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【現役料理人が執筆】名を呼ばれた日、進化が始まった 〜召喚レッサーパンダの魔獣物語〜  作者: 幸辰


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110/125

武芸の根幹と父の遺品 第110話

「クルツさん。朝食後の朝の修行なんですが

ゴリムに弓の指導をしたいので

少し遅れてもよろしいですか?」

朝食を終えたザックが申し出た。


「もちろん大丈夫ですよ……

こちらこそご迷惑をおかけしてすみません。

ゴリムのことよろしくお願いします」

クルツが申し訳なさそうに頭を下げた。


「ゴリム、ちょっといいか?」

ザックが話しかけた。


「なんだよ?ザック」

ゴリムが聞き返した。


「弓の修行なんだが……左利き用の弓が完成するまでは

今の右利き用の弓での修行はしない方がいいと思うんだ」

ザックは真剣な眼差しでゴリムに告げた。


「怪我をした右腕をさらに痛めるだけじゃない。

間違った構造の弓で無理に引けば

左利きとしての骨格のバランスまで歪んでしまう」


「俺は、早く弓を扱えるようになりたいんだ……」

ゴリムが真剣な顔で返した。


「そう慌てるな……一度ついた悪癖を抜くのは

新しく基本を覚えるより何倍も骨が折れるんだ。

だから、本番用の弓ができるまでは

弓を使わない別の修行をしてもらうぞ」

ザックがゴリムをなだめながら話した。


「弓を使わない修行……? そんなものがあるのか、

すぐに教えてくれ」

ゴリムが不思議そうに首を傾げると

すぐに立ち上がり、促すようにザックの背中を押した。


「わかったから、押すな。

……よし行こうぜ」

ザックがゴリムと並んで歩き出した。


「まって!僕も行きますよ〜」

ニコが走って後を追った。


副庭の隅にある弓の修行場所に着くと

ザックは足を止め、背筋をすっと伸ばして見せた。


騎士団の剣士として、数々の戦場をくぐり抜けてきた男の佇まいは

それだけで見る者を圧倒する気品と安定感に満ちている。


「弓の修練ってやつは、腕力だけで引くもんじゃない。

最も大事なのは、ブレない身体の軸と

心を平穏に保つ『呼吸法』、そして『精神統一』だ」

ザックが弓の極意について語り始めた。


「これは俺の本業である剣術にも深く通じる

武芸の根幹なんだ」

ザックはゴリムに向き直り、下腹のあたりを優しく指差した。


「まず、足を開いて大地にしっかりと根を張るように立つ。

そして、下腹、このあたりに意識を集中させるんだ」

ザックは『丹田(たんでん)』と呼ばれる場所を指し示した。


「鼻から静かに息を吸い、吸った時間の倍の長さをかけるつもりで

口から細く長く吐き出していく。やってみてくれ」


ゴリムは言われた通りに大きな身体を構え

静かにそして深く息を吸い込んだ。


サイレント・ウィスパーでの試練で習得した

――呼吸を沈め足音を消し、風を読む感覚が

ここでも発揮されたのだった。


「そうだ、上手い!息を吐き出すと同時に

さっき弦が腕に当たった時の恐怖や焦りの雑念を

すべて体外へ押し出すイメージを持つんだ。

精神を安定させるんだ、いいな」

ザックは言われたことを即座に実行したゴリムに

驚いたが……さらに指導を続けた。


「心が波立てば、どれほど至高の弓を使っても

矢は絶対に的へは届かない。

逆に、この呼吸で精神を統一できれば

どんな状況でも常に最高の射が放てるようになる」

ザックはゴリムの真剣な横顔を見て、満足そうに頷いた。


「弓ができるまでは、毎日この修行を続けてくれ。

地味に思えるかもしれないが、これが一番の近道だ。

……約束だぜ」


ゴリムは、まだジンジンと痛む右腕をさすりながら

ザックの教えを深く刻み込むように

「分かった、やってみる」と力強く答えた。


その隣で、ニコも二人の信頼関係が深まったことに

嬉しそうに微笑んでいた。


「それじゃあ、俺は自分の修行に戻るから

しっかりやれよ」

ザックが告げた。


「おー!ザックありがとな」

ゴリムが感謝した。


ザックが踵を返すと、ニコもその後をついていく。


「ニコ、アイツはなんなんだ……?」

剣の修行場へ向かいながら、ザックが不思議そうに問う。


「なんなんだとは?」

ニコが意味がわからず問い返す。


「アイツは俺が言ったことを、すぐに出来たんだよ……?

