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【現役料理人が執筆】名を呼ばれた日、進化が始まった 〜召喚レッサーパンダの魔獣物語〜  作者: 幸辰


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ぎこちない収穫と手慣れた指導 第111話

昼食を終えた食堂には、まだ温かい空気が漂っていた。


空になった皿がひとつ、またひとつと下げられていく。

魔獣たちの多くはすでに席を立ち

思い思いに午後の日課へと散っていった。


窓から差し込む光が、少しずつ角度を変えていく。

厨房の片付けの音に重なるように、園長の声が響いた。


「ベイル、昼から盾の使い方を教えてやる。

副庭で待機しておけ、いいな」


「はい、よろしくお願いします」

ベイルが神妙な顔で返事をした。


「ザックは引き続きゴリムを頼む」

昼食を終えくつろいでいた二人に、園長が告げた。


「はい、わかりました」


「ヴァルド様、私は何をすれば良いのですか?」

カイルが不安そうな声で尋ねた。


「お前は、クルツの指示に従え」

園長がぶっきらぼうに答える。


「はい、わかりました」

カイルが頷いた。


「カイルさん、午後からは収穫班に同行して下さい」

クルツが指示を出した。


「収穫ですか……」

カイルが残念そうに呟いた。


「カイルさん、今日の収穫は青梗菜と生姜ですよ」

ニコが説明する。


「ニコさんは楽しそうですね……?」

カイルが不思議そうに尋ねた。


「僕は収穫は大好きですよ。

土の匂い、風の音、植物の緑に触れると

……癒されるじゃないですか」

笑顔で、ニコが理由を語った。


――――


まだ日も昇りきらぬ早朝、身支度を整える父の側に

小さな影が後をついて回っていた。


「父さん、今日は何を取りに行くの?」

8歳のカイルが楽しそうに聞いた。


「今日はスイカの収穫だぞ、ついて来るか?」

父のガイルが笑顔で応じる。


「うん、いきたーい」

カイルがぴょんと飛び上がった。


朝靄がうっすらと残る、ひんやりとした午前七時。

夏のまぶしい太陽が昇りきる前の静かな畑で

スイカの収穫が始まった。


「カイル、こっちに来てみな」

ガイルが手招きする。


「なになに?」

カイルが幼馴染のアレンと共に近づいてきた。


ガイルが一面に広がる大きな緑の葉をかき分けると

朝露をいっぱいに浴びてキラキラと輝く

ずっしりとした大玉スイカが姿を現した。


「わぁ〜!大きいー!」

カイルとアレンが驚きの声を上げる。


ガイルは完熟のサインを確かめるため

実の付け根にある細いツルに目をやった。

クルクルと巻いたヒゲが根元まで

茶色く枯れ上がっている。


「大丈夫そうだな」

ガイルが小さく頷いた。


「カイル、アレン、スイカの横腹を叩いてみな」


カイルとアレンがしゃがみ込み、手のひらで

ポンポンと叩いた。


ボンボンと、果肉がしっかりと詰まった

低く重たい心地よい音が畑に響いた。


「間違いないな」


「覚えときな、この音が完熟の合図だ」

ガイルが教え込むように言葉を重ねた。


ガイルがカイルにハサミを渡し

実のすぐ上にある太いツルを指差す。

「カイル、このツルを切ってくれ」


カイルは恐る恐る刃を当てた。

サクッと軽い手応えとともにツルが切れる。

その瞬間、みずみずしい青い香りがふわっと周囲に広がった。


カイルとアレンが両手でしっかりと

抱え上げるようにして持ち上げた。


ずっしりとした、見た目以上の見事な重みが腕に伝わってくる。


ひんやりとした川の水に浸かっていたかのように

朝のスイカの皮は驚くほど冷たくて滑らかだった。


カゴにそっと乗せられたスイカの表面には

朝日に照らされて、深い緑と黒の美しい縞模様が

くっきりと浮かび上がっていた。


太陽は真上に昇り

ジリジリとした夏の強い日差しが降り注ぎ始めた。


「みなさん、休憩時間です!しっかり塩水飲んで下さい。

カイさんが塩水飲まないと熱中症になるって教えてくれたでしょう」

リム村の農場長が指示を出した。


「はい」

収穫担当者たちが一斉に返事をし

用意しておいた塩水を飲み始める。


「これ以上畑にいると熱中症になってしまうな。

お昼ご飯に合わせて村へ戻るとするか」

空を見上げ、農場長が呟いた。


「みなさん、予定していたスイカの収穫が終わりましたので

