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可憐な少女?と露天風呂 第62話

鬱蒼とした木々を抜けた先、開けた場所にその場所はあった。

「着いたぞ。ここだ」

園長が歩みを止め、前を指差して言った。


「ほう! こりゃあ大きな露天風呂だなぁ〜」

ガルディアスが、湯気を上げる立派な

岩風呂を見渡して感嘆の声を漏らした。


「だが、少し手入れが出来てないようだな」

バルドレインが、湯船のあちこちに浮かぶ落ち葉を見て呟く。


「すまん……定期的に掃除はさせているんだが

今回の騒動のせいでほったらかしだったからな……」

園長が申し訳なそうに頭を掻いた。


「大丈夫ですよ。落ち葉をよければ、お湯は綺麗ですし」

そう言いながら、リシェルがなんの躊躇いもなく

するすると服を脱ぎ始めた。


「お、おいおい! リシェル、お前もここに入るのか!?」

園長がギョッとして目を丸くする。


「ええ、入りますよ?」

リシェルは涼しい顔で、さも当然のように言った。


「……じゃあ、我々はあっちの湯に行きましょうか」

園長は大きくため息をつき

二人の元ギルド長を促して背を向けた。


三人が反対側の湯へ行こうとした時

背後から不満そうな声が飛んできた。

「えっ? 皆さんもここに入ればいいじゃないですか」

リシェルが不思議そうに首を傾げている。


「いくらなんでも、男と女で一緒はダメだろうが!」

園長が呆れたようにツッコミを入れる。


「私なら全く気にしませんから大丈夫ですよ。

……せっかくの温泉なのに、一人で入るのは寂しいじゃないですか……」

リシェルが、少しだけ肩を落として寂しそうに言った。


その言葉を聞いて、反対側に向かっていた

ガルディアスがピタリと足を止めた。

「ヴァルドよ。よく考えたら奴はエルフじゃから

わしらよりずっと年上じゃ。

ただの『おばあさん』だと思えば何の問題もないじゃろ」


「ふむ、確かにそうだな。わしもここでいいぞ。

あっちの湯までわざわざ歩くのも面倒じゃしな〜」

バルドレインもあっさりと同意し引き返してくる。


「お前らな……」

ただ一人、常識的な羞恥心を持ち合わせていた園長が

マイペースすぎるエルフと図太い老人たちに挟まれ

頭を抱えるのだった。


結局、押し切られる形で四人は同じ場所へ浸かることになった。


「はぁ〜〜〜……っ」

「おおぅ……こりゃあ、たまらんのう……」


ちゃぷん、と湯船に肩まで沈んだ瞬間

ガルディアスとバルドレインの口から

年季の入った深い、深い溜息が漏れた。

二人の老いた顔から、かつてのギルド長としての威厳も

先ほどまで最前線で戦っていた剣士としての鋭さも

すべてが湯気と共に空へ溶けていく。


「あ゛あ゛ぁぁぁ……極楽じゃ……」

バルドレインが、首までお湯に浸かって

だらしなく目を細め言った。


「ははは。死ぬ前に、こんな良い湯に浸かれるとは思わんかったわい。

生き残って正解じゃったな」

ガルディアスも、シワだらけの顔をほころばせ

お湯を手ですくって肩にかけながら心底幸せそうに笑う。


「……たく。お前ら、完全にただのジジイに戻っとるぞ」

園長が呆れたようにツッコミを入れながらも

自身もまた「ふぅ……」と小さく息を吐き、

心地よい温かさに身を委ねていた。


その横で、パシャ、と軽やかな水音が響いた。


お湯の熱さでほんのりと桜色に染まった透き通るような白い肌。

リシェルは美しい髪をお湯につからないように頭の上で

ふわりとまとめ、湯船の縁に寄りかかって無防備に足を伸ばしていた。


「ふふっ」

見た目通りの可憐な少女のような笑い声をこぼし

細く綺麗な指先でちゃぷちゃぷとお湯をすくって遊んでいる。

図太い老人たちが先ほど「おばさんだと思えばいい」と

強がってみせたものの、湯気の中に佇むその姿は

どこからどう見ても息を呑むほど愛らしい女の子そのものだった。


「これでこそ休日ですね〜」

リシェルが心底満足そうに、とろけるような笑顔で言った。


そのあまりにも無邪気で可愛らしい様子に

さしもの園長やギルド長たちもすっかり毒気を抜かれ

何も言い返せないまま静かに目を閉じるのだった。


――四人がすっかりお湯に溶け、至福のひとときを味わっていた

まさにその時だった。


バッサ、バッサと、上空から巨大な羽音が近づいてきたかと思うと

露天風呂のすぐ脇に大きな影がドスッと降り立った。


「……迎えに来てやったぞ。って、おい!」