しかもアイツの呼吸法も精神統一も完璧だ。

俺が何年経っても到達出来ないレベルのことを

たった今、簡単な説明で完璧にやって見せた……?」

ザックが興奮気味に捲し立てた。


「あぁ〜そう言うことですか……」

ニコが理解した。


「そう言うことってなんだよー。

ニコ、焦らさないで早く教えろよ!」

ザックがイライラしながら急かした。


「ゴリムさんは大抵のことは見ただけで

すぐに出来るんですよ、器用と言うような

簡単なレベルの話じゃないんですよ……」

ニコが淡々と説明した。


「それでも、今回の指導は

器用で出来るようなことじゃないぞ」

ザックが納得できないように食い下がった。


「おそらく今回の呼吸法と精神統一は

サイレント・ウィスパーの捕獲修行で

身につけたことがいきているんだと思いますよ」

ニコが詳しく説明した。


「サイレント・ウィスパーの捕獲……?

そんなことができるのか?」

ザックが疑問を呈した。


「ゴリムさんはすぐ近くまで気づかれず

接近できると言ってましたよ」

ニコが伝えた。


「まじか……」

ザックが呆れたように呟いた。


「まじです」

ニコがきっぱりと頷いた。


ーーーー


「クルツさん、戻りました」

ザックが軽く頭を下げた。


「おかえり、まだ準備運動を終えたところだ

軽く準備運動から始めて下さい」

クルツが指示をした。


「こら!待てニコ、お前も準備運動だ」

しれっと戻って来たニコに、クルツが厳しく注意した。


「クルツさん、僕は準備運動はちゃんとやりましたよ」

ニコがきっぱりと主張した。


「ザックさん、ニコの言ってることはほんとですか?」

クルツが確認した。


「ほんとですよ、ニコは俺が教えている最中

ずっと準備運動してましたので」

ザックがフォローした。


「ニコ、無罪のようだな……

みんなに混ざっていいぞ」

クルツが考えを改めた。


ニコが修行に加わると、アカネが近づいて来た。

「ニコさん、これ読めますか?」


アカネが差し出した紙を受け取り、ニコは目を走らせた。

几帳面に整えられた文字が、細かく並んでいる。


「……読める。読めるようです……」

ニコが真剣な顔で呟いた。


「なんて書いてあるんですか?

母さんは、父さんが研究してたやつだって

言ってました」


ニコはしばらく黙ったまま、紙面を見つめ続けた。

太刀の持ち方『五輪書』の「水の巻」と書いてある

固定を嫌うとはどう言う意味だ……


(カイさん、こんなことまで調べてたんだ……)

