故郷での再会と、霧の向こうの真実 第117話
戦いの熱がまだ冷めやらぬ荒野に
静かな光が差し込んでいた。
「カイチ、アンズー、ヴォルン。……大丈夫か?
ポーションは残っているか?」
三人の傍らに膝をつき
園長が一人ずつ顔を覗き込む。
声には隠しきれない気遣いが滲んでいた。
「なんとか息はしているぞ……。
すまん、ポーションは使い果たした」
カイチが土埃にまみれたまま、か細い声を絞り出す。
眼光はまだ焦点が定まりきらないようだった。
「俺もだ……」
アンズーが消え入るように呟き
翼をだらりと地面に投げ出す。
先ほどまで空を切り裂いていた鷹の翼が
今はただの重い塊のように見えた。
「わしはもう動けんぞ……」
ヴォルンが大の字に寝転がったまま
荒い息だけを繰り返す。
その手には、まだ盾がしっかりと握られていた。
三人の姿を見て、園長は一瞬だけ目を細めた。
生きて帰ってきた。
それだけで、この瞬間は十分すぎるほどの成果だった。
「サン、アカネ。カイチたちの回復を頼む」
「「はい」」
「わかりました」
サンとアカネが、すぐさま駆け寄り
回復魔法を唱えた。
――――
ゴリムは少し離れた場所で、岩の上に腰を下ろし
自分の手のひらをじっと見つめていた。
ニコが隣に腰を下ろしながら、そっと尋ねる。
「ゴリムさん元気ないですね……」
「ニコ、ありがとうな……」
その声は、いつもの明るさとは違う
静かな重みを帯びていた。
「ゴリムさん。お父さん、お母さんに
会いに行かないんですか?」
ゴリムの表情が、わずかに曇った。
「今更、会いになんかいけないよ」
渋い顔で吐き出すように答える。
その視線は——かつて故郷と呼んでいた場所へと
向けられていた。
「そんなこと気にせずに、会いにいけばいいんだよ」
背中を軽く叩きながら、ザックが言った。
飾らない、まっすぐな一言だった。
「そうですよ、ゴリムさん」
ニコも力強く頷く。
しばらくの沈黙。
やがてゴリムは、何かを振り切るように
……小さく息を吐いた。
「俺が連れてってやるよ」
ガルドが、ゴリムの肩に手を置きながら言った。
多くを語らないその一言には
迷うゴリムの背中を押すだけの力があった。
「押さないでくれよ……わかったからさ」
ガルドの手のひらに背中を押され
ゴリムはとうとう観念したように
重い足を前へと踏み出した。
一歩、また一歩。まるで初めて歩く赤子のように
その足取りはぎこちなかった。
――――
見慣れた土の匂いが、鼻先を掠める。
集落に足を踏み入れると
そこにはいくつもの種族が肩を寄せ合うように
小さな部落を形成していた。
崩れかけた土壁。継ぎ接ぎだらけの屋根。
それでも確かに
――魔獣たちが暮らしている気配があった。
視線の先、ゴブリンの部落では
住民たちが黙々と瓦礫を運んでいた。
壊れた家の残骸を積み上げ
また一から積み直そうとしているのだろう。
「ゴリム、あそこにいるのが
お前の仲間じゃないのか?」
ガルドが指し示した先を見て
ゴリムの喉がひくりと動いた。
答える声が、出なかった。
それでも足は止まらなかった。
導かれるように、いや、引き寄せられるように
ゴリムは部落の中へと歩いていく。
瓦礫を運んでいたゴブリンたちの手が、ふと止まった。
一体、また一体と、視線がゴリムへと集まっていく。
沈黙が、満たした。
「お前……生きていたのか……?」
一体のゴブリンが、震える声を絞り出す。
その手からは、抱えていた瓦礫が
音を立てて地面に落ちた。
「兄さん、お久しぶりです」
ゴリムが、精一杯の平静を装って頭を下げる。
だが、その声はかすかに震えていた。
「なに気取ってんだよー」
兄と呼ばれたゴブリンの目に
みるみる涙が盛り上がった。
