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【現役料理人が執筆】名を呼ばれた日、進化が始まった 〜召喚レッサーパンダの魔獣物語〜  作者: 幸辰


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とびきりの燃料と二つの救い 第123話

「アンズー、帰ってきたばかりで悪いが

リム村まで連れていってもらえるか」

申し訳なさそうに、アレンが頼み込む。


「連れていくのはいいが……

腹が減って、力が出んぞ……」

アンズーがその場にへたり込み

翼をだらりと垂らしながらぼやいた。


激しい戦いの疲労が、まだ色濃く残っている。


「わかった、わかった。

サンさんに頼んで何か作ってもらってやるから。

それでいいか?」


「それでいいぞ。できるだけ早く頼む」

アンズーが目だけをぎょろりと動かし、力なく答えた。


アレンはすぐさま踵を返し、食堂へと駆け出した。


「サンさん!」

カウンターに両手を乗せ、厨房の中を覗き込む。


「サンさんなら、地下の凍結庫を見に行きましたよ」

下ごしらえの手を止めずに、ロルフが答えた。


「ありがとう、行ってみるよ」

アレンは短く礼を言うと、すぐに厨房を後にした。


――――


ひんやりとした空気が、階段の下から立ち上ってくる。


「サンさん、いますか?」

薄暗い地下への階段を降りていった。


「アレンか……?

足元、気をつけて降りて来なさい」

階下から、サンの落ち着いた声が返ってくる。


サンは水魔法で凍結庫に氷を生成した後

一番手前に位置する第一区画で野菜の状態を確認していた。


――そこは、外の空気と中の冷気をつなぐ

いわば緩衝地帯のような野菜類の貯蔵庫。


「サンさん、お願いがあるんですが」

アレンが切り出す。


「なんだい……?言ってみな」


「アンズーさんに食事を作ってもらえませんか?

お腹が空きすぎて動けないようです……」


「そりゃ仕方ないか……。聞いたところによると

ものすごい戦いだったみたいだしね。

ここまで連れて帰ってくれた恩もあるし

ここは奮発するとするか!」

サンが快く引き受ける。


「ありがとうございます!」

アレンがパッと顔を輝かせた。


「ちょうど、チルド室でアルクトス・ベアの肉を

解凍していたところだし、それを豪快に焼いてやるか……」


「もしかして……

アルクトス・ベアのステーキですか!?」

アレンがうらやましそうに声を上擦らせる。


「まぁ、そうなるかな。

お肉だけじゃなく、野菜もしっかり食べなきゃね。

ポテトフライとにんじんのソテー

それからブロッコリーといったところか」


――――


「アンズー、喜べ!サンさんが奮発してくれたぞ!

――超豪華ステーキだ!」

アレンが自慢げに皿を差し出した。


「おぉー!うまそうだ。遠慮なくいただくぞ」

アンズーが大きなお肉にかぶりつく。


「おい、アンズー!お前、野菜もちゃんと食えよ!

せっかくサンさんが作ってくれたんだからな、

残したりしたら許さないぞ!」

アレンが釘を刺す。


「ふん、俺は野菜なんてあまり……」

と言いつつ、渋々口に運んだアンズーの目が

途端に見開かれた。


「なんだこれ?思ったよりうまいぞ!

この白いのは、外がカリッとして中はホクホクだ。

赤いのは、脂の香りと甘い味付けがたまらん……!

そのうえ、緑のやつもコリコリした歯応えが絶妙で、

特製ステーキソースと絡まってめちゃくちゃうまいぞ!」


「アンズー、満足したか?

じゃあ、さっそくリム村へ連れていってくれるんだな」


「あぁ、大満足だ!連れて行くのはいいが

俺がステーキを食ったことは、カイチには内緒にしてくれよ!」


「あぁ分かっているから安心しろ」


「満腹だ……」

アンズーが眠そうに呟いた。


「満腹っておい。そんな状態ですぐに飛べるのか?