道具の片付けが終わり次第、村に戻りたいと思います」


木製の小さな荷車の真ん中には

朝から夕方にかけて大事に集められた大玉のスイカたちが

お互いを支え合うように行儀よく並んでいる。


その隙間に座り込んだのは

すっかり泥だらけになった麦わら帽子の子供が二人。


一日中、広い畑を駆け回って手伝いをしてくれた

小さな主役たちだった。


「出発するぞ」

父親が荷車の取っ手を握り

ゆっくりと腰を落として引き始める。


ギィ……ギィ……と

使い込まれた車輪が心地よい音を立てて回り出した。


荷車がゴトゴトと揺れるたびに

子供たちの小さな体がスイカと一緒に小さく揺れる。


アレンは、自分のお尻より大きなスイカを

両手でしっかりと抱え込み

まるで宝物を守る守衛のようだった。


早起きしたカイルは

心地よい揺れと夕方の涼しい風に吹かれて

すでにトロンと眠たそうな目をしている。


荷車の車列が畑の未舗装の道を抜けると

目の前に村へと続く一本のあぜ道がまっすぐに伸びていた。


行く先からは、家々の煙突から立ち上る昼食の煙が見え

どこか香ばしい匂いが風に乗って運ばれてくる。


「今日のスイカは、きっと今までで一番甘いよ!」

父に向かって、カイルが元気な声を上げた。


荷車を引く父親が、嬉しそうに目を細める。

「カイル、今日は楽しかったか?」


「うん。僕、収穫大好きだよー!」

満面の笑みで、カイルが答えた。


真昼の陽炎が立つあぜ道を

荷車は村の家々を目指してゆっくりと進んでいった。


――――


「カイルさん、カイルさん。

もうすぐ集合時間ですよ、いきましょう」

ニコが声をかけた。


「はっはい、いきましょう」

我に返ったように、カイルが立ち上がった。


「みんな、揃ったか!」

アレンの声が飛んだ。


ニコとカイルが最後尾についた。


「はい、大丈夫です」

最後にニコとカイルが並んだのを確認し

オスロが返事をする。


「それでは出発だ」

合図とともに、アレンが歩き始めた。


しばらくすると、じりじりと照りつける夏の太陽が

ようやく真上から少し傾き始めた頃、一行は畑に到着した。


傾き始めた太陽の光を浴びて

チンゲンサイの艶やかな葉が青々と輝いていた。


地面に近づくと、株元がまるでミニチュアの花瓶のように

きゅっと締まった美しい曲線を描いて丸く太っている。


日中の強い光をたっぷりと浴びて

葉の中には今、エグみの抜けた旨味と栄養が

最高潮に蓄えられていた。


「みなさん、少し集まってください!」


午後一時過ぎ。じりじりと照りつける夏の太陽の下

アレンの力強い声が畑に響いた。


その右手には、四角い形状の収穫包丁が握られている。


「これからチンゲンサイの収穫に入るんだが

この暑さでは、一人で切って、持って、カゴに入れるを

やっているとあっという間にバテてしまうし

チンゲンサイも日差しでしおれてしまうから

二人一組で収穫してもらうぞ」


車輪がついた小さな作業用の台車に

ちょこんと腰を下ろし、オスロを指差し

アレンが声をかけた。

「オスロ、こっちに来てくれ」


「はい」

オスロがニッコリと笑い、指示に従う。


「俺たちがお手本を見せる。

俺が『切り取る人』、オスロが『集めてカゴに入れる人』だ」


「オスロ、これに座ってくれ」

アレンは立ち上がり、腰掛け車をオスロに譲った。


「はい」

オスロが腰掛け車に腰掛けた。


アレンが腰を落とし、丸々と太ったチンゲンサイの株元を

左手でそっと包み込む。

右手の収穫包丁の刃先を、土との境界線にすっと滑り込ませた。


「シャクッ!」

小気味よい音が響き、一瞬で株が切り離される。


アレンはそれを自分のすぐ右側にポンと綺麗に並べ

そのまま立ち上がらずに次の株へとリズミカルに進んでいった。


すかさず、腰掛け車に座ったオスロが足で地面を蹴って

ガラガラと車輪を転がし、ついていく。


座ったままなので腰への負担は少ない。


「オスロ、青梗菜の一番外側の汚れた葉を

剥がしてからコンテナに入れていってくれ」


「はい、わかりました」

オスロは並べられたチンゲンサイをパッと掴むと同時に

一番外側の汚れた葉を「パキッ、パキッ」と手際よくむき取り

腰掛け車の目の前にセットされたコンテナカゴへ美しく並べていく。


切り取られてからカゴに入るまで、わずか数秒の見事な連携だった。


「このように、切る人は前だけを見てどんどん進む!