今までのニコが知ったカイと言う人間の

行いとは真逆と言える知識の探究に

戸惑いを隠せなかった。


「ニコさん、ニコさん、読んでください」

アカネがしびれを切らし呼びかけた。


他の者たちも二人を囲み、様子を静かに見ている。


「すみません……みなさん、読み上げてみますので

何か気づくことがあれば、教えてもらえますか」

短く言い、ニコは最初の一行から口を開いた。

「まず、持ち方から」


「持ち方?」

アカネが首をかしげる。

「普通に握ればいいんじゃないの?」


「それが違うみたいですよ」

ニコがメモを読み上げる。

「親指と人差し指は力を入れない。

浮かすくらいの気持ちで持つ。

薬指と小指の二本でしっかり支える」


「……逆じゃないんですか?」

アカネが即座に反応した。


「逆に感じるんだと思う、最初は……」

ニコが剣を握り直し、確認しながら言った。


アカネも手に持つ木剣を、言われた通りに握り直した。


親指と人差し指を、意識して緩める。


薬指と小指を、じわりと締める。


「……なんか、不安定な感じがする」

アカネは剣を小刻みに震わせた。


「親指に力が入ると手首が固まる。

死んだ手になるって書いてあります」


「死んだ手」

ガルドが繰り返す。


「なんか怖い言葉だな」

クレイグが呟く。


「武蔵の言葉らしいですよ」

ニコが補足した。


「ムサシ……誰なんですか?」

アカネが尋ねた。


「宮本武蔵……異世界の剣豪です……」

自分の知る知識から、ニコが即座に答えた。


「……父さんの故郷の剣豪……」


アカネは少し黙ってから、もう一度握り直した。

薬指と小指。それだけで支える。

試しに手首をゆっくり動かすと

さっきより柔らかく動いた。


「……あっ、なんかさっきと違う」

アカネが驚きの声を上げる。


「このメモによるとそれが正しい持ち方らしいですよ」


「へえ」

クルツが覗き込んできた。

「薬指と小指か。初めて聞く理屈だな」


「合理的な気がします」

カイルが静かに言った。

「確かに、人差し指に力を入れると手首が固定される」


「俺はそんな細かいこと考えたことなかった」

ザックが頭を掻く。


「それがそのまま出てるんじゃないか」

ベイルが短く言った。


ザックは何も言い返せなかった。


ニコがメモをめくり、さらに読み進める。

『体の使い方』

「腕の力で振ろうとしない。体幹で振る」


アカネが眉を寄せる。「体幹って……?」


「武道における体幹ってやつは

ガチガチに踏ん張ることじゃありませんよ。

まず、足を開いて大地にしっかりと根を張るように立つ。

そして、下腹、このあたりに意識を集中させ

大地に深く根を張った『大木』のイメージです」

ゴリムに教えたことを、ザックがさらに詳しく説く。


「頭のてっぺんから股の間にまで一本の真っ直ぐな芯が通って

それが大地の力と繋がっているような意識でと書いてあります」

ニコがさらに説明を重ねた。


「体を正面に向けないで、半身にするといいですよ」

ザックが手本を見せた。


「半身……こう?」

アカネが体を斜めに向けると

ニコが少し考えてから頷いた。


「それで、後ろ足から腰、腕って順番に力を伝えてください。

肩や腕だけで振ろうとしないで、胸と背中の筋肉を

大きく使うように振ってください」


「……なんか難しいなぁ~」


「試しにやってみてください」


アカネは半身に構え、後ろ足に重心を乗せた。


踏み込みながら腰を回す。


腕は、あえて後から連動させる。


「ブン」と木剣が走った。


さっきより、力の抜け方が違う気がした。

「なんか……さっきより楽だった」


「それが体幹で振るってことですよ」


「片手でも力負けしないための姿勢だって

書いてあります」

ニコが読み上げた。

「体重移動で補う、と」


「理屈は分かったようだが」

クルツが腕を組む。

「アカネは繰り返しやってみないと

実感できないんだと思う」


「じゃあ、俺もやってみるか」

ガルドが端的に切り出した。


「俺たちには木剣は小さすぎるから

あまり練習にならんだろう……」

そう言いながらも、クレイグは隣でそっと半身に構え

踏み込んでみた。


思ったより綺麗な動きで

クレイグ自身が少し驚いた顔をしていた。


「なるほど……」

納得したように、クレイグが呟く。


ザックが隣に並び、同じように踏み込んだ。

胸を大きく開くように体幹を回す。

木剣がしなるように走る。


「……あー、なるほど」

面白そうに、ザックが言った。

「確かに肩で振るより、体がでかく使える感じがする」


「片手だと特にそうだ」

静かに、ベイルが続けた。

「両手なら腕の力で誤魔化せる、片手は誤魔化しが効かない分

体の使い方がそのまま出るからな」


「カイさんのメモにもそう書いています」

メモに目を落としたまま、ニコが言う。

「片手使いの弱点はパワー負けだそうです

それを補うのが体重移動と、胸背部の連動だ、って」


「胸背部」

クルツが繰り返した。

「……確かに、剣を受け止める時も

肩だけで止めようとすると流される。

胸と背中で壁を作る感覚がある」


「受けにも使えるのか」

ガルドが興味深そうに腕を組んだ。


「理屈は同じだと思う」

ベイルが答えた。


しばらく、それぞれが黙って試していた。


ベイルが大きく踏み込み、体幹ごと回転させるように木剣を振る。

重い風切り音が響いた。


「……重さの乗り方が変わる」

静かな確認だった。


クレイグも試みた。がっしりした体躯が半身から一気に回る。

木剣の先端が唸った。


「体が大きい分、これは有利かもしれない」

ぽつりと、クレイグが言った。


「父さん、ちゃんとわかってたんだな」

アカネがもう一度踏み込みながら、静かに言った。

「剣士でもないのに、どうして片手剣の理屈をここまで——」


答える者はいなかった…..