途中で吐き出したりするなよ……?」


「大丈夫だ。……まあ、少し眠くはなるが、吐いたりはしないぞ」

アンズーが堂々と言い切る。


「お前、そっちの方がよっぽど危ないだろ!」

アレンはすぐさま鋭いツッコミを入れたのだった。


食休みもそこそこに、アンズーは副庭の中央へと歩み出た。

満腹の腹を揺らしながらも、その足取りにはまだ余裕が感じられる。


「よし、アレン。しっかり掴まってろよ」


「おう、任せろ」

アレンがアンズーの傍らに立った。


アンズーはゆっくりと身体を沈め

アレンとセリオが乗るのを確認すると

畳まれていた大きな翼を広げていく。

風を孕んで羽ばたくたびに、地面の土が舞い上がった。


「行くぞ……!」

低く唸るような声とともに、アンズーが勢いよく駆け出し

後ろ足を強く踏み込む。


ドンッ、という重い音を立てて

巨体が一気に宙へと跳ね上がった。


「うおっ……!」

急激な浮遊感に、セリオが思わず声を上げる。


羽ばたきの風が、副庭の草を大きく波打たせた。

土埃と共に、アンズーの体はぐんぐんと高度を上げていく。


「食った直後だってのに、勢いだけは元気だな……!」

アレンが風に髪をなびかせながら

呆れ半分感心半分の声を漏らした。


「腹が満たされてる方が、むしろ力が出るんだよ!」

アンズーが翼を大きく一振りし、さらに加速する。


地上の景色が、みるみるうちに小さくなっていった。

魔獣園の建物が一緒に小さくなり

やがて木々の緑がひとつの絨毯のように広がっていく。


「リム村まで、まっすぐ飛ぶぞ!」


「頼んだ!」


午後の澄んだ空を、アンズーの影が一直線に切り裂いていく。

翼の先端から、白い雲がわずかに尾を引いて流れていった。


――しばらくして。


羽ばたきのリズムが、ふと緩やかになった。


「……ん……」

低く短い声とともに

アンズーの頭がわずかに前へと傾く。


「おい、アンズー?」

アレンが呼びかけるが、返事はない。


次の瞬間、大きな瞼がとろりと閉じた。


満腹のせいだろう

明らかに居眠りを始めている。


「おい……まさか」

アレンが声を上げた直後

アンズーの巨体が急降下を始めた。


「ちょっ……おい!寝てる場合か!」

アレンは慌てて身を乗り出すと

アンズーの立髪を思い切り掴んで引っ張った。


「ぐあっ!? なんだ!?」

アンズーが跳ねるように目を見開き、

翼を大きくばたつかせる。


その反動で、巨体が大きく上下に揺れた。


「寝てたぞ、お前!