集める人は腰掛け車を上手に滑らせながら

外葉をむいて素早くカゴへ! このリズムがつかめれば

体への負担も半分、速さは二倍になるぞ」


収穫包丁をサヤに収めながら立ち上がると

アレンは全員を見渡し声を上げた。

「水分補給はこまめに、お互い声を掛け合っていこう。

――それではみなさん、収穫開始してください!」


おーっ!という威勢のいい掛け声とともに

魔獣たちが一斉にお馴染みのペアを組み

腰掛け車をガラガラと引いて畑へと散っていった。


あちこちから「シャクッ、パキッ」というみずみずしい音が

夏空に響き渡り、活気あふれる収穫が一斉に始まった。


「カイルさん、僕が切り取りますので収穫お願いします」

ニコがカイルに声をかけた。


「はっはい」

カイルは目の前の腰掛け車に、ゆっくりと腰を下ろした。


「それじゃあ、いきますよ」

ニコが軽く息を吸い込んだ。


ニコは野菜包丁を構えると

目の前の丸々と太ったチンゲンサイへと一歩踏み出した。


「シャクッ!」

鋭い刃先が株元を完璧に捉え

みずみずしい音を立てて一瞬で切り離される。


ニコはそのまま、カイルのすぐ右側の地面へ

チンゲンサイを優しく並べ、立ち上がることなく

次の株へと前進していった。


「ニコ、上手くなったなぁ〜」

ニコとカイルの様子が気になり

近づいてきたアレンが声をかける。


「――っ、よし!」

カイルは小さく気合いを入れ

並べられたチンゲンサイへと手を伸ばした。


しかし、初めて触る採れたての株は

想像以上に葉が横に広がっていて

どこを掴めばいいのか戸惑ってしまう。


「ええと、一番外側の葉を……」

おそるおそる指先で葉を掴み、力を込めて引っ張ってみる。

水分をパンパンに含んだ茎は、思った以上に頑丈だった。


「……ぬぐぐ」

変なところに力が入ってしまい

肝心な外葉ではなく中の方の綺麗な葉を巻き込んで

一緒に引きちぎりそうになってしまう。


「あ、カイルさん、親指の腹で根元のギリギリを狙って

外側にパキッと倒すようにすると上手くいきますよ」

様子を見ていたアレンが、丁寧にコツを教えた。


カイルは言われた通りに意識し

根元に指を添えてグッと力を込め引っ張る。


「パキッ、パキッ」

今度は小気味よい音が響き

泥のついた外葉が綺麗にむけた。


中から現れた茎は、夏の強い光を反射して

深く青々と輝いている。


「できた……! あとは泥を払って……あわわ!」

嬉しさのあまり、慌てて根元の泥を払おうとしたカイルは

バランスを崩して体がぐらりと傾きかけた。


低い姿勢のまま、お尻の下にある「腰掛け車」を

どう扱えばいいのか分からず、足元がもつれてしまう。


車輪が土の上でガタッと不規則に跳ね

カイルは危うくコンテナカゴの上にひっくり返りそうになった。


「カイルさん、大丈夫ですか!?」

心配そうに、アレンが駆け寄る。


「だ、大丈夫です!