次の瞬間、その体はもう駆け出していた。
長年の時間も、離れていた距離もその一瞬で
すべて塗りつぶされてしまうかのようだった。
兄はそのまま両腕を大きく広げ
ゴリムの体に飛びつくようにして抱きついた。
「うわっ……」
ゴリムは受け止めきれず、一歩、二歩とよろめいた。
だがそれ以上に、胸の奥から込み上げてくるものがあった。
兄の肩越しに見える、変わり果てた集落。
崩れた家々。それでも確かに
あの頃と同じ匂いがした。土と、汗と、家族の匂い。
「馬鹿野郎……お前、生きてるなら
顔くらい見せに帰ってこいよ……!」
兄の声が震えている。
ゴリムの背中に回された腕に
これでもかというほどの力がこもった。
「……すみません」
それだけしか言えなかった。
言葉にしようとすると、喉の奥が熱く塞がってしまう。
ゴリムはゆっくりと、自分からも腕を回した。
兄の体は、記憶にあるよりも少し小さく感じた。
それでも、その温もりは何一つ変わっていなかった。
しばらくの間、二人はただそうして立ち尽くしていた。
周囲の瓦礫を運んでいたゴブリンたちも
いつの間にか手を止め
涙ぐみながらその光景を見守っていた。
「……戻ってきたのか、坊主」
年老いたゴブリンが一人
杖をつきながら近づいてくる。
その目にも、深い感慨が滲んでいた。
ゴリムは兄の肩から顔を上げ、震える声で頷いた。
「……はい。ただいま、帰りました」
その時だった。
「帰ってきた……?」
か細く、震える声が、集落の奥から聞こえてきた。
一同の視線が一斉にそちらへ向く。
粗末な小屋の入り口に
一人の女性ゴブリンが立っていた。
母親は、確かめるように何度も瞬きを繰り返し
それから両手で口元を覆った。
「本当に私の子なのね……!?
生きて……生きていてくれたのね……!」
よろめきながら駆け寄ってくるその足取りは
とても軽やかとは言えなかった。
それでも、止まることはなかった。
ゴリムは兄から離れ、母のもとへと駆け寄る。
膝から崩れ落ちそうになる母を
両腕でしっかりと支えた。
「ただいま……母さん」
「大きくなって……本当に、大きくなって……」
母親はゴリムの胸に顔を埋め
声を上げて泣き出した。
長年、行方の知れなかった息子の匂いを
確かめるように、何度もしがみついた。
そこへ、もう一つの人影が現れる。
小屋の陰から、ゆっくりと歩み出てきたのは
逞しい体躯の初老のゴブリンだった。
父だった。
多くを語らず、ただじっとゴリムを見つめている。
その目には、驚きと、安堵と複雑な色が浮かんでいた。
「……父さん」
ゴリムが、母を抱いたまま声をかける。
父は、しばらく無言のままだった。
やがて、大きく息を吐き
一歩、また一歩と近づいてくる。
「……馬鹿な息子だ」
低く、震えを堪えた声だった。
「好奇心一つで山を降りて、何年も姿を見せず……
心配で夜も眠れなかった日が、何度あったと思っている」
「……すみません」
「謝るな」
父の手が、ゴリムの肩に
そして母の肩に、そっと重なった。
「無事に、帰ってきてくれた。それだけで、十分だ」
父の一言に、母の嗚咽が一層大きくなった。
集落の空に、家族の再会を見守るような
静かな光が差し込んでいた。
その光景を、少し離れた場所からガルドが見つめていた。
体を丸めるようにして、静かに立って
母に縋りつくゴリム、それを支える父
涙を拭おうともしない兄。
誰も彼もが、長い年月の重みを
一気に取り戻そうとするかのように
抱き合っていた。
ガルドの目は、いつの間にか真っ赤に染まっていた。
拳を握りしめ、その拳で乱暴に目元を擦る。
それでも涙は止まらなかった。
しばらくの間、ガルドはただ黙って
その光景を見守り続けた。