ニコはメモに目を落としたまま、次の行を読み始めた。


『切先返し』

「重い刀を腕の力ではなく

ムチのようにしならせて振るための技」


「『体を先に動かす』……」

ニコが小さく読み上げると、クルツが隣から覗き込んだ。

「次は、なんて書いてあるんだ?」


「刀の振り方……まず足を踏み出す。

刀は無理に持ち上げない、体だけ先に前に行く感じで

遅れて刀を振り抜き、ムチみたいにしならせる技だって

書いてます」

ニコが丁寧に説明した。


「ムチ?」 クルツが眉を上げる。


「難しそうだな」とガルドが腕を組む。


「面白そう」とクレイグが目を輝かせる。


クルツはすでにアカネの隣に立ち、木剣を握っていた。


「試せばわかるんじゃないか」

ガルドが言った。


「その通りだ」

クルツが肯定し、ぎこちなく木剣を振り抜く。


カイル、ザック、ベイルの三人は少し離れて立ち

みんなのやろうとしていることを観察していた。


「……なんだか副団長の動きに似てないか?」

ベイルが低く呟く。


「そうですね、確かに似てますね……」

カイルがぽつりと言った。


「……」

ザックは無言で観察していた。


「じゃあ、アカネさんも試してみて下さい」


ニコがもう一度メモを読み上げる。


「まず足を踏み出す。刀は無理に持ち上げない。

体だけ先に前に行く」


アカネは頷き、木剣を片手に構えた。


一歩、踏み出す。


「ぶん」と力任せに腕が振り出る。


「……違う、力で振った」

ニコが首を振る。


「もっと、体を先に。剣は後からついてくるイメージ」


「後からって……」 アカネが眉を寄せる。


「なんか、わかるような気がしてきた」

クルツが隣に並び、同じように一歩踏み出した。


腕の力を抜いたまま踏み込むと

木剣の先端が一瞬だけ遅れて

「ビューン」と弾けるように前に出た。


「あっ、今のです!」

ニコが言う。


「クルツさん、今のもう一回お願いします」

ニコが即座にお願いした。


「こんな感じか……」

もう一度。今度はさらに鋭く、木剣の先が唸った。


アカネが目を見開く。

「ちょっと待って、私より上手くない?」


「この動きって……僕が戦った時の

サイラスさんの動きそのものですよ」

ニコが確信をついた。


「俺も試していいですか?」

カイルが進み出た。


静かに構える。踏み込む。


一瞬の間。


「ぱん」と鋭い音が空気を打った。


「……なるほど」

カイルが静かに言う。

「手首の力を抜けば、先端が走るんだな」


「ずるい、最初からできてる」 アカネがぼやく。


「剣術の基礎と近い部分がある」

カイルは言った。

「だが片手でここまでの速度が出るとは思わなかった」


「俺も」とザックが前に出て

あっという間に同じ動きをやってみせた。

「へっ、簡単じゃん」


「簡単って言うな」 アカネが頬を膨らませる。


ベイルは少し考えてから、大きな手で木剣を握った。


踏み込んだ瞬間、「ブン」と鈍い風が起きた。


「……速さより、重さが乗る」 ベイルがゆっくり言う。


「この動きってサイラスさんに似てますね。

重戦士にも応用できそうですか?」

ニコが聞く。


「間違いなく副団長の動きだな。

応用はできると思うが……少し工夫がいると思う」

ベイルが肯定した。


ガルドが腕を組んだまま言った。

「俺の体格でやったら、受けた相手が吹っ飛ぶな」


クレイグがそっと木剣を握った。

真剣な顔で構える。踏み込む。