満腹で眠いとか言ってたのは

本気だったのか!」

アレンは立髪を掴んだまま、声を荒げる。


「……すまん。

つい、まぶたが重くなってな」

アンズーが、バツの悪そうな声で呟いた。


「もう大丈夫だ。今度は寝ない」


「本当だな!途中で墜落されたら

たまったもんじゃないからな!」

アレンは胸を撫で下ろすように息を吐き

ようやく立髪から手を離した。


「死ぬかと思いました……」

後ろから、セリオの震える声が聞こえた。


「すまなかったな……」

アンズーが申し訳なさそうに謝る。


そして、大きく一度羽ばたくと、

再び高度を安定させた。


大空を切る巨大な影は

そのままリム村を目指して飛び続けた。


――――


やがて、家々が整然と並ぶ村の中央にある

広い場所が見えてきた。


アンズーはいつものようにゆっくりと旋回すると

その広場へ静かに降り立った。


「アレンさん、リム村は綺麗に整備されていて

とても住みやすそうですね〜」

セリオが、降り立った場所から村を見渡しながら

感心したように声を弾ませる。


「カイさんが来るまでは、ごく普通の村だったんだが……

今じゃフェルナ領の中でも、住みやすさでは

上の方だと思うぞ」

アレンは、少し誇らしげに胸を張った。


「それにしても……なんて大きな建物なんだ」

セリオが、村の中でもひと際大きな建物に目を向ける。


「アレンさん、あそこに見える

大きな建物は何なんですか?」


「あそこは建築資材の加工場だ。

ただ……残念なことに、今は作った資材の

ストックがいっぱいらしくてな。

ほとんど作業していないんだ……」

アレンの表情から、先ほどまでの誇らしさが消える。


「そうなんですか……。

確かに、空から見たときも

古そうな家はありませんでしたね」

セリオが、整然と並ぶ家々を眺めながら呟いた。


「そうなんだ。

村の外にも販路を広げていかないと駄目なんだが……

都会の連中は、田舎の大工を見下しているからなぁ〜

なかなか仕事を取るのも難しいんだ」

アレンは加工場へ視線を向けたまま、苦い表情を浮かべる。


「せっかく腕のいい大工がいても

村の中だけじゃ仕事に限界がある。

だから、大工だけでは食っていけないんだよ」


「……」

セリオは何も言わず、アレンの話に静かに耳を傾けていた。


――――


アレンは、自分の父親である村長に

園長からの話を伝えに家へと向かった。


「父さん、お久しぶりです。

みんな元気そうで、なによりです」

家族の元気な姿を見たアレンは

ほっとしたように微笑んだ。


「お前も元気そうで何よりだ。

それで、今日は何の用で来たんだ?」

父、ハロルドは、アレンの様子から

何かを察したように尋ねる。


「さすがですね……。

園長から、お願いがあるんです」

アレンが切り出す。


「ははは、園長からのお願いか……。

園長から頼まれたんじゃ、断れんな」

ハロルドは、楽しそうに笑った。


「父さん、これはこの村にとっても

願ってもない話だと思いますよ」

アレンが続ける。


「わかった、わかった。

その園長のお願いとやらを聞かせてくれ」

ハロルドは笑みを消し、真剣な表情でアレンを見つめた。


「はい」

アレンは姿勢を正し、父親ではなく

村長に向き合うように背筋を伸ばした。


これから話すのは父親への報告ではない。

村長である父に伝えるべき、大切な話だからだ。

なぜそうなったのかまで、きちんと説明する必要がある。


「先日、霧の山へ素材集めに向かったのですが……

白極の巨神が現れた影響で、山にいた弱い魔獣たちは

その地へ逃げ込んでいたらしくて……」

アレンが一つずつ状況を説明していく。


「そうか……。

それで、その魔獣たちは無事だったんだな?」

ハロルドが安堵したように尋ねた。


「はい。無事だったそうです」


「それなら良かった。

私たちも、みんなに助けてもらって今がある。

魔獣たちも、生き延びることができたのなら

それに越したことはない」

ハロルドは胸を撫で下ろすように、ゆっくりと息を吐いた。


「はい。ですが……」

アレンの表情が少し曇る。


「その地を守護する魔獣と

戦いになったみたいなんです。

そして、その戦いのあおりを受けて

昔からそこに住んでいたゴブリンたちの

家屋が破壊されたようです」


「……家屋が?」

ハロルドの表情が変わる。


「はい。

もちろん、こちらが壊したわけではありません。

守護者の力によって地割れが起こり

その影響で家屋が壊れてしまったそうです」

アレンは、父の反応を確かめるように

一度言葉を切ってから、そのまま話を続けた。


「守護者とは、すでに和解できています。

そこで、素材をもらうことと引き換えに

園長が建物の建築を請け負ったんです」

アレンが事情を説明する。


「なるほど……」

ハロルドは頷きながら、アレンの話に耳を傾けた。


「それで、園長から頼まれたのが

プレカット資材の調達と、大工の棟梁を

説得して連れてきてほしいということです」

アレンが本題を告げる。


「プレカット資材だけじゃなく

棟梁まで……確かにあれは棟梁が

おらんと素早く建てるのは無理じゃからな」


ハロルドは小さく呟き、加工場のことを

思い浮かべるように視線を落とした。


「そういうことか……」

ハロルドはしばらく考え込むと

やがて感心したように表情を緩めた。


「園長は魔獣たちだけじゃなく、

私たちのことまで考えてくれているんだな……。

本当に、よく考えておられる方だ」


窓の外では、まばゆい午後の太陽が巨大な加工場の

屋根を明るく照らし出していた。


それぞれの場所で動き出した歯車が

未来へと向かって確かな音を立て始める

――そんな新たな希望を乗せて。


第123話

とびきりの燃料と二つの救い

お読みいただきありがとうございます!


今回は、デュダイン編で発生した建築需要が

リム村側の視点でどう受け止められるかを

描いた回になりました。


アンズーのステーキのくだりは

緊張感の続く展開の中で

少し息抜きになる場面として書きました。

「カイチには内緒にしてくれ」という

アンズーとカイチの上下関係が垣間見える言葉です。

彼らの関係は大事にしたい部分です。


そして本題、リム村の抱える課題。

プレカット資材という優れた技術を持ちながら

それを活かす販路が乏しいという現実的な悩みは

これまであまり描いてこなかったリム村の一面です。


技術があっても、それを届ける先がなければ意味がない

——今回のデュダインでの依頼が、単なる建築の仕事以上に

村にとって「待ち望んでいた機会」になっていることを

表現したいと考えました。


アレンとハロルドの対話は、親子としてではなく

公的な立場としてのやり取りを意識して書いています。

この村がどんな背景を持ち、どんな課題を抱えているのか

この場面を通して少しでも伝わっていれば嬉しいです。


次回、いよいよ棟梁との交渉、領主への報告。


そしてデュダインとリム村を結ぶ

新たな協力関係が動き出します。

引き続きどうぞよろしくお願いします!

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