ちょっと車輪の動きにびっくりしてしまって……」

赤面しながら、カイルは慌てて体勢を立て直した。


座ったまま足で地面を蹴って進むという感覚が

初めての彼にはどうにも不慣れで

蹴り方が弱すぎて全く進まなかったり

逆に強く蹴りすぎて「ガラガラッ!」と

勢いよく進みすぎてニコの足元にぶつかりそうになったりと

カイルは完全に腰掛け車に振り回されていた。


それでも、数株をこなすうちに、カイルの動きからも

少しずつ無駄な力が抜けていった。

ニコが「シャクッ」と切り、カイルが「パキッ」とむいて

たどたどしくも「ガラガラ」と車輪を転がす。


二人の間に、少しずつではあるが

心地よい収穫のビートが刻まれ始めていた。


カイルが不器用に腰掛け車を滑らせるたびに

最初は空っぽだったコンテナの底が、少しずつ

しかし確実に鮮やかな緑色で埋め尽くされていく。


周囲を見渡せば、お馴染みのペアを組んだ

魔獣たちも大奮闘していた。


器用に収穫包丁を操る魔獣と

嬉しそうに腰掛け車を「ガラガラ」と

転がしながら野菜を集める魔獣。


畑のあちこちから

「シャクッ、パキッ、ガラガラ」という音が

幾重にも重なり合い、活気ある大合唱となって

夏空へ吸い込まれていった。


どれほど時間が経っただろうか。


気がつけば、畑の畝を彩っていた茶色い土のラインは

採れたてのチンゲンサイが山積みになった緑のコンテナの列へと

見事に塗り替えられていた。


額から流れる汗が目に入りそうになったその時

畑の端からアレンのよく通る声が響き渡った。

「よし、みんな! 一区切りついたから

ここで一度休憩にしよう!」


十三時過ぎから始まった怒涛の収穫から、約二時間。


その言葉を待っていたかのように、畑のあちこちで

「ガラガラ」……と腰掛け車の車輪が止まった。


「シャクッ、パキッ」と鳴り響いていた小気味よい音が

一斉に止み、張り詰めていた空気がふっと緩む。


「ふぅー、やっぱり真昼の日差しは効くねぇ!」

空を見上げ、シャーマンゴブリンのモルダが呟いた。


「でも、腰掛け車のおかげで腰は全然ラクですね」

ワイズコボルトのフィグが応じる。


魔獣たちは収穫包丁を安全にサヤへと収め

腰掛け車から立ち上がって、グッと大きく背伸びをした。


振り返れば、コンテナカゴが採れたてのみずみずしい

チンゲンサイで山積みになっている。


「さあ、みんな、あっちの日除け小屋へ移動しよう!」

アレンが指差しながら告げた。


アレンの先導で、一同は畑の隅に建てられた

簡易的な休憩所へと向かった。


太い丸太の柱に、乾燥させた麦わらや大きな葉を重ねて作った

素朴な屋根が乗っているだけの、壁のない開放的な場所。


直射日光を遮るだけで

通り抜ける風が驚くほど涼しく感じられる。


「はい、みんなしっかり水分補給してね!」

氷桶から取り出したのは

キンキンに冷えた麦茶が入った大きな水筒。

それと、アレンが朝のうちに収穫しておいた

冷たいトマトとキュウリだった。


「うわあ〜これ麦茶じゃないですか!」

ニコが興奮して声を上げた。


「ニコ、よくわかったな。

サンさんが、みんなの為に作ってくれたんだぞ」

自慢げに、アレンが教えてくれる。


「なんでアレンさんが自慢してるんですか……」

ニコが突っ込みを入れた。


「俺も手伝ったんだから、自慢してもいいだろ」

アレンが笑顔で言い返す。


魔獣たちは、冷たい麦茶をごくごくと喉に流し込み

みずみずしい夏野菜をガブリとかじると

体に溜まった熱がスーッと引いていった。


木陰の柔らかな木漏れ日の中で

冷たいお茶を片手に、前半の素晴らしい

チームワークを称え合う魔獣たち。


夏蝉の声を聞きながら、冷えた体と心地よい達成感が

次の後半戦への元気を静かに蓄えさせてくれた。


――――


後半の収穫が終わり、二度目の休憩が終わりを迎えた頃