「バッシーン」

思いのほか鋭い音がして、クレイグ自身が一番驚いていた。


「……できた」


「クレイグさんもか!」

アカネが声を上げた——が

その声には、さっきまでの拗ねた響きはなかった。


「みんな、なんでそんなあっさり……」

ぼやきながらも、アカネは自分の木剣をまじまじと見つめる。

何かを確かめるような、真剣な目だった。


「アカネさんは非力な分、力が入り過ぎているんだと思いますよ」

ニコが静かに言う。

「それを抜く方が、実は一番難しいんです」


「……そういうものなの?」


「はい。だから焦らなくていいです」


アカネはしばらく黙って木剣を見つめていたが

やがてもう一度、静かに構え直した。


昼が近づいた頃。


「ビューン」

アカネはようやく、一度だけ

木剣の先端が風を切る感触を掴んだ。


「……あっ、それ」 ニコがすぐに言った。


アカネは息を整え、もう一度木剣を振り下ろした。


「ビュンッ!」

今度は、耳を澄ますまでもなく鋭い風切り音が響く。


誰もが言葉を失い、その場に立ち尽くしていた。


ただ、その一撃が放った澄んだ音が

初夏の気だるい空気を一瞬にして切り裂き

緊迫した静寂へと変えていく。


「……カイさん、アカネの為にすごいもの残してたんだなぁ~」

クルツが感慨深げに、しみじみと呟いた。


誰もそれに言葉を返す者はいない。


眩い陽光が差し込む副庭で

熱を帯びた午前中の修行が静かに終わりを告げた。


第110話

武芸の根幹と父の遺品

お読みいただきありがとうございます。


今回は、ゴリムの弓修行から始まり

カイの遺品のメモを通じた剣術修行へと繋がる

少し長めの回になりました。


前半のゴリムとザックのやり取りは

書いていて特に印象深い場面でした。

左利き用の弓が完成するまでの間

あえて弓を持たせず呼吸法と精神統一から鍛えるという

ザックの判断。

そしてそれをあっさりと体得してしまうゴリムに

ザック自身が一番驚いてしまう——という構図は

ゴリムのポテンシャルの底知れなさを改めて

感じてもらえたのではないかと思います。

サイレント・ウィスパーの捕獲修行が

こんな形で活きてくるとは、書いている私自身も

繋がった瞬間に少し興奮しました。


そして本編の中心は、やはりカイの遺したメモです。

眠っていたこのメモ。ニコの翻訳を通して

手の内の作り方から体幹の使い方、そして「切先返し」へと

少しずつその中身が明らかになっていきます。


カイル、ザック、ベイルの三人がそれぞれの視点で

メモの理屈を捉え直していく過程も

書いていて楽しい時間でした。


特に、彼らの動きがサイラスの剣筋に重なって見える

——という気づきは、この作品の中でも少し特別な意味を持つ

場面だったのではないかと思います。


そして終盤、アカネが一度だけ掴んだ「切先返し」の感触。

誰も言葉を発せないまま、澄んだ一撃の音だけが静寂を切り裂く

——あの場面は、今回一番書きたかった瞬間でした。


剣士ではなかったカイが、なぜここまで緻密に

この技を書き残していたのか。

その答えを、知ることはもう叶いませんが……


クルツの「アカネの為に」という一言に

カイという人物の輪郭が

また少しだけ浮かび上がったように思います。


この技がどう物語に繋がっていくのか

どうぞ楽しみにしていてください。

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