誰も邪魔をしてはいけない
そんな空気がその場を満たしていた。
やがて、ゆっくりと踵を返すと
ガルドは大きく息を吸い込んだ。
「ゴリムー!みんなのところに戻るからなぁ〜。
ゆっくりして帰ってこいよー!」
精一杯の明るい声を張り上げ、片手を大きく振る。
それが、今のガルドにできる精一杯の気遣いだった。
背を向けて歩き出したその頬にも
まだ光るものが伝っていた。
――――
「園長、今いいですか?」
戻ってきたガルドが、神妙な顔で声をかけた。
目元にはまだ、うっすらと赤みが残っている。
「構わんぞ、なんだ?」
「今、ゴブリンの集落に行って来たんですが
建物の被害が酷いです……
なんとかしてやる事はできませんか?」
その声には、これまでにない切実さが滲んでいた。
園長はしばらく黙って考え込んだ。
「これから、デュダインにアイアン・デュークの
採取について交渉しようと思うんだが
お金での取引は難しいだろう……
それなら建物の建て替えを提案してみることにするが
ガルド、それでいいか?」
ガルドの表情が、一気に緩んだ。
「はい!ありがとうございます。
ゴリムも喜ぶと思います」
深く頭を下げるその声には、これまで押し殺していた
感情が溢れ出ているようだった。
園長は、周囲を見渡し、声をかけていく。
「カイチ、交渉に行くがついて来れるか?」
「大丈夫だ、ついて行くぞ」
カイチが単眼を光らせ、静かに頷いた。
「ヴォルンはどうする?」
「わしも行くぞ、黒曜石の情報も
欲しいからな」
ヴォルンが目を輝かせて答える。
「アンズーはどうする?」
「俺は、そういう事は苦手だから
ここで待っているぞ」
翼を畳んだまま、アンズーが肩をすくめた。
「クルツ、ニコ。交渉に行くぞ、
ついてこい!」
「はい」
園長の声に、二人が同時に頷いた。
「園長!私も連れていって下さい」
突然ワイズコボルトのフィグが声を上げる。
「そうだな、確かコボルトの姿も見かけたな
……フィグお前もついてこい」
園長が許可をした。
一行は、まだ夕暮れの余韻が残る空の下
再びデュダインの元へと足を向けた。
今度は戦いのためではない。
これからこの地で共に生きていくための
新たな一歩を踏み出すために。
――――
デュダインの交渉場所に向かうと
昼間の激闘の傷跡を残しながらも
今は静寂に包まれていた。
夕闇が紫色の帳を下ろし、周囲に立ち込める霧が
どこか厳かに一行を迎える。
「お前たちを疑ってすまなかった。
出来る限りお前たちの希望を叶えてやるが
我が一人で決めることはできんのだ……
すまんが種族長の許可が必要だ」
デュダインが申し訳なさそうに、大きな頭を垂れた。
「それは構わない。こちらとしても
ここに暮らす方々に迷惑をかけているので
償いをさせてもらうつもりだ」
園長が静かに応じる。
「まずは種族長を紹介させてくれ」
デュダインがそう言うと
霧の奥からゆっくりと一つの人影が現れた。
「こちらが――『妖精女王、ジョアン・ザ・ワッド』だ」
現れたのは、思いのほか小柄な人影だった。
翼を持ち、整った顔立ちに、優雅な立ち姿。
だが、その耳は丸みを帯びていた。
「妖精なのに耳が尖ってないんだ……」
ニコが小さな声で呟く。
「わたくしをエルフと一緒にしないでください。
わたくしたち妖精は、元々は天使です」
ジョアンが、鈴を転がすような声で
しかしどこか刺のある口調で応じた。
「天使……」
ニコが目を丸くする。
「そこのベヒモスも、元々は堕天使アザゼル。
この国の神の指示に従い、人間界に天界の秘密を教え
地上を乱した罪で、ラファエル様に討伐され
ここに幽閉されたのだ……」
「後に処刑され、ベヒモスとして生まれ変わり
己の行いによって追い詰められた魔獣たちを