アレンが次の収穫指示を告げた。


「よし、チンゲンサイはこれで全部片付いたから

次は、生姜の収穫にいくぞ!」


日除け小屋での心地よい休憩を終え

気力も体力も回復した魔獣たちに

アレンの指示が響き渡る。


魔獣たちは、隣にある広大な生姜の畝へと移動を始めた。


太陽が大きく西に傾き

畑に長い影が伸び始めた午後五時過ぎ。

日中の刺すような熱気が和らぎ

夕方の涼しい風が畑を吹き抜けている。


アレンは全員を見渡すと

いつになく真剣な表情で声を張り上げた。

「みんな、静かに! 今回の生姜の収穫は

農場長が直接指導してくれることになった」


「生姜はデリケートな根菜だ。

農場長が忙しい中、指導してくれるんだから

農場長の話を最初から最後まで

一言も聞き漏らさないように聞くように!」


アレンの言葉に、畑の空気がピシッと引き締まった。


カイルが驚いて視線を向けると

畝の先から、日に焼けた屈強な体躯に

鋭い眼光を宿した初老の男――農場長のローデリックが

一丁の大きな掘り起こし用の万能鍬を肩に担いで

ゆっくりと歩いてやって来た。


魔獣たちは、静かにその場に座り込んで耳を傾ける。


「うむ。みんなよく集まってくれた」

重厚な声で言うと、ローデリックは

ニコの背丈ほどもある立派な緑の葉をそっと撫でた。


夕風に吹かれてサワサワと音を立てる葉の先は

ところどころ黄色く枯れ始めていた。


「いいか、生姜は地中で育つデリケートな根菜だ。

チンゲンサイの時のように炎天下に収穫すれば

実が一気に熱を持って傷んでしまう」


「かと言って、朝露で土が濡れている時間にやれば

泥がべっとりついて病気や腐敗の原因になる」


「だからこそ、土が適度に乾いていて

実が熱を持たないこの夕方の時間に

一気に勝負をかける。これが鉄則だ」


担いでいた万能鍬を地面に下ろし

ローデリックは魔獣たちの前に立ち

丁寧に説明した。


「生姜の収穫も二人組で収穫していくが

腰掛け車は使わん。まず、前衛が万能鍬で

株の周りの土を大きく揺らして

地中の生姜を浮かせる」


「そして、すぐ後ろの後衛が

浮いた株の根元を両手で持って真上に引き抜くんだ。

土が乾いている今なら、手作業でもきれいに抜ける」


「……よし、アレン、オスロ。

お前たち二人でみんなに見本を見せてみろ」


「はいっ、お任せください!」

「はい、農場長!」

指名されたアレンと、オスロが小走りで前へ出た。


アレンが万能鍬を構え

オスロがその後ろでグッと足を踏ん張る。


カイルや魔獣たちの視線が、二人の手元に集中した。


「それじゃあオスロ、いくぞ。せーの……」

株から少し離れた場所に「ザクッ」と万能鍬を突き刺し

アレンがテコの原理でグッと腕に力を込める。


「ザザッ」という鈍い地響きのような音とともに

生姜の周りの乾いた土が大きく盛り上がり

地中の巨大な塊がわずかに浮き上がった。


「オスロ今だ、抜け!」

アレンの鋭い声が飛ぶ。


すかさずオスロは身をかがめ

数本に分かれて伸びる太い茎の根元を

両手でがっしりと鷲掴みにし

大地の底から引きずり出すように

真上に向かって一気に力を込めて引き抜いた。


「――うんとこしょぉ!」

ズズズッという凄まじい手応えと共に

土の中から大きな生姜の塊が、一気に姿を現した。


何層にも重なり合い、夕日に照らされて

黄金色に輝く見事な新生姜の塊。


オスロは手際よく、根元に残った乾いた土を

パッパッと手で払ってみせた。


「うむ。アレンの万能鍬の入れ方も

オスロの引き抜きの角度も完璧だ。手際が良いな」

ローデリックの口元に、フッと満足げな笑みが浮かんだ。


掘り起こしたばかりの生姜の根元からは

生姜特有のあのツンとした爽やかでエキゾチックな香りが

夕暮れの涼しい風に乗ってふわっと畑いっぱいに広がった。


「よし、みんな!俺たちのお手本は見たな!