皆を魔獣園へ送り届け、再び北の大地へ戻ってきたアンズーが

開口一番に呆れたような声を上げた。


「俺がせっせと皆を運んで働いている間に

随分といいご身分じゃないか……!」

自分だけが運び屋として飛び回っているのに

当の大人たちが顔を真っ赤にして極楽気分で

くつろいでいる光景を目の当たりにし

アンズーが不満げにブーブーと愚痴をこぼす。


「おお、アンズー。すまんすまん、ご苦労だったな」

園長が湯船の中から呑気に手を振った。

そのあまりにも緩みきった態度が

アンズーの導火線に火をつけた。


「ええい、ずるいぞ! 俺も入る!」


「えっ? ちょっと待て――」


リシェルが止める間もなく、アンズーは巨大な体をバサリと翻し

そのまま露天風呂に向かって勢いよくダイブした。


ザッッッパーーーンッ!!!


「うわぁっ!?」

「な、なんじゃあ!?」

「キャッ!」


神話クラスの巨体が躊躇なく飛び込んだことで

穏やかだった露天風呂のお湯が、まるで津波のように大荒れに波打つ。

突然の大波を頭からざぶんと被り、極楽気分に浸っていた四人は

すっかり目を白黒させて、悲鳴混じりの驚きの声を上げるのだった。


ザバァァァッと湯船から盛大に溢れ出したお湯がようやく落ち着き、

園長たちが顔を拭いながらむせていると

音もなく露天風呂の脇に降り立つ影があった。


クルツとゴリムを無事に送り届けて戻ってきた、カイチだ。


「……まったく、騒々しい奴らだな」

カイチは、アンズーのダイブによって

ずぶ濡れになって咳き込む大人たちを見下ろし

呆れたように鼻を鳴らした。


「あなたも入るのですか?」

リシェルが聞くと、カイチは静かに頷いた。


カイチは湯船の中でバシャバシャとくつろぐアンズーを一瞥すると

そっと湯船の縁に近づいた。


そして、まるで王族が寝椅子に横たわるかのような洗練された動作で

波一つ立てないよう、そろり、そろりとお湯の中へ足を踏み入れていく。


ちゃぷん……。

極めて上品な水音だけを響かせ、カイチはゆっくりと肩までお湯に浸かった。

美しいふさふさの毛並みが、お湯の表面で優雅にふわりと広がる。


「……ふむ。悪くない」

静かに目を閉じたカイチから、なんとも気品のある深い吐息が漏れた。


「同じ神話の魔獣でも、こうも入り方が違うもんかね……」

先ほどの大波で頭からお湯を被ってしまったガルディアスが

乱れた髪をかき上げながら、上品にくつろぐカイチと

豪快なアンズーを交互に見て、やれやれと肩をすくめた。


それからしばらくの間、静寂を取り戻した露天風呂には

お湯の流れる音と、心地よさそうに目を細める魔獣たちの

穏やかな寝息だけが響いていた。

人間、エルフ、そして神話の魔獣。

種族を超えた奇妙な一行は、戦いの疲れを癒すように

ただただ温かいお湯に身を委ねていた。


やがて、すっかり体が温まった園長が

お湯から立ち上がりながら声をかけた。

「さて、そろそろ帰るか」


その言葉を合図に、皆もそれぞれのペースで湯船から上がり

帰り支度を始める。


身支度を終え、魔獣園へ向けて出発する段になると

園長が手際よく魔獣たちの背中に乗るメンバーを割り振った。


「アンズーには、わしとリシェルが乗る。

カイチには、ガルディアスとバルドレインを頼む」


それぞれの背にまたがり、戦いを終えた一行は

帰還を待つ仲間たちがいる魔獣園へと向けて出発した。


アンズーが大きく翼を広げて冬の空へと舞い上がり

カイチが力強く大地を蹴って雪原を駆け出していく。


かくして、北の大地での死闘を終えた最後の一行も

暖かい場所を目指して帰路につくのだった。

第62話、

可憐な少女?と露天風呂

お読みいただきありがとうございます!


今回は、激闘を終えた大人組の「露天風呂」エピソードでした。

エルフの年齢を理由に混浴をあっさり受け入れる

図太いお爺ちゃんたち(と頭を抱える園長)。

そして、神話の魔獣らしからぬ豪快なダイブを決めたアンズーと

どこまでも優雅なカイチ。それぞれの個性が大爆発する

平和で少し騒がしい休息のひとときをお楽しみいただけたなら幸いです。


戦いを終えた一行も全員魔獣園へ向かい

次はいよいよお待ちかねの「勝利と無事を祝う晩餐」が始まります!

ドラコニクスも交えた大宴会、どんな騒ぎになるのか

……次回もどうぞお楽しみに!


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