救うため、以来ずっとこの地で尽くし続けている」
「わたくしたちは、こやつとの戦いに参加しなかった。
それだけのことで、妖精に変えられただけだ……
ここにいる妖精はみな、戦いを好まない者たちだ」
ジョアンの声には、長い年月に積もった苦さが滲んでいた。
(ラファエルも戦いでしか解決しようとしていない。
むしろここにいる妖精の方が正しいのではないか……)
ニコは心の中で天使に対しての違和感を感じていた。
「ベヒモスが堕天使アザゼル……」
カイチが呟いた。
「安心せい、ここには神の力は及ばん」
ジョアンがきっぱりと告げた。
「お前たちはこの国の神について
どこまで知っている?」
ジョアンが低く問いかける。
「この国の神は王を操り
魔獣を根絶しようとしている」
園長が、静かに、しかしはっきりと答えた。
「そうだ。戦いに必要な剣や盾
武器の作り方、金属加工、戦いの技術。
それらを教えたのは堕天使アザゼルだが
やつは操られたに過ぎん」
妖精女王――ジョアンが、そう言い切った。
「そうだったのか……」
園長が呟くように、その言葉を噛みしめた。
「わしたちドワーフは人間が武器を
作り始める以前から武器を作り続けてきた。
いつも親父から聞かされていたのは
『絶対に人間に作り方を教えるな』とな……」
神妙な顔で、ヴォルンが語った。
(人間には武器を与えず。
ドワーフが武器を作ることは否定しない)
ニコの天使に対する不信感は大きくなっていった。
「そうだ、それがラファエル様の考え方だ」
ジョアンが、静かに頷いた。
「今回はすまなかった。
わたくしは、お前たちが魔獣の保護に
尽力してくれていることを知っていながら
こやつを止めることができなかった……
ほんとうに申し訳なかった」
妖精女王が、深く頭を下げて謝罪した。
「頭を上げて下さい。
人が立ち入ることが許されないと知りながら
訪れたこちらが悪いので……」
園長が慌てたように言った。
「ジョアン様、紹介を続けてよろしいですか?」
デュダインが恐る恐る尋ねる。
「構わん、早くしなさい」
ジョアンが急かすように顎をしゃくった。
「そちらにいるのが『プーカ』だ」
デュダインの視線の先に、すらりとした人影が立っていた。
「エルフ……」
ニコが視線を向けた。
「そ奴は、エルフなどではない。
プーカよ、変身を解きなさい、お客様に失礼ですよ」
ジョアンが鋭く声を飛ばした。
「はい……」
しゅるり、と空気が揺らぐような気配とともに
その姿が崩れていく。
そこに現れたのは、小さな角と翼の生えた
猫のように愛らしい魔獣だった。
プーカが恥ずかしそうに頭を下げた。
「そちらにいるのが『ペック』だ。
滅んだ国の生き残りだ。
世界で、ここにいる二体しかおらん」
デュダインが静かに紹介する。
視線の先には、がっしりとした体躯の魔獣がいた。
ペックが鋭い視線で園長を見つめると
ゆっくりと会釈した。
「ドワーフに似てるが、少し小さいか。
それにしても手足が異様に大きいな……」
ヴォルンが興味深そうに、その姿を見つめた。
「そ奴はドワーフではない。
優れた石工技術があるが
美味い酒も作ることができる。
大したやつよ」
ジョアンが誇らしげに言う。
「「美味い酒……」」
園長とヴォルンが、示し合わせたように同時に呟いた。
「そちらにいるのが『レプラコーン』だ。
奴は小さな靴職人だ」
デュダインの言葉に合わせ
小柄な魔獣がちょこんと頭を下げた。
「わたくしの靴も、そ奴の手作りですよ」
ジョアンが、足元の小さな靴を
見せびらかすように言った。
「そこにいるのが『スィミア』だ。
温泉が大好きな魔獣だ」
デュダインの言葉に、ニコの目が輝いた。
「温泉……?