自分のペアと位置について、収穫を開始してくれ!」


誇らしげに胸を張りながら

アレンが威勢の良い大声を響かせた。


おーっ!という魔獣たちの歓声とともに

畑のあちこちで「ザクッ、ズズッ」という

豪快な土の音が鳴り響き、茜色の夏空の下

夕暮れの生姜収穫が活気よく始まった。


コボルトの一人が万能鍬を株の脇に「ザクッ」と突き刺し

体重をかけて土を揺らす。


「今だ!」


もう一人が両手で茎を掴み、真上に一気に引き上げる。


「ズポッ」と乾いた音とともに

大きな生姜の塊が土の中から姿を現した。


「よし、綺麗に抜けたな」

フィグが満足そうに頷き、周りの仲間たちを見渡した。

「みんな、この調子で頼む」


――――


少し離れた畝では

モルダがホブゴブリンの仲間たちを見守っていた。


「もっと腰を落として、じっくり揺らすんじゃ」

モルダがローデリックの言葉を

穏やかに伝える。


ホブゴブリンの一人が万能鍬を構え

モルダの言葉通りにゆっくりと土を揺らした。

「ザザッ」という音とともに、土が持ち上がる。


「今です!」


隣のホブゴブリンが根を掴み、真上に引き抜いた。


ズズズッという手応えとともに、生姜の塊が姿を現す。


「うむ、上出来じゃ」

モルダが目を細めて頷いた。

「長生きすれば、こういう瞬間にも巡り会えるもんじゃな」


――――


ニコとカイルの畝では、少し様子が違っていた。


「カイルさん、鍬はこのくらいの角度で大丈夫ですよ」

アレンが手本を見せながら言う。


「わかりました」

カイルが慎重に万能鍬を構え、株の脇に突き立てた。


「せーの……」


ザザッという音とともに、土が持ち上がる。


「ニコさん、今です!」

オスロが叫んだ。


ニコが両手でしっかりと根を掴み、真上に引き上げた。


「ズズズッ」という手応えとともに、生姜の塊が姿を現す。


「やりました……!」

カイルが安堵したように息を吐いた。


「カイルさん、鍬の入れ方すごく良かったですよ」

ニコが笑顔で言う。


「本当ですか?」

カイルが問い返す。


「ニコの言う通りだな、最初の頃とは全然違う」

アレンが頷いた。


「きっとこれが、ニコさんの言う収穫の楽しさなんだ……」

その言葉に、カイルは少しだけ胸を張った。


――――


畑のあちこちで、ザクッ、ズズッという音が絶えず響いていた。

前衛が土を揺らし、後衛が引き抜く。

そのリズムが、いくつものペアで少しずつ違う形を作りながら

生姜畑を賑やかに彩っていく。


コンテナには、掘り出されたばかりの新生姜が

次々と積み上げられていった。

土の匂いと、生姜特有の清涼な香りが混ざり合い

夕暮れの畑に満ちていく。


太陽が地平線に沈みかける頃

最後の一畝を終えたアレンが両手を叩いた。


「よし、これで生姜も全部片付いたぞ!」


「「「終わったー!」」」

魔獣たちから、疲れと達成感の入り混じった歓声が上がった。


「みんな、今日一日お疲れ様だった。

チンゲンサイに生姜、両方とも予定通りに

収穫できたのはお前たちのおかげだ」

コンテナに山積みになった作物を見渡しながら

ローデリックが言った。


「明日の食卓に、この生姜が並ぶと思うと楽しみですね」

ニコが隣のカイルに笑いかける。


「そうですね……」

カイルは、泥だらけの自分の手を見つめながら、小さく頷いた。


荷車に収穫物を積み終えると、一同は畑を後にした。


畦道に落ちる影が、少しずつ長く伸びていく。

西の空は茜色から紫へと溶けるように移ろっていた。


荷車の車輪がゴトゴトと音を立てるたびに

積み上げられたチンゲンサイと生姜が

かすかに擦れ合う音を立てた。


一日の疲れの中に、確かな充実感が滲んでいる帰り道だった。

第111話

ぎこちない収穫と手慣れた指導

お読みいただきありがとうございます。


今回は、カイルの少年時代の回想と

現在の収穫班での奮闘を並行して描く構成に挑戦しました。


騎士団出身のカイルが

土に触れる作業にどう向き合っていくのか

——単なる不慣れな新人としてではなく

実はかつて収穫の喜びを知っていた少年だったという

設定を軸に組み立てています。


父ガイルとのスイカ収穫の場面は

書いていて特に思い入れの強い部分でした。


完熟の合図を叩く音で覚える

ツルの枯れ方を見て判断する——こうした実際の農業の知恵を

8歳のカイルの目線で丁寧に描くことで単なる過去の一場面ではなく

今のカイルの中にまだ息づいている記憶として機能させたいと考えました。


農場長のローデリックの登場も、今回の見どころのひとつです。

生姜という繊細な根菜の扱い方を、理由立てて語らせることで

農場を預かる者としての説得力を持たせられたのではないかと思います。


そして、フィグとモルダ、それぞれの種族を率いる姿も

ぜひ注目していただきたい部分です。

同じ収穫という作業でも、指導のスタイルにそれぞれの

個性が滲み出るよう意識しました。


暑い一日の収穫を終え、夕暮れの中を帰路につく一同。


これからもフェルナ魔獣園での賑やかな日々を

お届けできればと思います。


どうぞ引き続き、よろしくお願いします!

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