、カイチ

そして腹を空かせた魔獣園の面々が一斉に焼き台へと殺到する。


タレがたっぷりと絡んだアツアツの肉を口に放り込んだ瞬間

ゴリムは「んまぁぁぁぁい!!」と叫んで両手を天に突き上げた。

「すごい……これ、待った甲斐が余裕でありましたね……!」

ニコも熱々の肉をハフハフと頬張りながら、とろけるような笑顔を見せる。


誰も彼もが至福の表情を浮かべ、賑やかな副庭は

肉が焼ける香ばしい音と、幸せに満ちた咀嚼音に包まれていくのだった。


皆の胃袋が少し落ち着き、手元にエールや果実水が行き渡ったのを見計らって

クルツが声を上げた。

「園長。全員の準備が整いました。乾杯の挨拶をお願いします」


「おお、そうだな」

園長は、なみなみと注がれた酒のジョッキを手にゆっくりと立ち上がった。

その声に周囲のざわめきが静まり、魔獣たちも、人間たちも

そして巨大な客人たちも一斉に園長へと視線を向ける。


園長は、口の周りにタレをつけた魔獣たち、留守を立派に守り抜いたアレン

駆けつけてくれた両ギルド長やリシェル、そして静かにこちらを見下ろす

ドラコニクスたちをぐるりと見渡し、深く、穏やかに微笑んだ。


「……まずは皆、誰一人欠けることなく、本当によく生きて帰ってきてくれた」

園長の声はどこか温かく、そして力強く夜の副庭に響いた。


「今回の恐るべき脅威は、決して我々魔獣園だけでは乗り越えられなかった。

ラビリオスギルドの皆、階層主の皆、そして蒼炎王フレイム・ドラコニクス殿。

貴方たちの多大なる尽力に、心から感謝を申し上げる。

そして……我らが帰るべきこの場所を、立派に守り抜いてくれた

留守番組の皆にも最大の賛辞を送りたい」


園長がジョッキを真っ直ぐに、高く掲げた。

それにつられて、クルツも、アレンも、サンも

そして魔獣たちもそれぞれの杯や肉を天に向けて掲げる。


「美味い肉と、美味い酒。そして何より、こうして全員でひとつの火を囲めている

この素晴らしい奇跡に感謝しよう!」

園長が満面の笑みを浮かべ、澄み切った冬の夜空に向かって声を張り上げた。


「我らが魔獣園と、共に戦ってくれた新たな友たちの輝かしい未来に――乾杯!!」


「「「乾杯!!」」」


ゴリムの雄叫び、アンズーやカイチのいななき、ドラコニクスの低い咆哮

そして皆の弾けるような歓声が重なり合い、星空へと響き渡る。

ジョッキが盛大に打ち鳴らされる音とともに

再びジュウゥゥと新しい肉が網の上で音を立て始めた。


かくして、死闘を乗り越えた一行の、最高に美味しくて騒がしい

「凱旋の晩餐」の夜が本格的に幕を開けるのだった。


第64話

凱旋の晩餐

最後までお読みいただきありがとうございます!


いよいよ始まった魔獣園での「凱旋の晩餐」!

今回はなんと8000文字を超える特大ボリュームでお届けいたしました。


アンズーやカイチの苦しい言い訳(ニコの容赦ない通訳)にクスッとしつつ

目の前で焼ける極上のお肉をひたすら「おあずけ」される魔獣園メンバーたちの

悲痛な叫び……楽しんでいただけたでしょうか?(笑)


ドラコニクスや両ギルド長たちも大満足のサンの特製タレ焼肉

そして園長の温かい乾杯の挨拶で、ようやく彼らも本当の意味で

一息つくことができました。全員無事に帰還し

こうして皆で同じ火を囲んで笑い合える奇跡に

書いているこちらも胸が熱くなりました。

平和で騒がしい魔獣園の日常を、引き続きお楽しみください!


少しでも楽しんでいただけましたらページ下部から

感想、評価などいただけますと、毎日の執筆の大きな励みになります!

引き続き、よろしくお願いいたします。


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