あの時の小さな魔獣に似てる」
ニコが記憶を手繰り寄せながら呟く。
「ニコさん、みなさんお久しぶりです」
スィミアの種族長が、丁寧に頭を下げた。
「やはりそうだったんですね。
こちらに避難していたんですか?」
ニコが身を乗り出すように尋ねる。
「はい、あそこにいては私たちは
白極の巨神の糧となるだけですから」
険しい顔で、スィミアの種族長が語った。
「確かにそうですね……
今はいなくなってますので、良かったら
また温泉に入りにきて下さいね」
ニコが柔らかく声をかける。
「はい、喜んで伺わせてもらいます」
「ここにいるのがゴブリンだ」
デュダインの紹介に
年老いたゴブリンが進み出た。
「我らの同胞が世話になったようで
心から感謝する」
ゴブリンの長が、深々と頭を下げた。
「頭を上げて下さい。
こちらこそ、お力を借りておりますので
……礼には及びません」
園長が慌てて頭を下げ返す。
「こちらにいるのがカンジュだ。
小さなリザードマンと言った方が
分かりやすいだろう」
デュダインの声に、小柄な魔獣が軽く頭を下げた。
「カンジュはブーメラン作りの名手なんですよ。
投げるのはあまり得意ではないようですが……」
ジョアンが苦笑いを浮かべながら付け加えた。
「最後にこちらがコボルトだ。
種族長の代表をしてもらっている」
デュダインの視線の先に
落ち着いた佇まいの魔獣が立っていた。
「私から種族長を代表して魔獣の方々に
感謝を述べたい。白極の巨神の討伐に
よって多くの魔獣の命が救われました
心からの感謝を申し上げます。
ありがとうございました」
コボルトの長が、ゆっくりと深く頭を下げ
感謝を述べた。
「私たちの戦いがみなさんの命を
救えたなら、私共にとって大変名誉なことです」
園長が真摯に応じる。
「息子よ、こちらにきなさい」
「はい、父さん」
コボルトの長の呼びかけに
フィグが返事をし、早足で歩み寄っていく。
「父さん……?」
園長が驚きの声を上げた。
「園長、私はゴリムさんと一緒で
この土地の出身なんです」
フィグが少し照れくさそうに言った。
「そうだったのか……」
園長がまじまじとフィグの顔を見つめる。
「私も外の世界への好奇心を抑えられず
家を飛び出したんです……
私は時々帰っていたので、人間の中にも
魔獣園のような方がいることを
父さんにはいつも伝えていました」
フィグが、父の隣で誇らしげに微笑んだ。
――――
「一通り紹介させてもらった。
今度はそちらの番だ」
デュダインが、静かに視線を園長たちへと向けた。
「そうだな……」
園長が一歩前に出て、居並ぶ種族長たちを見渡す。
「私はヴァルド。フェルナ魔獣園の園長を務めている。
ここにいるのは、その仲間たちだ」
「裁きの角。我がカイチだ」
「わしはヴォルンだ。原初のドワーフ、鍛冶師だ」
「クルツです。魔獣園で魔獣の世話と
訓練指導を任されています」
「ニコです。よろしくお願いします」
ニコが控えめに、しかしはっきりと頭を下げた。
「フィグのことは、もうご存じの通りだ」
園長がそう締めくくると
種族長たちの間にざわめきが広がった。
人間の中にも、こうして魔獣と肩を
並べて立つ者がいるという事実は
この地に暮らす者たちにとって
まだどこか信じがたいことなのだろう。
デュダインが、ゆっくりと頷いた。
「よくわかった。……では一つ一つ
きちんと話し合いたいので、そちらの希望を
改めて聞かせてください」
「ありがたい」
園長が深く頭を下げた。
夜の帳がすっかり降りた荒野に
無数の妖精の光がゆらゆらと漂っている。
静けさがこの地全体を優しく包み込んでいった。
それは、人間と魔獣が、この地で共に生きていくための
最初の一歩となる交渉の幕開けを見守っているようだった。
第117話
故郷での再会と、霧の向こうの真実
お読みいただきありがとうございます!
戦闘の激しさから一転、この回は
「再会」と「真実」の物語になりました。
ゴリムの帰郷シーンは
これまで彼が抱えてきた「故郷を離れた負い目」に
正面から向き合わせる場面として
特に丁寧に書きたいと思っていました。
家族それぞれの再会の仕方——兄の激しい感情表現
母の涙、父の不器用な優しさ——に違いを持たせることで
一つの家族の中にも様々な形の愛情があることを
表現できていたら嬉しいです。
そして交渉前の種族長の紹介
ここでは、この物語世界の神話的な背景に
大きく踏み込みました。
堕天使アザゼル、妖精たちの正体、そして武器技術の起源
——これまで積み重ねてきた「剣術」「盾修行」「鍛冶」の
エピソードが実はこの大きな歴史の一部だったという構造を
ここでようやく明かすことができました。
フィグとコボルトの長の親子関係も
ゴリムの物語と呼応させる形で描きたかった部分です。
故郷を離れた者たちが、それぞれのやり方で
繋がりを保ち続けている——そんな温かい繰り返しを
この地全体に感じていただけたら幸いです。
次回、いよいよ本格的な交渉が始まります
どうぞ引き続きよろしくお願いします!




